死ぬほど暑かった夏も、8月を過ぎてだいぶ落ち着いてきたわね。一生続くのかしらこの暑さ……とか思ってたけど、やっぱり全然そんなことなかった。季節はどんどん巡っていくのね。
先週末、大学時代の友達の披露宴に出席した時のこと。暑いながらも秋の風を感じられるその日は、雲一つない快晴。新婦は見惚れるほどキレイだし、新郎も穏やかないい人そうだし、とーってもいい式だった。私が通されたテーブルの同席者は、全員同じ大学で一緒に日々を過ごした仲間たち。中には大学卒業以来に会う知り合いもいて、みんな大学時代に戻って話をしていたの。
大学を卒業して10数年。当たり前だけど、みんな色んな人生を生きてきたのよね。各国をずーっと旅していた自由人の子は気が付けば女社長になってバリバリ仕事をしていたし、大学のミスコンで1位に選ばれた超絶美人は3人の子供を持つ肝っ玉母さんになってたし、離婚で当時ボロボロだった子も、再婚して穏やかな日々を送っているようだった。
時間は平等に、全ての人にいろーんな変化を与えていくわね。
「や~いろいろ大変だったよ」と言いつつ、みんながみんないい表情。それまでに色んな苦労もあっただろうけど、だからこその今。「なんだかんだで、うちらも大人になったね」とか話していたら、隣のテーブルからひと際甲高い声が聞こえてくる。
その子は大学時代、確か新婦と同じサークルだった子だった。昔からすごく元気がいい印象だったけど、今でもまだこんなに元気とは! そのパワフルさに敬服してたんだけど、聞こえてくるその子の話に、なんだか既視感を覚えたの。
「私ね! ずっと人生ずーっと最高に楽しいの!なになに? みんな結構大変だったんだね。憐れ~。大好きなカフェのバイトして、そこで正社員になって、そこで好きな人にも会って、結婚できて、今も毎日幸せ! 私の人生、最高!」
正面切ってそんなん言える人が羨ましい。でもなんとなく、なんとな〜くだけど、その言葉自体に違和感を覚えたのよね。それまで盛り上がっていたこちらのテーブル席もなんだかシーンと静まり返ってしまった。
あ~、この違和感。思い出した。
この子、大学時代も同じこと言ってたんだ。
そして、いつだったかその子と話していた時、面と向かって「私の人生最高! もう毎日が楽しすぎる!」って言われた時に、何故だかすごく焦ったんだった。
「私はそこそこ楽しいけど、この子のように堂々と言えるほどじゃない……」って、勝手に自分を否定されたような気になったのよね。
さっきまで「大変だったけど、その大変さがあったから、どうにかなんとか私も落ち着いてきたわ(苦笑)」って話していた私たちも、なんかそれ自体がダメなことみたいに、またしても感じてしまった。
人生ずーっと最高! なんて人、この世の中にいるのかしら。
もしその子がずっとそんな人生を歩んできているなら、前世神様かなにかだったのでしょう? でもそんなワケない。
つらさをつらさと思わずに生きている人だとしても、それもちょっと理解できない。だってそれってたぶん、周りに迷惑かけて生きてきてない? それに気づかずただ生きているだけな気がする。
ふと、そんなことを思ってしまって、彼女の方を見たら……。
なーんだ。ただのマウントか。
なにを興奮しているのかわからないけど、自分の「私って人生最高なの~!」って話を聞いて、うつむきがちになる友人たちを眺めて、目をカッと開いて鼻を膨らませてひたすら頷いてたの。
ただのマウント。ただの虚勢。
実はもしかしたら、彼女は今つらい日々を送っているのかもしれない。だからこそ、現実とは真逆の言葉を使うことでみんなに羨ましく思ってもらいたいのかもしれない。知らんけど。
別に「今私、すごくつらいの~」っていう必要もないと思うけど、真逆のことを言っているんだとしたら、そんな変なプライドなんて捨てた方がまし。「大変だったけど、今どうにかやってるよ」って言えるようになった子たちの方がよっぽど大人なんじゃないかしら。
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披露宴が終わってみんなが二次会のダイニングカフェに向かう途中、あろうことか彼女に声をかけられた。
虚勢女「りかだよね!? 大人っぽくなったね~おぼこかったのにね~! あれ? りか二次会行かないの?」
りか「私は披露宴までなんだ~。これから仕事の打合せなの。でも打合せ場所と二次会会場がめっちゃ近いから、途中までみんなと歩いていくよ」
虚勢女「え、こんな日に仕事なの!? うーわ大変。可哀想~。私なんて毎日幸せだよ~こういう日は旦那が“楽しんでおいで~”って全部家事してくれるから~。仕事に追い回されてるなんて憐れだね~」
出ました憐れ&幸せ自慢。こちらは冷静に爆弾投下することにしたの。
りか「え? 私、今の仕事なかなか好きなんだけど。自分がひーひー言いながら企画したプロジェクトがやっと形になりそうなの。本気でやってきたからきつかったけど、これからする打合せが緊張するけど楽しみでしょうがないんだよね。だから、仕事イコール憐れってなるのがちょっとわかんない。まぁでも、あなたはずっとつらいこともなく毎日幸せみたいだからなによりね。じゃーねー!」
自分の価値観を押し付けること。
幸せマウントで相手が”しゅん”と落ち込む姿を見て自己陶酔すること。
勝手にやっていればいいけど、そのときの相手の気持ちも考えることね。まぁそれ以上に、逃げてないで自分の現状を見つめることを彼女にはしてほしいけど。
私がさっきの言葉を放った別れ際、彼女の顔がひきつるのを視界の隅で見た気がした。
ざまーみそづけってんだ(古すぎる)