子供連れが集まる街ってあるわよね。
この前、同じ地元の友達と映画を観にいったんだけど、その街がまさにそんな感じでね。家族が遊びに来る街を想定して作られたその街の週末は、まぁものすごかった。
どこもかしこも子供連れ。というかベビーカーの数がすごい。
私は結構子供好きだから、別になんのストレスにもならなかったんだけど、一緒にいた友達はその街にすいた途端、どんどんどんどん無口になったいったの。
あ~、子供苦手なのね。
って思ってたんだけど。あとから聞いたその理由は全く別のものだった。
映画を観終わって食事して、カフェに入ってコーヒー飲んでる時に、ふとその子が口にした言葉に、私は最初驚きすぎて、5秒くらいフリーズしてしまった。
「ねぇ、りか。私、先週、子供堕ろしたの」
こういう時って、言葉は本当に無力。なんの言葉も出てこなければ、気の利いたセリフも出てきやしない。
「な、なにがあった?」
私がその子へ向けた最初の言葉。情けなすぎたけど、そんな言葉しか、出てこなかった。


彼女には、付き合って半年くらいの年下の彼氏がいる。
年齢で言えば、互いに結婚適齢期。
私も何度かその彼に会ったことがあるんだけど、仕事をバリバリこなす好青年って感じだった。仲もすごく良くて、見ててこっちが照れるくらいにラブラブ。
結婚の話も少しずつ出始めたところ(と聞いていた)こりゃ結婚は時間の問題だなって思っていた矢先の出来事だったの。
子供の父親はもちろんその彼。妊娠が分かった時、彼女は嬉しかったそうなの。順番は逆になってしまったけど、きっと彼なら喜んでくれる。「彼はどんな顔するかな♪」妊娠を聞いた時の彼の反応を想像しながら、報告をしたそうなの。
彼がその事実を知った時の反応は、彼女が想像していたものとは真逆だった。どんどん青ざめていき、唇まで真っ青。そしてしばしの沈黙。
やっと彼の口から出た言葉は、信じられないものだった。
「ごめん。堕ろしてほしい。結婚するつもりは、ない」
どういうことかと彼女が聞いたら、実は彼にはもう一人彼女がいたらしい。
そして先日その彼女の妊娠が発覚し、結婚すると約束してしまったそう……。今話をしている彼女には、近々別れを切り出すつもりだったとのこと。そのもう一人の彼女は実は浮気相手で(ほんとのところは謎だけど)でも、もう堕ろすことはできないところまでお腹の赤ちゃんは育ってしまっている。だからもうお前のほうを堕ろしてもらうしかない、とのこと。
「で、堕ろしたの。私の方を。」
今度こそ、なんの言葉も出てこなかった。ただただ、2人で泣いた。
命をなんだと思ってる? お前は堕ろせる時期だから、相手はもう堕ろせない時期だから? どっちにしたって、1つの命をないものにしたってことは同じこと。そしてそれを感じたくなくても感じなければならないのは、紛れもなく彼女の体と彼女の心。
そんなやつと結婚しなくて良かったとは思う。でも、彼女に残るキズは一生消えない。思い出す日は少しずつ減っていっても、一生忘れることは出来ない鎖が一つ、出来てしまった。
「ごめんね。この街赤ちゃん多いじゃん? ちょっと、さすがにまだきつくてさ。」
無理に笑いながら彼女は言う。悔しいのか悲しいのかわからない涙がまた、頬を伝う。
私は妊娠したことがない。だから、子供を産む喜びも、子供を失う絶望感もまだ味わったことが、ない。。。
目の前にいる彼女の無念さや怒りや悲しさ。
果たしてどのくらいわかるかと言ったら、きっと1ミリもわかっていないのかもしれない。でも、私は私で、大事な友達がその男によって傷ついていること、泣いていること、苦しんでいること自体が悲しくて、とてつもなく悔しくて、どうしても涙が止まらなかった。
そいつ、そっくりそのまま地獄に堕ちろと思っても、浮気相手のお腹にいる赤ちゃんにはなんの罪もない。だからこそ、悔しい。
「彼女はきっと大丈夫」なんて言えるわけがない。大丈夫なわけがない。
だけど現実って相当厳しい。彼女はこれからも、生きていく。辛い記憶が甦る日も、歯を食いしばって生きていかなくちゃいけない。99%悪いのはそいつだけど、避妊しなかった自分のことも、しっかり受け止めなければいけない。
「りかには怒られると思ったよ(笑)でもだから、言えた。これから辛くなった時は、連絡してもい?」
もちろんじゃない。いつだって、駆けつけるわ。
辛い記憶が甦る日はいつだって会いに行くから。もちろん、そうじゃない日だって飲み明かそう。
友達には、いつだって甘えていいのよ。
もし今あなたが1人でどうしようもない気持ちを抱え込んでいるなら。そして、もう抱えきれなそうなら。勇気をだして、信頼できる誰かに連絡してみて。泣きながらも、向かいに誰かがいたら「泣き笑い」に変わるくらいの余裕は少し、出るかもしれないから。
かっこ悪くても情けなくても、無様でもなんでもいい。
生きていきましょう。