ただコーヒーを淹れるだけではなく、豆の選定や焙煎、完成までに約1年を費やすというブレンド、さらにはケーキ作りと、自身の店で扱うものはすべて手作りにこだわる門脇氏。
Vol.2では、トップバリスタとなった「今」と「これから」について語っていただきました。
「すべて手作りにこだわりたい」チャンピオンバリスタが目指す理想のカフェとは? Vol.1
自分のペースで、しっかり丁寧な仕事を
――故郷の島根でCAFFE VITAを始められたのは、何か理由があったんですか?
大阪でパティシエの修行をしていたので、そのまま大阪で開業してもよかったんですが、そうしなかった一番の理由は、人が多いからです。
――あえて大阪よりも人口の少ない島根を選んだ、と?
そうそう(笑)。その方が僕のペースに合っていると言うか、やりたい店に向いていると思ったんですよ。
ちょっと前にある知り合いから、「今、東京で空いてる店舗あるからやってみない?」って誘われたんです。出店料はいらないし、売り上げも10倍になるよって話だったんですけど、それ聞いて最初に思ったのが「今の10倍忙しくなるのか」ってことだったんです。
そうなると、今のように「すべて手作り」なんてスタイルはとてもじゃないけど維持できない。寄ってくれたお客様と話もしたいし、コーヒーも一杯一杯ちゃんと淹れたいのに、それができなくなってしまうのは、ちょっと違うかなと。
そういう意味で、島根は僕にとってちょうどいいペースで仕事ができる、最適な環境だと思いますね。
嬉しいことに最近はお客様も増えて、毎日忙しくしていますが、それでコーヒーやケーキの味が落ちたり、応対が雑になったりなんてことには絶対にしたくないんです。
常連さんも遠くから訪ねてくださった方も、皆さんに満足していただけるよう、カップ一杯一杯を丁寧に淹れるお店であり続けたいと思っています。
お客様とのおしゃべりもできる限りしたいですしね、鬱陶しく思われない程度に(笑)。
競技大会を通じて得た多くのもの
――競技大会には今後も出られるんですか?
2016年のUCCコーヒーマスターズは、ハンドドリップ部門に出て3位だったので、次は優勝を目指したいなと思っています。今そのためのパワーを充電中で、これを会場で一気に爆発させて、勝ち逃げを狙おうかなと(笑)。
僕の店は島根県松江市にあるんですけど、島根って本当に田舎なんですよ。日本地図を見てもどこが島根かわからないくらいという方もいるくらいマイナーなんです。
でも、そんな島根にも地元では有名なコーヒー店って結構あって、「僕の店はその中で何番目くらいなんだろう?」と、ふと思ったんです。自分はそれなりに自信があっても、他人の評価はわからないじゃないですか?
「だったら試しに出てみよう」というのが競技大会を目指したきっかけでした。それで初めて出たジャパンバリスタチャンピオンシップの全国大会で3位になったんです。
――初出場で全国3位はすごいことですね
こうなると、次ちゃんと練習したら日本一も狙えるんじゃないかって思うじゃないですか? それで猛練習して再挑戦したんですけど、そこからチャンピオンになるまで6年もかかりました(笑)。
その後、ハンドドリップの地区大会でも優勝させていただいて、ようやくお客様にもわかりやすい形で実績を示すことができるようになりました。
大会への挑戦を通じて、技術や知識の面で多くのものが得られたのも大きいですね。
――ズバリ、競技大会でトップを獲るのに必要なものは?
とにかく練習すること、これしかないですね!
僕は人よりも特別、頭がいいわけじゃないので、徹底的に練習を繰り返しました。実際の本番をイメージして動きやプレゼンを何度も何度も繰り返し、ブラッシュアップしていった感じです。
当時、お店の営業は午後10時までだったんですが、それから練習を始めると、気がついたらもう朝の4時、5時なんてこともよくありましたよ(笑)。
大事なことは、自分の言葉で思ったことを伝えること。そうすれば審査員やお客様にも届くはずです。誰かの真似じゃ自分の想いは伝わらないし、何よりつまらないじゃないですか。
自分が何を伝えたいのか。そこをきちんと考えることができれば、おのずと言葉になっていくと思いますよ。
――そうした数々の優勝、入賞実績を買われ、業務用エスプレッソマシンの開発にも携わったとか?
2005年にラッキーコーヒーマシンさんから、LaMarzocco社の開発チームにバリスタとして参加してみないか? とオファーをいただきまして、日本人の視点で使い勝手や操作感などのアドバイスをしていました。
今もその繋がりでLaMarzocco社の『strada』という最新エスプレッソマシンの開発のお手伝いをさせていただいています。
これには僕だけじゃなく、世界各国のチャンピオンバリスタが参加されていて、チームで意見を出し合っているので、いい意味でとてもマニアックな、エスプレッソを熟知した方ならきっと納得してもらえる製品に仕上がっていると思いますよ。
こうしたマシンの開発に携わることなんて、ただのコーヒー屋にはできませんからね。こういう貴重な経験ができるのも競技大会に参加したおかげだと思います。
――競技大会に出たことが多くの実りをもたらしたわけですね
もうひとつ、大会に出たことで得た財産と言えるものが、大会で出会った仲間たちです。
当然、皆さん同業のコーヒー屋さんだったり、バリスタだったりするんですが、他業種じゃ考えられないくらいみんなフレンドリーで仲間意識が強いんです。
おかげで今じゃ全国どこへ行っても仲間や知り合いがいて、彼らのお店があって、「よぉ、久しぶり!」って気軽に訪ねていける。しかも変にかしこまらず、フランクに握手で迎えてくれるんです。こういう関係性は本当にステキですよね。
――すばらしいですね、うらやましいです
この距離感は、僕ら仲間同士だけじゃなくて、ゆくゆくはお客様とも築いていきたいですね。
お店に来るのに「緊張しました」と言われる方もいらっしゃるんですが、そんな敷居の高さはカフェにはいらないんです。
もっと気軽に「遊びに来たよ!」、「おー、久しぶり。元気?」なんて、友達感覚でフラッと立ち寄ることができる。本来カフェってそういうものだと思うんですよ。
究極は、「門脇がいるから遊びに行くか!」と思ってもらえる店を目指したいですね。
――最後に、バリスタとしての目標を聞かせてください
変な表現かもしれませんが、僕は自分の店を「コーヒーの病院」にしたいと常々思っています。
お客様が今どんなコーヒーが飲みたいのか、豆や好みによってどんな抽出器具をオススメすべきかなど、コーヒーに関する相談事ならCAFFE VITAで聞けば何でも解決する、多くの方にそう思ってもらえるような存在になりたいですね。
もうひとつ、これは目標というか願望なんですが、僕の創ったオリジナルブレンドを使いたいといってくださるプロの方が全国にもっともっと増えると嬉しいです。
いつかそれが叶うように、これからもコーヒーと真剣に向き合って行きたいと思っています。
気さくに冗談を交えながらも、チャンピオンバリスタとしての強いこだわりや将来のビジョンについて、熱く語ってくださった門脇氏。この熱量こそが今後のコーヒー業界を牽引していく原動力なのだと、強く感じさせてくれたインタビューでした。
カフェヴィータ
住所:島根県松江市学園2-5-3
TEL:0852-20-0301
フードメニュー : 有(ケーキ・パニーニ)
駐車場 : 有(18台)
「すべて手作りにこだわりたい」チャンピオンバリスタが目指す理想のカフェとは? Vol.1