コーヒーの話題になると時折出てくるのが温度にまつわる話。
その多くは「抽出する時にちょうど良いお湯の温度は何℃か」という話ですが、なかには「熱いうちに飲んだ方が良い」とか「冷めると酸っぱくなる」など、飲み方に関する話も。
皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか? 今回はそんな温度にまつわる疑問を一気に整理してみたいと思います!
抽出する時の温度は、味が出る早さで考える
当店ではペーパードリップをメインで提供しているのですが、淹れていると「お湯の温度は何℃が良いんですか?」と質問されることがよくあります。
書籍やインターネットなどで見てみると、書く人によって抽出時のお湯の温度は微妙に違っているため混乱しがちですが、次のような考え方をすると意外にわかりやすくなります。
「コーヒーはお湯の温度が高いほど、味の成分が早く出てくる。低いほど出るのが遅い」
そもそもコーヒーの抽出というのは、コーヒー豆の中にある味の成分をお湯で溶かして取り出す作業です。
成分を溶かして抽出するわけですから、当然温度が高いほど溶け出すのが早く、低温だと遅くなるということです。
厳密には酸味や苦味など味の成分によって溶け出す温度が異なるようですが、残念ながらこのあたりはまだ明らかになっていません。
ただ、同じ時間で抽出した場合、より温度の高い方がコーヒー全体の成分量が増えるはずなので、味が濃くなるとは言えそうです。
常温の水で抽出する「水出しコーヒー」が何時間もかけて抽出を行うのもこうした理由からです。
抽出時の温度は「時間との兼ね合い」
では、上記を踏まえて抽出時の温度が味にどのように影響するか、例を挙げながら考えてみましょう。
今回は「使用する豆」「豆の量」「挽き目」「抽出量」はすべて同じとします。
【例1】90℃と80℃のお湯で3分かけて抽出した場合
お湯の温度以外の条件が同じ場合は、先ほど上で紹介したとおり、高温の方が味は濃く、または強く感じる結果となります。
90℃の方が味の成分が早く溶け出すため、味が濃くなるというわけです。80℃で抽出したほうが味はマイルドになる、とも言えるでしょう。
【例2】90℃のお湯で2分、または3分かけて抽出した場合
この場合、お湯の温度は同じなので成分の溶け出すペースもいっしょですが、お湯に接している時間が長くなると、それだけ全体の成分量が多くなると考えられます。
実際、短時間で抽出するとさっぱりした味わいに、長時間かけて抽出するとしっかりとした味になります。
お湯の温度が同じ場合は、抽出にかけた時間がそのまま味の濃さ(=成分量)に繋がっていると考えることができます。
このように抽出時の温度はそれだけを話すのは難しく、抽出にかける時間とセットで考えた方が分かりやすいのです。
最終的には、普段どおりの淹れ方で抽出に何分かけているかと、自分好みの濃さのバランスで、お湯の温度を考えるとわかりやすいと思います。
味は濃い目が好きだけど、抽出時間は1分半くらいだったら、お湯の温度は少し高めにする、といった具合ですね。
冷めてもおいしく飲める理由は?
次は飲むときの温度について考えてみましょう。
一般にコーヒーは淹れた直後の熱々の状態が一番おいしいと言われます。もちろんそれも間違ってはいないのですが、徐々に冷めていく過程でも違った風味を楽しむことができるんです。
温度が高い状態では「酸の質」や「香り」を強く感じられますが、冷めていくにつれて「コク」や「甘み」のほうが強くなってくるのです。
一方で、「冷めたコーヒーは酸化しておいしくない」という声もよく耳にします。
仮にこの説が正しい場合、元々のコーヒー豆の味とは関係なく、すべての豆で同様のことが起きるはずですが、冷めても普通においしく飲めるコーヒーも存在します。
どうやらこれには「豆の鮮度」が影響しているようです。
当店で扱っているコーヒー豆もそうですが、焙煎してすぐの豆は冷めてもおいしく飲めますが、焙煎後に常温で長期間放置していた豆はどのように抽出しても嫌な酸味が出てしまい、おいしく飲むことができません。
これは豆の段階ですでに劣化が進み、抽出時に劣化した成分が溶け出してくるからだと考えられます。この劣化した成分がコーヒーが冷めることでより強く感じられるようになる、ということなのかもしれません。
このように抽出後のコーヒーの温度変化によって、味や香りの感じ方も変わり、そのひとつひとつがより鮮明になることもあるのです。
興味を持たれた方は、ぜひ質と鮮度の良いコーヒー豆で試してみてください。
まとめ
今回は、コーヒーの温度にまつわる話をまとめてみました。
抽出時の温度だけでなく、飲むときの温度でもコーヒーはさまざまな表情を見せてくれます。
いつも同じ淹れ方、飲み方ではなく、あえて少し変えてみることで、新たな一面の発見や好みの味に出会えるかもしれませんよ。
とくに淹れ方は「これが正解」というものがありません。基本は温度と抽出時間の兼ね合いなので、自分の好みと相談しながら「ちょうどいい味」を探してみてください。