昨近、TVや新聞・雑誌などでも見るようになった「ゲイシャ」というワード。今回は、そのゲイシャの歴史や特徴とともに、我々が直接取引をする農園を中心に、農園訪問の実体験を基にその魅力をお伝えしていきます。

 

スペシャルティコーヒーの中でも圧倒的なフレーバー特性を持つパナマゲイシャ。世界を虜にする魅惑的な世界をお楽しみください。

 

第3回の記事はこちらから:ブレンドコーヒーの可能性について

ゲイシャコーヒーの登場

ゲイシャ1

最初に、この手の内容はコーヒーやパナマゲイシャを知っている方にはあまりにも有名なエピソードですが、長いコーヒーの歴史の中で比較的まだ歴史が浅いこと、そして今後もコーヒー史の中で重要なポイントになると思いますので簡単に説明させていただきます。

 

ゲイシャコーヒーが初めて世の中に登場したのは、2004年と、長いコーヒーの歴史の中では比較的最近の出来事です。

 

毎年1回、パナマスペシャルティコーヒー協会が主催するBest of Panamaという国際品評会にて、エスメラルダ農園がゲイシャ種を出品したことから全ては始まりました。2004年に見事優勝したエスメラルダ農園のゲイシャ種は、1ポンド(約453g)当たりの価格が$21でした。あまり価格感がピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、日本で一般的に流通しているスペシャルティコーヒーが$4~5/ポンドが多いと思いますので、すでに当時の評価の高さが伺えます。その後、ゲイシャの評価と落札価格は年々記録を更新し、2019年のナチュラル部門1位の落札価格はなんと、$1,029となり史上最高額での取引となりました。

パナマゲイシャが栽培される地域

ゲイシャ2

ゲイシャコーヒーがもともとはエチオピア発祥の品種であることも有名な話です。もともとはさび病対策として輸入された品種が、パナマの気候風土に合い、唯一無二のフレーバー特性を放つスペシャルワンになったのです。

 

東西に長く伸びた国土面積を持つパナマ共和国。東はコロンビア、西はコスタリカと隣接しています。実は良質なパナマゲイシャが栽培されている地域は全国では無く、主に西側、コスタリカ国境近くにあるバル火山の周辺に集約されます。

 

さらに、このバル火山を中心に東側のボケテ地区、西側のボルカン地区でも気候特性の違いによる風味の違いが存在します。この周辺に、世界一のコーヒーを創り出すモンスター級の農園がゴロゴロ点在しているんです!

栽培地域の気候特性による風味特徴について

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バル火山を中心に東側の地域、ボケテ地区。ゲイシャを世に送り出したエスメラルダ農園や2018年、2019年とBest of Panamaで二冠を達成したエリダ農園が構えるこの地域は、太平洋から吹く冷たい風と大西洋から吹く暖かい風、その風がバル火山にぶつかり発生する霧(バハレケ)が特徴的なマイクロクライメイトを持ちます。収穫時期に訪れると、農園の区画によってその風の通り道が様々に違っており、雲の流れも速く、時折発生する霧(バハレケ)によってとても清々しい気候を感じます。

 

そこでつくられるゲイシャは、ゲイシャの味覚表現をするうえでもはや固有形容詞にもなっているジャスミンのような華やかさ、シトラスフルーツのような爽やかで明るい酸、とにかく透明感に優れた上質なマウスフィールが生まれるのです。

 

もう一つの地域、バル火山の西側、ボルカン地区。ここには、バリスタチャンピオンシップでも各国のチャンピオンたちが使用し、一躍注目を浴びたNinety Plus(ナインティプラス)社が運営する農園や、我々が関係構築を図っているジャンソン農園が存在します。

 

ボルカン地区の気候特性として、収穫時のボケテ地区のような霧(バハレケ)はほぼ発生せず、風も穏やかで太陽からもたらされる日差しは時にじわっとした蒸し暑ささえ感じます。そこでつくられるゲイシャコーヒーは、華やかさと共に、オレンジのような甘さを伴ったフレーバーが特徴で、Powerfullさを併せ持ったゲイシャを生み出しています。

私が惚れ込んだジャンソン農園

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私は本当に幸運なことに、多くの素晴らしい農園のゲイシャコーヒーを体験させていただいています。その中でもその唯一無二の品質と農園主のパーソナルに惚れ込んでしまったジャンソン農園について少しお話しさせていただきます。ジャンソンファミリーは1940年代に故郷であるスウェーデンからボルカン地区に移住し、当初は酪農業から運営をスタートさせました。今でも広大な農園では沢山の牧草牛と共存しています。

 

彼らがコーヒー栽培に着手したのは21世紀初頭ですが、ゲイシャコーヒー栽培の成功までには何年にも及ぶ試行錯誤と絶え間ない努力が必要でした。もともと、コーヒーの木は苗を植えてから、最初のチェリーを収穫できるようになるまで最低3年はかかります。ゲイシャの木は他の品種に比べ、1本の木に実る量は半分ほど、さらに良質で大きな実を実らせるまでには苗を植えてから5年以上かかります。

 

この低い収穫量をカバーするために沢山の木を植えましたが、日光不足により木の育ちが悪くゲイシャ種を育てる難しさを痛感します。3割近くのゲイシャの木を切り除き、それぞれの木に十分な間隔を与えて光・影・風を得ることが出来るように環境造りを一からしたのです。

 

そんな彼らがつくりだしたゲイシャコーヒーは2013年のBest of Panamaに初めて出品すると見事2位の評価を手に入れ、世界からも注目される農園の一つとなったのです。昨年のBest of Panamaでも複数受賞したロットをScrop COFFEE ROASTERSでは単独落札しています。

ジャンソン農園の取り組み

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3代続く大規模農園であるジャンソン農園は、カール・ジャンソン氏(3代目)から現在、カイ・ジャンソン氏がクオリティコントロールを担当されています。私も主にカイ氏と情報交換をさせていただいています。私がジャンソン農園に惚れ込んだ理由の一つに、持続可能な栽培を続けていくうえで自然との共生をはっきりと感じる取り組みがいたるところで感じられるからです。ここでは二つの実際の取り組みをご紹介いたします。少し専門性に及ぶところもありますが、ぜひお読みいただけましたらうれしいです。

EM農法(EM=Effective Micro-organisms(有用微生物群)の取り組み

活発な微生物の働きにより土が活性化し小動物が住み付き、化学肥料にたよらず土の力で農産物を育てられるようになり、農産物が本来の味や栄養価を備えたものになります。EM栽培の特徴として農産物の甘味が増したり、抗酸化力があるものになります。ジャンソン農園のゲイシャコーヒーが非常に甘く感じるには明確な理由があるんです。

 

また、EMによって元気な農産物を作る事により農産物が病気にかかりにくくなったり、害虫の食害を軽減できるようになり、農薬を使わなくても栽培出来るようになります。

ビオディナミ農法(バイオダイナミック農法)の取り組み

有機栽培の一種であり、農薬と化学肥料を一切使わない農法。天体の動きとの調和、動物との共生、独自の調合剤の使用を特徴とし、収穫時には満月の前後2週間がBrix数値が高くなることから、Brix数値の計測を行い、収穫を行っています。クロップ収穫時でBrix26度のロットもあり、他のフルーツ糖度と比べてもその数値は驚きのものとなります。

【まとめ】ゲイシャがひとつのブームで終わらぬように

ゲイシャ-まとめ

現在もTop of Topの農園はゲイシャコーヒーが巻き起こしたムーブメントを、一つのブームで終わらぬよう、日々進化を目指した取り組みをしています。今、各農園が最も注力しているのが<精製処理方法>による味覚特性の違いです。これは農園が潜在的に所有する外的要因(気候特性、標高、土壌成分など)を考慮し、農園の手によって独創的なコーヒーを創り出せるとして近年最も注目を浴びています。こちらのお話しもまたさせていただければと思います。

 

“Always be proud of what you do. Don’t worry about money. If you work hard and be honest, you’ll be fine.”

“自分で作り上げたものに誇りを持ちなさい。金儲けを目的とするのではない。一生懸命に働き、正直者でいれば上手くやっていける。”

 

これは、3代目カール・ジャンソン氏が父に言われた言葉です。この想いが、ジャンソン農園には長く息づいていることを感じさせてくれるのです。

 

Scrop COFFEE ROASTERSについて
Scrop COFFEE ROASTERSは、自社焙煎工場をもつスペシャルティコーヒー専門店です。
毎日楽しめるブレンドから、世界で注目を集める幻のコーヒー「ゲイシャ」、国際品評会(カップオブエクセレンス)の入賞豆や農園のプライベートオークションロットなど、他では手に入らない希少なコーヒーをご提供しています。
コーヒーのある豊かな生活と安らぎのひと時を大切に、「日常の中の上質」をお届けします。

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