趣味や仕事でスペシャルティコーヒーに触れるうえで、決して避けて通れないのがコーヒーの「品種」に関する知識。
お米に「コシヒカリ」や「あきたこまち」といった品種があるように、コーヒーにもさまざまな品種が存在し、それぞれ違った個性を持っています。
情報としてはややマニアックな部類に入りますが、最近「ゲイシャ」という品種が大きくクローズアップされたことで、産地だけではなく品種についても関心を持たれる方が増えてきているようです。
そこで今回は、数あるコーヒーの品種の中でも比較的ポピュラーなものをピックアップしてご紹介していきたいと思います。
詳しい方もそうでない方も、まずは入門編として、肩の力を抜いてご覧になってください。
目次
基本は「カネフォラ種」と「アラビカ種」の2種類
コーヒーの品種について知るうえで、覚えておくべきもっとも大きなグループが「カネフォラ種」と「アラビカ種」のふたつです。
それぞれのグループの下にはさらにもう一段階、細分化されたカテゴリーがあり、それが今回ご紹介する「品種」となります。
カネフォラ種のグループには「ロブスタ」という品種しか存在しないため、一般には「ロブスタ」の名前で呼ばれることのほうが多いです。
「ロブスタ」の特徴は、豆が小粒で丸い形をしていて、アラビカ種に比べると土っぽさや穀物のような香ばしさが強く、荒い風味をしています。
日本では「ロブスタ」単品で飲まれることは少なく、深煎りにして苦味を出すなどアクセントとしてよく用いられます。アイスコーヒー用のブレンド豆などでとくに苦味の強いものは「ロブスタ」が使われていることが多いです。
一方、「アラビカ種」のグループには非常に多くの品種が存在しており、その名前はスペシャルティコーヒーのラベルなどで見ることができます。
「アラビカ種」のグループでも品種によって豆の大きさや風味はまったく異なるうえ、品種が同じでも栽培している場所によって味は変わるので、スペシャルティコーヒーの情報は「生産国」「農園」「品種」の3つを1セットとして見るべきでしょう。
「ティピカ」「ブルボン」はアラビカ種の定番品種
数多くの品種を抱える「アラビカ種」の中でも、覚えておきたいのは2大原種である「ティピカ」と「ブルボン」です。
「ティピカ」は繊細で優しい風味が特長。甘みもあって人気の高い品種です。有名なところでは「ブルーマウンテン」や「ハワイコナ」がこの品種になります。
しかし、「ティピカ」は病気に弱いうえ、樹高も高くなるため世話がしにくく、さらに収穫量も少なめと、とにかく生産者泣かせ。最近ではもっと生産性の高い品種に植え替える農園も多く、減少傾向にあります。
一方、「ブルボン」は、中米やアフリカのルワンダ、ブルンジあたりでよく見かける品種。傾向としては「ティピカ」よりも酸のキレが良く、バランスの良さが特徴のコーヒーです。
こちらも「ティピカ」同様、世話の難しい品種のため、世界的に見ると減少傾向にありますが、グアテマラでは主要な品種のひとつで、比較的多くの木が残っています。
まだまだある人気のアラビカ種
続いて、「ティピカ」「ブルボン」以外のアラビカ種をいくつか紹介していきます。
【カツーラ】
「ブルボン」が突然変異したもので、樹高が低いうえに収穫量が多く、中米を中心に栽培量が多い品種です。
生産者の間でも人気が高く、「ティピカ」からの植え替えにこの「カツーラ」が選ばれることが多いそうです。
明るい酸が「カツーラ」の特徴で、バランスの良い印象がありますが、「ブルボン」と比べるとややコクが強いように感じます。
【パカマラ】
エルサルバドルで開発された品種です。「パカス」と「マラゴジッペ」という品種を掛け合わせたので、それぞれの名前をもらって「パカマラ」と名付けられました。
その豆は非常に大粒で、エチオピアなど小粒の品種と比べると2~3倍ほどの大きさがあります。
まったりとした丸みのあるマイルドさが「パカマラ」の特徴ですが、一部の標高が高い地域で育った豆は、ピーチやマンゴーを思わせる独特の風味も備えています。
【SL28、SL34】
これらは「SL種」と呼ばれているもので、以前ケニアにあった研究所で開発された品種です。
今でもケニアで多く栽培されていて、ケニアのスペシャルティコーヒーには大体この品種が含まれます。
フローラルな香りと柑橘系の酸のどちらも素晴らしく、最近では中米で植えられたものも出回り始めています。
【ハイブリッド種】
「アラビカ種」と「カネフォラ種」の自然交配で生まれた「ハイブリッドティモール」という品種を祖とする「ハイブリッド種」。
「カネフォラ種」と同様、コーヒーの大敵である「さび病」への高い耐性を備えていたことから、品種改良が進められることとなりました。
数年前の「ハイブリッド種」は、「ロブスタ」の重たい風味の影響が強く、繊細さにも欠けるため、「アラビカ種」の代用としては難しいものでした。
しかし、現在では品種改良が進み、風味の優れたものも出始めているようです。その中でもぜひ覚えておきたいのが「パライネマ」という新しい品種。
これはホンジュラスで開発された「ハイブリッド種」ですが、「ゲイシャ」のようなフローラルな香りと柑橘系の酸が特長。紅茶を思わせるような印象もあり、これから注目の品種です。
話題の「ゲイシャ」は「野生種」
今話題の「ゲイシャ」についても紹介しておきましょう。
「ゲイシャ」はエチオピアが起源の「野生種」という位置づけになっていて、「ティピカ」や「ブルボン」とはまた別のグループに属しています。
「ゲイシャ」という名前から日本の芸者さんをイメージする方も多くいますが、それは間違い。実際は「ゲシャ(GESHA)」という村の近くで発見されたことに由来しています。
フローラルさの中にミントや紅茶のような要素も含んだ香りと、キレのある柑橘系の酸、ハチミツのような甘みを兼ね備えていて、パナマの品評会で1位を獲ったことから、その人気に火が付きました。
最近では味以上に価格に注目が集まることも多い「ゲイシャ」ですが、栽培には非常に手間がかかり、収穫量も少ないため、ある程度高価になるのはやむを得ないとも言えるでしょう。
アフリカには「ゲイシャ」のような「野生種」が他にも存在していますが、ほとんどは流通量が少なく、飲んでみたくてもなかなか巡り会えない、というのが実情です。
焙煎士としては、いつか自分で焙煎して飲んでみたい。そんな夢のある品種でもあります。
品種を知るほどコーヒー選びが楽しくなる!
今回はコーヒーショップなどでもよく見かけるポピュラーな品種に絞って、簡単ですがご紹介してみました。
ここで紹介したのは、コーヒー全体の中でもごく一部で、日本ではあまり見かけないものや生産量の少ないものまで含めるとまだまだたくさんの品種があります。
これから品種改良が進めば、さらに新しい品種も増えていくことでしょう。その中に、新たなコーヒーブームの火付け役となるものがあるかもしれません。
「品種」に興味を持たれた方は、まずはひとつの「品種」に絞って、いろいろな産地の豆を比較してみてください。豆の形状や大きさ、味わいなど共通点や違いを探してみると面白いと思います。
専門書などで学ぶのもいいですが、やはり実際に見て、味わい、楽しみながら覚えていくのがオススメですよ!