皆さんはコーヒー豆を買うとき、何を基準に選んでいますか?
スペシャルティコーヒーを飲まれる方は、やはり産地や農園でしょうか。ブレンドがお好きな方なら、焙煎度合を見て選ばれることも多いかもしれません。
最近では「ゲイシャ」という希少な品種が注目を浴びたことで、「ゲイシャ」を指名買いされる方もいらっしゃるそうです。
そこで今回のコラムは、前回(Vol.27)でご紹介したコーヒーの品種の話からもう一歩踏み込んで、品種と焙煎の関係についてお話ししてみたいと思います。
焙煎士さんによって捉え方や考え方はさまざまなので、あくまでも当店なりの考え方ということになりますが、ひとつの基準として参考にしてみてください。
目次
焙煎度合が及ぼす風味の変化
まずは、焙煎度合によってコーヒー豆にどのような変化が現れるのかを簡単に説明します。
コーヒー豆は焙煎によって熱を加えることで色が変化していきます。浅煎りの豆は焙煎後の色が淡く、明るい茶色をしていますが、焙煎が深くなるほど黒色に近い色になっていきます。
また、焙煎によって風味も変化します。焙煎度合が浅いと酸味が強く、深煎りになるに従って、徐々に酸味に替わって苦味が強く感じられるようになるのです。
こうした変化はすべてのコーヒー豆に共通していて、最終的な風味は「生豆のポテンシャル+焙煎度合」で決まると言っても過言ではありません。
私も含め、コーヒー豆の焙煎に携わる人たちは、どの豆をどれくらい焙煎するか、いろいろな組み合わせを想像しながら焙煎と試飲をくり返し、それぞれが目指す味わいに近づけていきます。
ちなみに当店の焙煎スタイルは、全体のバランスが取れていて飲みやすいこと。それぞれの豆が持っている個性(酸や香り)をしっかりと感じられるような焙煎度合を選んでいます。
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穏やかさと甘みのティピカ
ティピカはアラビカ種の中でも原種に近く、上品さが印象的な品種です。風味のバランスがよく、甘みも感じられるため人気があります。
こういった原種に近い品種は、繊細で穏やかな印象のものが多く見られます。
当店では、ティピカ種を焙煎する際、基本的にはシティローストを選んでいます。
そこから少し浅煎りにすると酸が際立って明るい印象になりますし、深煎りにすることで苦味と相まって、甘みが強調された風味になっていきます。
この微妙な振れ幅の中で、どこに決めるかという判断がお店の個性になるわけです。
今、当店にはパナマとコロンビアのティピカがあり、パナマはちょっと明るい印象にしたいので少し浅めのシティローストに、コロンビアは甘みとコクを出すため、深めのシティローストにしています。
かなりマニアックな話ですが、このわずかな加減の違いでガラッと印象が変わってくるのがコーヒーの面白いところなのです。
大粒品種のパカマラは?
パカマラの特徴は、他の品種に比べると豆がかなり大粒なことです。
その大部分は穏やかでマイルドな印象ですが、一方で非常にしっかりとした個性を持つものもあるため、豆自体のポテンシャルを測って焙煎する必要があります。
穏やかなタイプの豆は、先のティピカと同様の理由でシティローストを基準にしていますが、個性が強いタイプは、その個性に合わせて浅めのシティローストにすることもあります。
浅煎りにすることで、より個性が際立ってわかりやすくなる傾向があるのです。
当店では、豆の個性と飲みやすさのバランスの両立を目指しているので、個性が消えないギリギリのところで深煎りを狙うようにしています。
パカマラの場合は農園によって豆のポテンシャルもさまざまなので、その豆に合った焙煎度合をしっかり見極めることも重要なポイントです。
ケニアの個性をどう活かすかは店次第
ケニア産の豆はSL種(SL28やSL34)と呼ばれる品種がその多くを占めています。
SL種はフローラルな香りと柑橘系のキレのある酸、そのどちらも特徴として持っていて、焙煎度合を決める際はこの個性をどう活かすかを考える必要があります。
というのも、フローラルな香りはしっかり熱を加える(深煎りする)ことで引き出せますが、一方で焙煎度合が深くなると柑橘系の酸は消えてしまうのです。
キレのある酸を活かすのであれば、苦味を感じやすくなる中煎り以前のどこかで止める必要があるでしょう。
当店では香りと飲みやすさを重視して、フルシティローストあたりのやや深煎りを意識した焙煎度合にしています。
酸は残しつつもあまり主張しない程度に留め、そのぶん香りをしっかりと引き出し、全体にバランスの取れた飲みやすさに仕上げるのが目標です。
ケニア産の豆は浅煎りから深煎りまで、幅広いレンジに対応でき、それぞれの焙煎度合でしっかり個性を発揮できるものが多いので、お店によってまったくキャラクターが異なるのも面白いところです。
いろいろな焙煎度合を選べるのは、それだけ豆のポテンシャルが高いということ。インドネシアのマンデリンも同様で、どちらも飲み比べが楽しいコーヒーと言えるでしょう。
ちなみに「マンデリン」という名前は品種名ではなく、スマトラ島で栽培されたアラビカ種の総称。いわばブランド名のようなものです。
マンデリンのスペシャルティコーヒーは、非常に個性の強いものが多く、当店では深煎りのフレンチローストにしています。
他のコーヒー豆の写真と比べてみると、豆の色がかなり黒っぽいのがわかると思います。
ここまで深煎りにしても、豆本来の個性は失われることはなく、全体のバランスもしっかりと取れているのがマンデリンの特長です。
もし、豆の個性をさらに強調したいのであれば、もっと浅煎りにしてみるのもよいでしょう。
最近話題のゲイシャはなぜ浅煎り?
それでは、最近よく聞くゲイシャはどうでしょうか。
ジャスミンなどのフローラルな香りとレモンを思わせるような酸が特徴の品種ですが、どのお店で飲んでも浅煎りのものばかりで、深煎りで提供されることは稀です。
ゲイシャはエチオピアで発見された原種に近い品種で、ティピカ同様、繊細な部分があります。
ちょっと深く焙煎するだけでも、その最大の魅力である香りや酸が弱くなってしまうため、どこのお店も必然的に浅煎りになる、というわけです。
当店で扱っているゲイシャは、ハイローストでお出ししています。
これよりもっと浅煎りにしているお店もよく見かけますが、あまり焙煎度合が浅いとコーヒーらしい苦味が得られないので、やはり飲みやすさと個性の両立を考え、ハイローストを選んでいます。
私が焙煎する豆としては、ハイローストはかなり浅煎りの部類に入るのですが、皆さんの好みにマッチするでしょうか? 興味を持っていただけた方は、ぜひ当店ネットショップも覗いてみてください。
▶カフェカホン https://www.cafecajon.jp/
焙煎度合を見れば、店主の狙いがわかる
コーヒー豆の風味は「生豆のポテンシャル+焙煎度合」の組み合わせで決まります。品種ごとに焙煎士の数だけ可能性があるわけです。ちょっと大袈裟ですが、無限の広がりがあると言ってもいいでしょう。
自家焙煎店では、この無限に近い可能性の中から、それぞれ狙った風味に作り出すために生豆を厳選し、それに適した焙煎度合を考えて、日々焙煎をくり返しているのです。
もし機会があれば、ひとつのお店で同じ品種のコーヒーをいくつか飲み比べてみてください。反対に同じ産地で異なる品種の飲み比べでも構いません。
これまでは気が付かなかった共通点や自分の好み、焙煎士の狙いどころが見えてくるかもしれませんよ?
ちょっとマニアックな話になりましたが、豆の焙煎度合や品種なども意識すると、それぞれのお店の違い、特徴なども見えてきて、豆選びやカフェ巡りが一層楽しくなると思います。ぜひ試してみてください。