前回お話しさせていただいた国内のコーヒー需要の変遷からも分かるように、2nd WAVE後半~3rd WAVEにかけて、良質なコーヒーへのニーズが国・地域・農園による違いという、更に細分化したものへと進んでいきました。
その中で注目されている一つがシングルオリジンコーヒーというワードです。この記事を読んでくださっている皆さんの中にもこのワードを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?
今回はシングルオリジンコーヒーの特徴と、私が考えるブレンドコーヒーの可能性についてお話しさせていただきます。
目次
スペシャルティコーヒーとコマーシャルコーヒーの違い①
まずは、スペシャルティコーヒーと他のコーヒーについて簡単に説明してみます。もともとコーヒーが生産されている国は、基本的には赤道から南北緯25°の地域に集約されています。これは、コーヒーの生産に必要な気温(寒暖差)による標高、降雨量、土壌成分などが関係しているためです。
コーヒーを生産している国はそれぞれにコーヒーの輸出規格を持っていて、国ごとにその基準は違うのですが、概ね豆の大きさや、標高による区分けが一般的です。つまり、コーヒーそのものの品質による区分けはされていないんです。なので、基準に合致すれば、品質はともあれ下のグレードのものよりも高値で取引されるということです。
一方、スペシャルティコーヒーは品質そのものが評価基準のベースとなります。カッピングシートと呼ばれる味覚評価シートを使用し、100点満点中80点以上のスコアを獲得したコーヒーがスペシャルティコーヒーとして流通しています。各国で開催される品評会や、実際の仕入れ時には評価できる技能者(カッパー)が行うことが主です。
スペシャルティコーヒーとコマーシャルコーヒーの違い②
実際の買付け時にも、国の定めた基準と、カップクオリティに評価の差が生まれることがあります。アフリカでも人気の高いケニアを例に取ってみます。
ケニアの輸出規格は豆の大きさによって等級分けされています。最高ランクの等級が「AA」、その次が「AB」といった具合です。しかし、稀にカップサンプルを評価していると「AB」規格のものでも素晴らしい風味特性を持ったコーヒーがあります。こうした時はもちろん、カップクオリティを優先した買付け検討を行います。
スペシャルティコーヒーのもう一つの特徴は、トレサビリティが明確であるということです。国や地域はもちろん、どの農園のどの区域、標高や収穫時期などの詳細が分かる、まさしく生産者の顔が見えるコーヒーなんです。良いコーヒーには透明性のある取引をし、生産者に公正な評価をすることで、持続可能な良質なコーヒーを作り続けていただくというスペシャルティコーヒーの理念がここには反映されているとも言えます。
シングルオリジンコーヒーって何?
ここ数年で耳にすることも増えてきたシングルオリジンコーヒーというワード。ある一つの農園による同一ロット、同一品種から収穫されたコーヒーのことを指します。つまり、他の区域や栽培・精製方法の違うロットが混ざっていないコーヒーのことを意味します。農園主という「作り手」としての素材の最高傑作を楽しめるという魅力がシングルオリジンコーヒーには存在します。
ただし、シングルオリジンコーヒー = スペシャルティコーヒー というわけではありません。あくまで品質基準をクリアしたものだけをスペシャルティコーヒー、同一ロット/品種のものをシングルオリジンコーヒーと呼びます。
私たちも関係構築を図っている素晴らしい農園がありますので、また別の機会にお話しさせていただければと思います。
ブレンドコーヒーってどんなコーヒーなの?
コーヒー屋さんや豆販売店などに行くと必ずと言っていいほど目にするブレンドコーヒー。ブレンドコーヒーの特徴としては、そのお店の「顔」ともなる代表的な味が表現されることが多いと感じます。嗜好性の高いコーヒーですが、より多くの方々が楽しめる「味覚」を目指しているのではないでしょうか?
そもそもブレンドコーヒーとは複数の国や地域のコーヒーを使って味覚表現をしたコーヒーです。
コーヒーは果物や野菜と同じで、農作物です。つまりは気候環境に出来不出来が左右されるため、常に同じクオリティのコーヒーが生まれない可能性があります。もちろん、農園主の絶え間ない努力でこの懸念を日々克服しているのですが。
ブレンドコーヒーはこの収穫年ごとの味のバラツキをなくし、常に同じ味を提供するための技法とも言えます。シングルオリジンコーヒーが農園主(=作り手)の最高傑作であると同時に、ブレンドコーヒーはロースターやバリスタが新たな味を創り出せる素晴らしいコーヒーだと思います。
ブレンドコーヒーってスペシャルティコーヒーじゃないの?
お客様とお話しさせていただく中で、たまに次のようなご意見をいただくことがあります。
「ブレンドコーヒーってスペシャルティコーヒーじゃないの?」
「なんだ、ブレンドか。」
私はこんなご意見をいただくと少し残念に感じることがあります。
もちろん、ブレンドコーヒーの大部分はスペシャルティコーヒーを使用せず、価格を抑えるためだけに作られているコーヒーも多いと思います。そうしたことで、
シングルオリジンコーヒー > ブレンドコーヒー という認識が一般的かと思います。
しかし、私が考えるブレンドコーヒーには、「素晴らしいシングルオリジンコーヒー同士の相乗効果(シナジー)で新たな価値を提供する」というテーマがあります。そうして生まれるブレンドコーヒーももちろんシングルオリジンと同じようにスペシャルティコーヒーと考えることができると思います。
そもそもシングルオリジンとブレンドコーヒーは比較するものではなく、ブレンドコーヒーには下記のメリットがあると考えています。
① 【シングルオリジンコーヒー=一期一会の存在】であるのに対し、【ブレンドコーヒー=恒常的な存在】 として長くお客様に楽しんでいただける。
② 素晴らしいシングルオリジンコーヒーの魅力をより手に届きやすい価格帯で楽しんでいただく。
【まとめ】ブレンドコーヒーの楽しみ方
競技会の変遷と比例するようにスペシャルティコーヒーの価値もシングルオリジンコーヒーに注目が集まっている昨近。この流れ自体は、作り手である農園にスポットが当たり、より良いコーヒーをサスティナブルに生み出す循環になっており素晴らしいことです。
一方、ブレンドコーヒーにもまだまだ大きな可能性があるとも感じています。より良い品質を追い求めて創り出すブレンドコーヒーには、シングルオリジンコーヒーには出せない複雑性や相乗効果(シナジー)を表現することが出来ると、ブレンド開発の実体験を通して感じています。
ぜひ今度コーヒー屋さんに行く機会がありましたら、シングルオリジンコーヒーと一緒に、そのお店おすすめのブレンドコーヒーも試してみてください。ブレンドコーヒーだからこそ表現できる複雑性にハマってしまうかもしれませんよ。