コーヒー業界の“今”を支えるトップランナーたちにお話しを伺うプレミアムインタビュー。
今回は、国内外のバリスタ競技大会で数々の優勝・入賞実績を誇るバリスタ界のリビングレジェンド・門脇裕二さんをお迎えしてのインタビューです。
日本を代表するチャンピオンバリスタが目指す“理想のカフェ”の在り方とはどういったものなのか。その経営姿勢と新たな挑戦について、詳しくお話しを伺いました。
門脇裕二 Yuji Kadowaki
CAFFE VITA代表 地元で喫茶店を経営する父に影響を受け、高校卒業後は大阪の洋菓子専門店へ就職。イタリアへ渡りエスプレッソの基礎を学んだのち、父(サルビア珈琲)と兄(CAFÉ ROSSO)が経営するコーヒー店で修行し、2002年にCAFFE VITAをオープンして独立。同年、ジャパンバリスタチャンピオンシップにて初出場3位入賞を果たし、さらに2008年のUCCマスターズ全国大会エスプレッソ部門で優勝、2009年と2010年にはブランズラテアート関西大会を連覇するなど、数々のコーヒー競技大会で実績を築き上げる。 |
父の一言がきっかけでコーヒーの道へ
――コーヒーを仕事にしようと思ったきっかけは何ですか?
僕の父は自家焙煎のコーヒー店(サルビア珈琲)をやっているんですが、その様子を子供の頃から間近で見ていたことですね。
ただ、子供の頃はとくにコーヒーが好きというわけでもなく、小学6年から始めたヨットにのめり込んでいました。そのヨットで中学の時には全国優勝、高校では国体にも出たんですよ。
――それはすごいですね!
おかげで大学から推薦の話もいただいたんですが、その時に父から「ヨットじゃ飯は食えないぞ」と言われまして。
好きなヨットを続けて、それで運よくオリンピックに出られたとしても、その後も人生はまだまだ続くわけじゃないですか。いつまでも競技者ではいられないですし。
だとしたら、やはりどこかで区切りをつけて、ちゃんとした職に就こうって思ったんです。それで高校国体への出場を最後にヨットを辞めました。
――もうその時点でコーヒー業界を志していたんですか?
ハッキリ決めていたわけではないですが、父が働く姿を見て、「こういう仕事もいいかもしれないな」とは思っていました。
自分でコーヒー豆を焼いて、コーヒーを淹れて、おいしいケーキも作って。全部手作りでやったら面白いんじゃないかと。
それで、まずはパティシエの修行をしようと思って、大阪の洋菓子製造メーカーに就職したんです。
――地元の島根ではなく大阪だったんですね
その頃はバブルがはじけて景気もどん底の時期で、求人がすごく少なかったんですよ。僕自身、一度県外にも出てみたいという想いもあったので、当時、兄(洋之さん)が勤めていたのと同じ会社に就職しました。
そこでパティシエとして腕を磨いて、ひと通りのことができるようになるのが目標だったんですが、結局そのレベルになるまで6年近く掛かりましたね。
「手作り」への強いこだわり
――今、CAFFE VITAで提供されているケーキはすべて門脇さんの手作りなんですか?
そうですよ。僕の店のコンセプトは「すべて手作り」なんです。
だからコーヒー豆も焼いて、その豆を売って、ケーキも作って、もちろんバリスタもやる。自分で全部やっていれば、すべてコントロールできるし、間違いもないじゃないですか。
中には、自分はコーヒーに専念して、ケーキは他所から仕入れるというお店もあると思います。でも、そのケーキについてお客様に聞かれた時に「それは他所で買ってきたものなので……」とは、僕は言いたくない。
おいしいと誉めていただいたり、レシピを聞かれたりしたときにもすぐに答えられる、そんなお店でありたいんです。
――ご自身が納得したものを提供されているわけですね
そうですね。だからケーキの材料ひとつとっても、ピューレのような加工品は使わないようにしています。
品薄の時期はやむなく冷凍のものを使うこともありますが、基本は生のフルーツを買ってきて、一から作っています。仕入れ業者の方にも驚かれますね(笑)。
ご家庭で作れるレベルのものはお出ししたくないんです。わざわざ店まで来て、お金を払って食べていただくわけですから。これは僕の家内の教えでもあるんです。
ウチは基本カフェですけど、コーヒーだけじゃなく、パティシエとしてケーキ屋さんの仕事もきちんとやりたいと思っています。
ただ「おいしい」だけじゃなく、それ以上に「安全」「安心」なものを作ってご提供する。食べ物や飲み物を扱う仕事ですから、どんなに大変でもこの姿勢だけは崩さず、これからも続けていきたいですね。
――コーヒー豆もかなりこだわっていると伺いました
コーヒー豆は難しいけど、やっぱり面白いですね。
とくにブレンドはその奥深さや広がりが本当に際限なくて、まるで音楽のようです。シングルオリジンをバイオリンのソロに例えるなら、ブレンドはオーケストラみたいな。「厚み」がまったく違うと思います。
そのオーケストラで足りない音色(味)は何か、それをさまざまな可能性の中から探し出してひとつにまとめ上げていく。最終的に満足いくブレンドができたときの達成感は何物にも代え難いですね。
だからコーヒー豆の卸でご注文をいただくときも、CAFFE VITAのブレンドをそのままお渡しすることはないんです。面白くないので(笑)。
卸先の方にどういう味が好みかをヒアリングして、そのお店オリジナルのブレンドを創っちゃうんですよ。時にはこだわりすぎて完成まで1年がかりになってしまうこともありますが(笑)。
――1年がかりですか!? 本当に奥が深いんですね
そうですね、短くても半年くらいはかかっちゃいますね。中途半端なものは創りたくないので。
たとえばまったく同じ配合のブレンドでも、生豆の時点でブレンドしてから焙煎するプレミックスと、別々に焙煎してから合わせるアフターミックスではまったく味が変わるんです。
さらにプレミックスでは、焙煎中のわずか1℃の違いでも酸味と苦味のバランスが変わってくる。
この1℃の調整をするにはエスプレッソマシンの温度を3℃くらい変えないとならないんですが、そんな調整を何度も繰り返して、その都度味を見ながら仕上げていく。
ブレンドがオーケストラなら、僕はその指揮者みたいな感じですかね?
今、全部で30軒くらいに豆を卸していますが、幸いなことにお付き合いが切れてしまったり、廃業されたりしたお店はまだ1軒もないんです。
――ご家族もコーヒー店を経営されていますが、コーヒーに関して話をされることはあるんですか?
そんなに多くはないですね。別に仲が悪いわけではないですが、コーヒーに関してはお互いに口を出さない、干渉しないようにしています。
だからコーヒー豆の仕入先もみんな別々ですし、兄の店で今どんな豆を売っているのかもまったくわからないです(笑)。
この仕事を始めたばかり頃は、僕も兄も父の店のコーヒーの味に近くて、向いている方向は同じだったと思うんですけど、年が経ち、経験を積むことでそれぞれの目指す味が見えてきて、カラーが違ってきた。そんな感じですかね?
ただ、父も兄も同業者であり、この道の先輩ですから、わからないことはもちろん聞きますし、「最近いい豆ないの?」とか「その豆どこで仕入れてるの?」なんて話もしています。
そういう意味では、良き相談相手と言ってもいいかもしれませんね。
信念とも呼べる強いこだわりを持ってコーヒーと向き合う門脇氏。Vol.2では、チャンピオンバリスタとしての今後の目標などをお伺いします。
「すべて手作りにこだわりたい」チャンピオンバリスタが目指す理想のカフェとは? Vol.2につづく
カフェヴィータ
住所:島根県松江市学園2-5-3
TEL:0852-20-0301
フードメニュー : 有(ケーキ・パニーニ)
駐車場 : 有(18台)