世界で栽培されるコーヒーの総生産量は、年間1,030万トンと言われています。そのうちの30%以上に値する、350万トン以上の生産量を誇り、世界一のコーヒー生産国として知られるのがブラジルです。
コーヒーを飲んだことのある方であれば、必ずと言っていいほどブラジルのコーヒーを体験したことがあると思います。それがストレートコーヒーでの体験でなかったとしても、ブレンドコーヒーの主要豆として使用されるのが一般的だからです。
素晴らしいパナマゲイシャコーヒーを創り出すジャンソン農園のほかに、我々が関係構築を図っている農園がもう一つあります。それが、世界一の生産大国・ブラジルにあるダテーラ農園です。
コーヒーに携わる方々や興味のある方々にはあまりにも有名な農園ではありますが、あまり知られていない、彼らの挑戦とも言える取組みを紹介していきたいと思います。
目次
ダテーラ農園ってどんな農園?
冒頭にも触れたように、ブラジルは全世界で栽培されるコーヒー総生産量のうち30%以上ものコーヒーを生み出すコーヒー生産大国です。国家の主要産業であるコーヒーは、以前は消費国への輸出がほとんどでしたが、近年では国内需要も上がり、消費・生産ともに世界のコーヒーマーケットを支える存在となっています。
そんな南米ブラジルの南東部、同国でもコーヒーの生産が盛んな地域・ミナスジェライス州にダテーラ農園はあります。
標高1,000~1,100m付近の高原地域に、東京ドームおよそ1,400個分に相当する6,800ヘクタールの敷地を有しており、その半分の面積を自然保護区域として残し、残る半分の面積でコーヒーを生産しています。
コーヒーに詳しい方はここで気づくかもしれませんが、ブラジルの農園はおおよそ標高がさほど高くない場所に位置しています。前回お話ししたパナマゲイシャをつくる農園は軒並み標高1,700m前後に位置し、場所によっては2,000mを超える農園も中米には珍しくありません。この、いわば持って生まれた農園の外的要因を克服するための挑戦にダテーラ農園は取り組んでいるのです。
ブラジルコーヒーの特徴とスペシャルティコーヒー評価
一般的なブラジルのスペシャルティコーヒーの評価には、「ミルクチョコレート」、「ミルクキャラメル」、「ローストナッツ」、「バランス」、「スイート」といったようなカッピングコメントが並びます。個人的にはとても好きなコーヒーですし、毎日飲むコーヒーとして楽しんでいるのですが、スペシャルティコーヒーとしての評価を得にくいカップとも言えます。
スペシャルティコーヒーの味覚評価は、SCA方式(CQI認定 Qアラビカグレーダー使用)では10項目に分類されます。COE(カップオブエクセレンス)方式では8項目に分類されているのですが、こちらの詳細については今回は省略させていただきますね。
評価項目にあるFlavor(フレーバー/風味)やAcidity(アシディティ/酸の質)では、果物が持つような甘さを伴うフルーティーな味覚が評価されます。また、Clean Cup(クリーンカップ)やMouth Feel(マウスフィール)といった項目では、よりスムースな飲み口に焦点が当てられます。
一般的にコーヒーと標高の関係としては、標高が高い場所のコーヒーほど昼夜の寒暖差が生じ、その厳しい環境に耐えたコーヒーがシトラスフルーツのような爽やかな酸や熟した果実感を手に入れます。収穫後の精製処理(果実から種子を取り出す工程)方法として、ナチュラル(天日干し)を行うことが多いブラジルは、液体の質感も評価を伸ばしにくい特性だといえます。
もちろん、上記は一般的な傾向で、ブラジル産コーヒーでも素晴らしい風味特性やマウスフィールを持ったコーヒーはこれまでに数多く栽培されていますが、中米と比較すると標高のあまり高くない平原が多い国柄、生産量としては栽培に適していますが、唯一無二のTopロットを算出するには、もって生まれた立地的不利があると言えるかもしれません。
ダテーラ農園の歴史
ダテーラ農園がコーヒー事業をスタートしたのは、1987年に遡ります。実は、企業としての運営は1902年から創業しているのですが、当時はタイヤの販売代理店から始まっています。
この話を初めて聞かせて頂いたとき、途中までは「?」の連続でした。
全国への販売営業の中で出会うコーヒー農家やサトウキビ農家の現状を目の当たりにした当時の3代目であるルイス氏は、ブラジルの主要農産物となりつつあったコーヒーの生産に携わることに、喜びと誇りを見出し、それが未来へ長くつながる産業にしたい、という想いからコーヒー産業への挑戦を始めることになるのです。
世界でも有数の最新テクノロジーを取り入れた大規模農園
もともとの農園運営理念の始まりが、従業員の生活環境改善や持続可能性の追求からスタートしているダテーラ農園にとって、2003年にブラジルで初めてレインフォレストアライアンス(RA)認証を取得したのは、必然でした。他にも、自然環境への配慮だけでなく、農園で働く人々にとっても「コーヒー生産に携わることへの誇りと喜び」を感じられる場所となるべく、労働時間や休日の厳守、農園での食事の提供も行っています。こうした取組みはコーヒー業界の垣根を超え、あらゆるブラジルの農産物生産者の模範的存在となっています。
大規模農園と聞くとどうしても効率、費用対効果を優先すると思いがちですが、彼らのすごいところは最新の技術と、日々の絶え間ない努力にその品質が支えられている点です。
彼らの農園の全面積約6,500ヘクタールのうち、半分は自然保護区域、半分をコーヒー生産に充てているのですが、その敷地を小区画約 3,000 区画にも分け、それぞれをGPSで管理しているのです。その区画ごとに最適な収穫時期を日ごとに見定めています。なんと年間14,000回ものカッピング確認を実施して決定しているんです。
収穫後のコーヒーは農園独自のウェットミル「UNIPAC」での熟度選別、赤外線、LEDソーターを含む5段階のカラーソーティングを実施するなど、「そこまでやるか!」というほどの徹底ぶりです。
ダテーラ農園の実験的かつ先進的挑戦
彼らは、年間でおよそ5,000トンのコーヒーを生産する中で、大きく3カテゴリーに分類しています。
DATERRA CLASSICS / 農園の生産量のメインである、高品質グレード
Collection DATERRA / 農園の生産量上位25%を占める、上級品質グレード
Masterpieces by DATERRA / 実験的・先進的製法でつくられるマイクロロット
私たちScrop COFFEE ROASTERSでは、それぞれのカテゴリーのコーヒーを使用させていただいているのですが、中でも、全生産量のうちわずか1%未満と言われるMasterpiecesロットに注力をしています。このロットは、ダテーラ農園独自のプライベートオークションという形で、全世界同時にネットオークションで落札させるもので、昨年、一昨年と参加させていただいています。
プライベートオークションとは、パナマのエスメラルダ農園が実施したことで有名ですが、今ではいくつかの農園が開催しています。ダテーラ農園も彼らのコーヒーに対する理念の表現と、ブラジルコーヒーの新たな価値を創造するべくチャレンジしており、私たちもその取組みに共感し賛同しています。
まとめ
ダテーラ農園はコーヒー業界で仕事をし始めてから、比較的最初のころに知った農園で、「大規模の良質なブラジル産コーヒーを栽培する農園」くらいにしか印象としては持っていませんでした。その時は、当時から脚光を浴びていたパナマをはじめとした中米のスペシャルティコーヒーに注目をしていました。
そんな中、あることからダテーラ農園のMasterpiecesオークションロットをカッピングさせていただく機会をいただきました。正直、その時の衝撃は今でも鮮明に覚えているくらい大きなもので、すぐに購入を希望しましたが、残念なことにすでにオークションは終了した後でした。翌年は絶対にオークションに参加すると決めて臨んだのが一昨年、そこからダテーラ農園の理念や取組みに共感し、取組みさせていただいており、今年度クロップでは5ロットを単独落札し、希少なブラジルのゲイシャ種などを販売させていただいております。
今年の4月~6月には、ダテーラ農園が企画する「BEANSTALKプロジェクト」キャンペーンにも参加させていただきました。これは、現在2050年問題とも言われている地球温暖化によるコーヒー需給問題の先駆けともなる取組みで、ダテーラ農園のコーヒー売上1Kgに対し、コーヒーの木1本を植林するというものでした。
https://www.supportcoffeeroasters.com/
彼らによる世界のコーヒー産業に向けた発信と、ブラジルの新たなコーヒー価値の創造というビジョンに、私たちScrop COFFEE ROASTERSも一緒になって伝えていきたいと思います。