皆さんは「春」といったら何を思い浮かべますか?
卒業、就職、桜、引っ越し等々、人によって思い浮かべるものはさまざまだと思います。
我々コーヒー屋にとって「春」といえば、もちろん中米の収穫期!
(皆さん必ずそうだとは限りませんが……)
コーヒーの収穫時期は地域によって違うのですが、当店が多く取り扱っている中米系のコーヒーは、だいたい12月から翌4月あたりまでが収穫期になります。
この時期になると、世界各国のコーヒー屋さんが現地へ視察や買い付けにやってきます。私もその例に漏れず、3月下旬に視察に行ってきました。
過去二度の視察ではエルサルバドル、ニカラグア、コスタリカを訪れましたが、3度めの中米出張となる今回はグアテマラ、ホンジュラスの2カ国を訪問。
少し時間に余裕を持って各地をじっくり見て回ったことで、国ごとの生産環境の違いについても、これまで以上にしっかり学ぶことができました。
今回も含めた3度の現地訪問で各国のコーヒー豆の生産環境について気づいたこと、感じたことをご紹介していこうと思います。
わずか1時間の移動で別世界へ
2年前の出張ではニカラグアから訪問しました。
首都マナグアの空港に到着後すぐ農園へ向かったため、都市部のイメージはほとんど残っていないのですが、覚えている限り高いビルはひとつもなく、街の中心部を離れると民家がぽつぽつと建っている程度。
まだまだ開発の行き届いていない田舎の(というより原野に近い)風景でした。
そんな「超」がつくほど田舎にあるコーヒー農園ですから、道中は未舗装の道も多く、収穫した豆を処理する精製所も当然近くにありません。
精製所に近い農園でも車で数十分、遠かったり、道の状態が悪かったりすると精製所まで2時間近くかかることもあるそうです。
ニカラグアの主なコーヒー農園は、もっとも標高が高い地域でも1500~1600メートルほどのところにありますが、近年、高品質なスペシャルティコーヒーの多くは標高2000メートル付近の高所で作られているものが多く、土地的にも不利だなという印象を受けました。
そんなニカラグアから隣国のコスタリカまでは飛行機で1時間ほど。
ニカラグアに比べると空港の雰囲気や都市部の街並みは洗練されていて、かなり都会的な印象。
幹線道路の両脇に大きなビルが建ち並ぶ様子は、アメリカ西海岸の都市に似ているという人もいるほどです。
今、コスタリカで流行している栽培環境は「マイクロミル」です。
小規模な精製所を農園の近くに構え、摘み取ったコーヒーの実をすぐに精製できるよう効率化が図られています。
また、標高2000メートルあたりまで舗装された道路が敷かれていて、移動や輸送もスムーズに行うことができます。
高品質なコーヒーを栽培するため、インフラ整備にもかなり力を入れているんだなぁ、ということが農園のそこかしこに見て取ることができました。
ニカラグアの状況と比べると、その差はちょっと衝撃的といってもいいかもしれません。
近代化著しいグアテマラのコーヒー生産現場
今回の出張では前回同様、もしかするとそれ以上の衝撃を受けました。
先に訪れたホンジュラスは全体にニカラグアとよく似た雰囲気で、スペシャルティコーヒーの生産現場としてはまだまだ発展途上という印象。
精製所や精製後の豆を乾燥させる設備もごく簡素なもので、今後もできる範囲で改良を続けていくという話でした。
地理的にはニカラグアより標高の高い地域が多く、その点コーヒー産地としてのポテンシャルは今後に期待が持てそうです。
後日、都市部のサンペドロスーラも訪れましたが、大きなビルなどは一切なく、倉庫や会社が点在している程度。商業の中心地と聞いていましたが、想像していたような都市とはまるで違うものでした。
ホンジュラスから飛行機で1時間。続いて訪れたのはグアテマラの首都グアテマラシティです。こちらはサンペドロスーラとはまったく違って街は活気にあふれ、いかにも都会という感じでした。
グアテマラでは各地からコーヒーが集まる農協を視察させてもらいましたが、何より驚いたのがその規模の大きさです。
コーヒー豆を保管するための専用の倉庫なのですが、規模がとにかく大きい。その巨大倉庫を埋め尽くさんばかりに出荷を待つコーヒー豆が山のように積まれています。
上の写真はその倉庫で撮ったものですが、人間の身長の3倍近い高さまでコーヒー豆が積み上げられているのがわかると思います。
品質向上のための設備投資にも相当に力を入れているようで、倉庫内には最新設備がズラリ。品質管理も徹底しているとのことでした。
単純にコーヒー豆の生産量はグアテマラよりホンジュラスのほうが多いのですが、環境面の整備はグアテマラのほうが一歩も二歩も、いや十歩も二十歩も進んでいて、まったく次元が違うという感じでした。
地理的にはそう遠くない場所で同じコーヒー豆を生産しているのに、国の違いでここまで生産現場に格差が生じてしまうものかと、今回の視察では改めて痛感させられました。
国の豊かさで変わるコーヒー豆の生産環境
ニカラグアとコスタリカ、そしてホンジュラスとグアテマラ、それぞれの国で体感したコーヒーの栽培・生産現場の「格差」は、各国の経済事情がそのまま影響しているものと考えられます。
とくに大きいのはインフラの充実度です。
中米各国はどの国もインフラ整備は十分とは言えません。しかし、そこにも格差があります。道路の舗装状況ひとつとっても国による違い明らかで、その差がコーヒーの生産環境にも直接影響しているのです。
国土の広さや気候、標高の違いなど、人の力ではどうにもできない部分もありますが、インフラ整備は人間が計画し、直接手を下す部分です。各国が同じように力を注げば、基本的にはそこで差は生じないはずです。
しかし、国によって経済事情は大きく異なるため、インフラへの投資が難しい国も存在します。インフラにどれだけ力やお金を注ぎ込むことができるか、それが今、そしてこれからの生産現場の発展に大きく影響しているわけです。
共通しているのはコーヒーへの熱意
このように、国によって生産現場の状況やシステムに「格差」はありますが、そうした中でもすべての国、農園に共通して感じられたのが、生産者のコーヒーに対するひたむきさと熱意です。
もっと品質を高めておいしいコーヒーを作りたい、スペシャルティコーヒーを作って生活をよくしたい、まだ見ぬ新たな風味を表現したいなど、目指すところはさまざまですが、皆さんが目標に向かって真剣に取り組んでいました。
こうした生産者の日々の努力がスペシャルティコーヒーの品質向上につながっているのです。
中には生産現場の状況がコーヒーの風味として表れているものもあります。これは良い悪いではなくそのコーヒーの個性となっているのです。
人間にも得手不得手があるように、その国の置かれた状況、そこで作られたコーヒーの個性を受け入れて、楽しむのがよいと思います。
中米は地図で見ると非常に狭い地域です。その中に大小さまざまな国があり、その国ごとに特色があります。スペシャルティコーヒーはその特色を感じられるコーヒーですので、ぜひそうした違いも楽しみながら味わってみてください。
ちょっと意識を変えることで、いつもの一杯もひと味違うおいしさに感じられるかもしれませんよ?