ついにあの町から、私たち以外の離婚夫婦が出てしまった。最近は結婚や出産の報告ラッシュで、私も幸せのおすそ分けをさせてもらってたんだけど……。
今回離婚した夫婦というのは、私が18歳から33歳まで暮らした町に暮らすご夫婦。その町が冒頭の「あの町」。
その町は、町全体が老若男女関わらずみんな優しく、そしてカフェ好き酒好きの多い町。いたる所にいろんな出会いが転がっていて、そこからカップルになって結婚するカップルも多い。実際、去年からその町に住むカップルの成婚率&夫婦の出産率が本当にすごかったんだから。
私自身、前の主人とはその町で出会った。もちろん男女間だけじゃなく、そこで私はかけがえのない友達とも出会えた。
その町で出会って結婚した夫婦は何組もいるんだけど、これまで離婚になったのは、私達のみ。むしろそれでよかったし、誰もあとには続いてほしくなかった。
でも、誰と誰が別れたっていう類の噂ってすぐ回るのよね。昨日、久しぶりに私がその町へ遊びに行き、お気に入りのカフェで最近知り合ったその町に住む女子と話していたとき、その子が嬉しそうに切り出した。
女子「りかさん知ってる?なんか噂好きのおばちゃんみたいでちょっとやだけど、ひとまずこっちの町の近況報告。ついにりかさん以外にも出ちゃったよ、離婚組」
りか「マジで……。誰か全然想像つかないんだけど……」
女子「当ててみて!」
失礼ながらも、もしかしてあの夫婦かな?という予想ができてしまった夫婦たちを片っ端から挙げていったけどそのどれもが外れ。
りか「いやもう私が知ってる夫婦いないって(苦笑)」
となった所、
女子「絶対にありえないって思ってる夫婦を挙げてみてよ?」
とちょっと意地悪な表情をしたその子が言った瞬間、ある一組の夫婦が目に浮かんだの。その夫婦は、子供こそいないものの、町一番の仲良しと言われているラブラブな夫婦。
いや、まさかね。と思いながらそのご夫婦たちの名前を挙げると……まさかのまさか。離婚したのは、そのふたりだった。
毎年夏には、ご主人が大型バスを貸し切って町の住人を海まで連れて行ってくれて、奥様は参加者全員のお昼ご飯や飲み物全て! 用意をしてくれた。美男美女、海が最高に似合うご夫婦だった。町で見かける時はいつもふたりは一緒だったし、間違いなくラブラブだった、はずなのに。なぜ?
離婚にいきつくまで。そして離婚してから。そのどちらも、あのストレスは半端ない。経験したことがあるだけに、あんなストレスはできれば他の人には味わってもらいたくなかった。
予想外の夫婦だったからこそ、なかなかのショックだったとともに、「ふたりは今、大丈夫かな」と心配にもなった。
でもそこで。その子が確証もないことを言い始めたの。
女子「まさか、あのふたりが離婚するなんてね。やっぱり何があるかわかんないよね。でも離婚の原因ってどっちにあるか知ってる? 私さぁ、見ちゃったんだよね。奥さんが夜、旦那さんじゃない人と手つないでるところ。あれはたぶんクロだよ。間違いなくクロだと思う。
ひどくないですか? 不倫ですよ? その現場を見た時は、見間違いかと思ったの。だってまさかあの奥さんがそんなことするわけないって思ったし。でもあのふたりが離婚したって聞いて、確信しちゃったんです。実は、りかさん以外にもこのこと言っちゃったんだけどまずかったかな。いや、まずくないよね。だって奥さんが悪いんだもん」
りか「ちょっと待って。それ、本当に確実なわけ?暗かったならわからないんじゃないの?もし間違いなかったとしても、それは今言いふらすことではないことくらいわかるでしょう。離婚の原因なんて、当人たちにしかわからないんだから。もし全然違う理由だったらどうするわけ?しかも人違いだったら?あなた責任とれるの?」
女子「そんな責めなくたっていいじゃないですか。りかさんがどう弁護したって不倫は不倫なんだから。だめはだめじゃん」
りか「それ、さすがに考え浅すぎるわよ。もう少し考えなって」
この子はね、旦那に不倫されたことがあるの。
だから、その夫婦と自分をちょっと重ね合わせてしまっているのかもしれないわね。
彼女がものすごく傷ついたことも知っているから、これ以上彼女を責めることはさすがにできなかったけど。(すでに彼女にとっては責められたって思ってはいるかもだけど)
でも、私、思うのよね。
「ひとまず外野は黙っとけ」ってね。
離婚なんていう超繊細な問題に、首を突っ込むこと自体がナンセンス。当人が周りのみんなに話したいなら聞けばいいけど、基本的に、事実はそのふたりだけが知っておけばいいこと。
ましてや今回の彼女のように、まだ決まったわけでもないことを知り合いに話すなんて言語道断。仮に自分が不倫で傷ついたことがあるにしても、それとこれとは関係ない。
「あの夫婦が離婚した」っていうニュース自体は、すぐ町には広まるでしょう。それは事実だから、しょうがない。
だけど、離婚の原因まで、私達が決めちゃいけない。
人の不幸は蜜の味とばかりにはしゃぐ彼女に正直ひいた。こういう大事な場面で、人はその人柄が出るのよね。私にとって、彼女は今後あまり会いたくない女になった。
もう少し、本当の意味で優しい人間だと思っていたけど、どうやら違ったのかと思うと悲しくなった。
離婚については、お世話になったご夫婦がいつか話す気になる日がくるなら、その時聞けばいいこと。むしろ別に、聞かなくたっていい。
みんなも、くれぐれも気を付けてね。
他人のことに首を突っ込むよりも、もっと大事なこと・ものは世の中実はものすごく溢れていることに早く気づいてちょうだい。
考えなしの言動が、間接的にでも誰かを傷つけているかもしれないってことを忘れないように。