夫婦って、外側からはわからないものよね。ものすごく仲良さげにしているかと思えば離婚したり、逆にあっさりしすぎていて愛し合っているのか側からはわからない夫婦が、実は互いを思い合って添い遂げたりする。
今日ここに書くのは、うちの両親のこと。両親ともに昭和25年生まれ、ばっちり団塊ジュニアの世代よね。小さい頃は2人が同い年ってことが普通だと思っていたけど、この時代は男性が年上の場合が多かったみたい。両親が同い年はどうやら珍しかった時代のようね。
父と母が結婚したのは25歳の時。今で言えば「若くして結婚したね~」となるかもしれないけど、その頃と言ったら26歳になれば「ミスオーバー」と呼ばれたんですって。要は、行き遅れ。26歳で行き遅れなんて言われたら、たまったもんじゃないわよね? 今36歳の私はその時代だったらどう言われていたのかしら(苦笑)おっそろしー。
話がちょっとずれちゃったわね。
うちの両親は、なんだかんだで仲がいい。
父はと言えば、100%亭主関白。家事は全て母親まかせ。私と2個上の姉は何度か「誰が働いた金で生活してると思ってんだ!!」って、昭和丸出しの怒鳴られ方をしてたっけ。今ってこの言葉自体、言っちゃったら完全にひかれそうよね。とは言え私たちも昭和生まれなんだけど。
私たちが10代の頃はそれもまかり通っていた時代(今に比べればね)要領のよかった姉とは違い、多少の反抗期があった私は、いつも父と衝突していたの。さっきのような罵声を浴びせられる度に「はぁ? 別に頼んでないし」みたいな超~生意気なこと言っていました。(父よ、大変申し訳ございませんでした)
まぁそれも、私が実家を離れて上京してからはそれこそ「離れてわかる親のありがたみ」が身に沁みて身に沁みて、今は父とも母ともとても仲良しなんだけど。
でもね、家族みんなが大人になった今でも、私と姉には解せないものがあったの。それは、今年70歳を迎える2人が今でも、母だけが100%家事をこなしていたこと。
父がすることと言えば、食後に2人分の珈琲を淹れること。たったこれだけ。
これ大袈裟じゃなくよ? 父は一日中ソファに座って時代劇を見るかテレビ内蔵の麻雀で遊ぶか野球を見て過ごし、そのあいだ母だけが、せっせとせっせと洗濯物をしたり朝昼晩のご飯を作ったり、洗いものをしたり、アイロンをかけたりしていたの。
そんな父を姉と私が見逃すわけがない。父親にこれまでも何度も「お母さんももう体力なくなってきてるんだし、お父さんも少しは家のことやったら?」と言ってきたけど、父は全く聞く耳持たず。母も母で「これでお父さんが言うこと聞いたらおったまげ~!」とか笑っていたの。
は~夫婦ってすごい。夫婦ってわかんない! でもまぁ2人はすごいわ……とか思っていたら、今年のお正月に帰ったら、なんだか母がいつになく元気がない様子。その上なんだか、ぷんぷん怒ってる……? いつも笑っていて怒った姿や父親の悪口を言う母の姿をほぼ見たことがなかった私たち家族。そんな母が、こう言ったの。
母「お母さん、最近体力なくなってきたせいか、なにもしないお父さんに腹立ってきた……。ストレス、溜まってきた……」
こ、これは大事件……。
りか家にとっては本当に大事件だったの。いや、よくかれこれ45年間笑って過ごしていたな母! と私は思ったわよ? でもきっと、そのくらい母と父の立ち位置がうまくバランスとれていたってことよね。でも父が定年になって、両親ともに年を重ねて体力が落ちてきて、少ーしマイナーチェンジをする機会がきたってことなのよね、これって。
慌てて私と姉は父親に報告しにいったけど、まぁ親って、素直じゃないわよね(笑)特に娘の前では強がっていたいものなのかしら。その時は「お母さんは、まだまだやれる!」とか意味のわからないことを言って私たちに呆れられていたんだけど。
結局、両親への心配は解消しないまま、正月休みが終わり東京に戻ることになっちゃったの。でもね、しばらくたったある日、母親からこんなメールが。
母「お父さんすごいよ! あれから、なんかすごく手伝ってくれてるの。あなた達が帰ってからね、2人で少しそのことについて話をしたの。その時お母さん、「お父さんがいつも淹れてくれる珈琲が嬉しい。珈琲もおいしいけど、その優しさが嬉しい」って言ったんだよね。そしたらその翌日からまぁ、動いてくれること! あの言葉がお父さんの中で響いたのかはわかんないけど……。でも、あなた達がお父さんに伝えてくれなきゃ、ここまで変わらなかったと思う。ありがとう」
まさかのどんでん返し。あの父親が……。あの父親が……。よっぽどびびったのでしょう。そして、よっぽど母の言葉が嬉しかったんでしょう。
ほっと胸を撫で下ろした私は父親に電話。「お父さん……すごいじゃん!」と話したら、調子のいい父親は「いや~1回手伝っちゃうとこれが普通になるから困るな~♪ 珈琲のときみたく、これが自分の役目みたいになっちゃうな~♪」
なーんだ。やっぱり、母の言葉が嬉しかったんじゃない。
いつからか始まっていた、父が珈琲を淹れるという2人のルール。この珈琲が、実はずーっと2人を紡いでくれていたのかもね。

