日々のせわしない生活や、溢れかえる情報によって、心が疲れてしまっている方もいることでしょう。リフレッシュしようと思っても、どうしたら良いかわからない……なんてこともあるかもしれません。
今回、取材したのは代官山にある寺カフェ。「寺×カフェ」のコラボカフェで、悩み相談や僧侶の説法などが聴けるという珍しい場所です。
日々の疲れから解放されたい、生きるヒントを得たいという方に最適な都会の駆け込み寺です。
目次
コラボイベントが寺カフェのスタート
2012年1月、寺カフェ代官山(以下、寺カフェ)の運営先でもある浄土真宗本願寺派信行寺(川崎市生田区)の淺野弘毅(あさのこうき)住職が、「多くの方が気軽にお寺・仏教に親しめる機会を作りたい」というコンセプトで企画した、新丸ビル1階のカフェとのコラボイベントが事の始まり。
このコラボイベントは、10日間限定の開催でしたが、訪れた方から大きな反響があったこともあり、コーヒーを飲みながら気軽に法話が聴け、仏教に親しむ場所を作ろうとしたのが、寺カフェです。
オープン当初は、信行寺が当時のオーナーをバックアップした形で運営をしていましたが、2014年4月に信行寺直営の寺カフェとして運営変更し、今に至っています。
寺カフェに訪れる方は、女性が8~9割を占め、年齢層が20~50代の比率が高くなっています。これまで浄土真宗の家に嫁いだ方や、80代の女性も話を聴きに訪れたこともあるそうです。
訪れる目的もさまざまであり、仏教のくくりで仕事や家庭での悩みを聞いてほしい方、何か良いヒントを得たいという方、飲食する方……などがいるようです。
多くの方に仏教に親しんでもらいたいという願いから代官山でのオープン
寺カフェは、代官山の駒沢通り沿いにあり、運営先の信行寺の浄土真宗の教えに則ったカフェです。
代官山は、洗練されたモダンなテイストが漂うカフェやショップが多いエリアですが、その中でも寺カフェは、歩道側の窓に五色(ごしき)の幕が張られ、重厚感がある外装です。そして、「和」の雰囲気を醸し出していることもあり、代官山の街並みでもひときわ際立っています。
また、お寺の雰囲気を演出した店内には、信行寺サイドでコーディネイトした阿弥陀如来のご本尊や蓮のイラストといった仏教のシンボルが配置されているのが特徴です。
細江僧侶に、なぜ代官山に寺カフェをオープンしたかということを聞いてみました。
――お寺(ここでは信行寺)に住職がずっといても、ご門徒(檀家)さんとの接点に偏りがち。この関係性だと、どうしても一般の方が仏教にまつわる話が聴きたいと思っても敷居が高く、近寄りがたいイメージになってしまいます。そこで気軽に立ち寄れるカフェを設けることで、「お寺・仏教」に親しむ窓口を作ろうと決めました。
また、あえて信行寺がある川崎市生田区から離れた代官山に決めた理由については、寺カフェを企画した淺野住職の提案によるものだそう。
そのときに「お寺のある生田の地でなく、より多くの人が行き交う違う都会の地で辻説法を話す、聴いてもらう機会を作りたい……」という浅野ご住職の一言で、都内のいくつかの候補の中から代官山に寺カフェをオープンすることを決めたそうです。
強みは「寺の機能をそのまま」カフェに反映したところ
全国には、仏教・お寺がテーマのカフェが数多く存在しています。寺カフェの強みについて細江僧侶にうかがってみました。
――お寺は基本的に休みなしで稼働し、誰かが訪れてもすぐに対応できるようにしています。寺カフェでもこのスタンスを保ち、基本的に休みを取らず営業し、信行寺の僧侶6名と関連の僧侶合わせて10名が交互で寺カフェに常駐しています。
寺カフェでは、「いつも僧侶がいる」というスタイルを採り入れることで、いつでもふらっと立ち寄れて、僧侶の話も聴け、自分の悩みなどを話しやすい環境にしています。
カフェのコンセプトは「孤独」と「仲間」
寺カフェの店内には、ポスターやリーフレットに「孤独に強くなる」という住職が掲げたキャッチコピー書かれており、訪れる方の関心を引いています。
このキャッチコピーに関しても、細江僧侶に深く掘り下げて聞くことができました。
――「孤独」とは、お釈迦様の教え「独生独死独去独来」(=生まれも死も一人であるさま)がベースとなっています。家族や仲間がいても結局、人間は誰でも生死は一人=孤独であり、一人で生きていかなくてはならないもの。
ーーけれども「孤独」である私たちは、「仏様の子」であるのは変わりないので、寺カフェという場で同じ道・方向へと歩む仲間と出会えることができ、「孤独」になることにも強くなれます。
寺カフェを知ることで「孤独」のこれまでの概念が変わるかもしれません。
「寺」にまつわるオリジナルメニューも注目ポイント
カフェということでやっぱり気になるのが、メニューです。
細江僧侶と店舗スタッフの方に、寺カフェのメニューについて聞いてみました。
特に人気なのが、「寺ミス」というメニュ―であり、ティラミス・黒糖味のゼリー・アイスを贅沢にトッピングした和スイーツ。
ほかにも、他店では見られない珍しいドリンクもラインナップされています。その中でも「しんらんコーヒー」は、あんこが好きだった浄土真宗の開祖親鸞(しんらん)聖人にちなんで考案されたメニューだそう。ブラックのコーヒーにティスプーン山盛り1杯のあんこを混ぜて味わうものとなっています。
寺カフェは定食や和を中心としたスイーツ、ドリンクなどのメニュー数が豊富です。ほかにも精進料理の知見がある尼の山口依乗(やまぐちえじょう)僧侶が監修した、予約制の精進料理のメニューもあります。
より多くの方が寺・仏教に親しむ機会を作り、良い関係性を築くことを目指して……
最後にこれからの寺カフェが目指していることなどについて、細江僧侶に聞いてみました。
―― 今まで以上に寺カフェに親しむ方を増やし、カフェを通じて知り合った仲間同士でさまざまなイベントを開催しながら、寺カフェを継続していきたいです。
私たち僧侶とお客様とのつながりは築けていますが、来客者同士が年齢や世代を超えて、気軽に情報交換や世間話をできるような横の「つながり」がより強くなると、また違う広がりができるのではないか思います。
何らかの「発見」ができる、貴重なカフェ
寺カフェ代官山で大切にしていることは、浄土真宗の教えに基づいた話をすること。訪れる方の心に残り、何らかの発見ができるよう心がけているとのこと。
今回のインタビューでは、私たちが普段使っている言葉の意味合いについてもお話がありました。
ちなみに「他力本願」の意味が人任せではなく、阿弥陀如来の本当の願いを聞くということだそう。寺カフェで僧侶の方の話に耳を傾けることで、自分の知識が一つ二つと増えることもありますよ。
また、寺カフェには、写経や数珠作りといったワークショップやサークル感覚で参加できるイベントもあるので、その切り口から寺カフェに親しむのもオススメです。
そして、4月の花まつり(お釈迦様の誕生を祝う仏教行事)には、店内のテラスに仏教の象徴でもある白い像や花もディスプレイされ、また違ったカフェの楽しみ方ができるようです。
もし、代官山へ立ち寄る機会があったら寺カフェ代官山の魅力を体感してみてはいかがでしょうか。
僧侶の駐在時間 :月・火・木・土・日 11:00〜18:00、水・金 13:00〜21:00