大阪狭山市にある老舗焙煎所『焙煎香房シマノ』島野敬介さんのインタビュー記事第二弾です。前回は「コーヒを通して考える福祉」について書きましたが、今回はよりコーヒーへのこだわりについて深堀していきます。

 

焙煎香房シマノのインタビュー記事第1弾はこちらから↓↓

【島野敬介さん】大阪の老舗焙煎所『焙煎香房シマノ』が目指すコーヒーを通して考える福祉

プロフィール
焙煎香房シマノ 代表取締役 島野敬介
住所:〒589-0013
   大阪府大阪狭山市茱萸木4-238-1
TEL:072-365-1051
オンラインショップ:https://baisenkoubou-shimano-shop.com/

1958年、敬介さんの父昭一さんが大阪でコーヒーの卸売りの会社を創業。 長年にわたり育て上げた独自のネットワークにより、世界中の素晴らしいコーヒー生豆を集め、経験と技術によって、コーヒー生豆が持つ風味を最大限に引き出す焙煎を施し、香り高い新鮮なコーヒー豆を販売。

焙煎香房シマノでしかできない焙煎

—— 焙煎についてのこだわりはありますか?

 

コーヒーの『甘み』を感じて欲しいという想いがあるので、甘味を感じて貰えるような焙煎をしています。基本的には注文を頂いてから焙煎するスタイルで、『鮮度』にはこだわっています。

——スペシャルティコーヒーは、「浅炒りこそがスペシャルティの豆を生かす」みたいなご意見も聞くんですが…

 

うちは逆ですね。
スペシャルティコーヒーは「香り」が重視される部分があります。香りをどうやって出すかというと、強火で、浅炒りから中浅のときに一番香りのフルーティーさが出るんです。強火で一気に炒り上げた方が香りは出るんですが、表面は焼けても、芯まで火が入っていないことがある。そうなると「青臭さ」みたいなものが残って、酸っぱさをかんじてしまうんです。
本来のコーヒーの酸味って、フルーツを食べる時に甘味を感じてからスーッと消える酸味があるじゃないですか。コーヒーもフルーツなので、コーヒーの実を摘んですぐ食べると、そんな酸味がするんですよ。僕はその甘味と酸味を再現したい。だから、酸っぱさではなく、フルーツ感を出したいので、そんな炒り方をしています。

 

——青臭いような酸味ってとても分かる気がします。最近の焙煎機はコンピューター設定で焼けるものも多いですが、島野さんは?

 

うちは完全に手です。なんでかというと、同じ収穫時期の豆でも水分値は微妙に違うんですよね。あとは、季節や天気などで湿気の量も違うので火の入り方が変わってくる。
機械によっても誤差があるし、その時の豆の状況や豆の表情、豆の音を聞いて炒らないと同じ味にならないところが、ボタン1つで出来ないところだと思っています。

 

——小さい焙煎機が沢山置いてありますよね?

うちは、小さい焙煎機を5台と大きいのを1台使っています。200gか500gをご注文を頂いてから焙煎しますので、小さいのは500g程度までの窯で、ちょっとずつ炒っています。
小さい窯で焼く理由は、「今だ!」ってタイミングで豆上げるときに1秒かからない。でも大きい焙煎機だと少しタイミングがずれてしまう。スペシャルティは特に、「ここで上げたい!」っていうピンポイントがある。だから、どうしてもあの機械が必要なんです。

 

——1秒の差にもこだわる。まさに職人って感じですね。
※島野さんの指には焙煎時の煙で指先が染まっており、これぞ職人でした…!

 

僕の考えを理解してやってくれてる人は、数少ないですけどいますし、今まで何人かお弟子さんみたいな人もいて、独立してやってる人もいます。
やっていく中で自分の考えが出来て、自分の炒り方をするのは僕は全然かまわない。自分の個性が出るならそのやり方が正解。うちの直営店で『焙煎香房マリー』っていうお店も出来たんですが、ここの店長は忠実に僕の焙煎を理解し再現してくれています。

 

焙煎香房マリーは寝屋川市にあり、店長さんは女性!焙煎香房シマノで修行して、姉妹店を任されたそう。取材の日も焙煎されてる姿をキャッチできました!
プロフィール
焙煎香房マリー
〒572-0836
大阪府寝屋川市木田町 2-41
寝屋川市駅出口2出口から徒歩約5分
営業時間:9:00-17:00
定休日:不定休

焙煎香房シマノが考える"至高の豆”
『スウィートベリー ワイニー』

——スウィートベリーは思い入れのある豆なんですか?

 

この豆は、農園さんと協力して作り上げた豆で、「スウィートベリー」という名前は私が付けたんです。
きっかけは、エスメラルダ農園のゲイシャがベスト・オブ・パナマで優勝した時に、何とか飲んでみたいと思ったけど、その年は手に入らなかった。次の年に少しだけ手に入れることができて、飲んでみたら衝撃を受けたんです。
その時はスペシャルティって言葉も日本にはまだ浸透していない時代で、コーヒーにフルーティーさみたいなものは重視されていなかったんです。エスメラルドのゲイシャは、柑橘系のフルーティーさが出ているコーヒーなので、「このフルーツ感を技術力で作られないか?」と思ったのがきっかけでした。
そこから農園さんと協力して、技術力でフルーティーさを再現するために、まだワイニープロセスという名前もなかった時代に『ワイニープロセス』にチャレンジしたんです。最初の年はひどいものでしたが、試行錯誤してだんだん良くなってきた。毎年バージョンアップを繰り返していたんですが、今はニカラグアのカサ・ブランカ農園さんの協力のもと、納得できる豆が出来上がりました。
ワイニープロセスは技術力がないとできないプロセスで、手間もかかります。コーヒーの果実に発酵を加えることで、ベリー系のドライフルーツのような甘味とレーズンや赤ワインのような芳醇なコクを持つコーヒーになりました。

——この豆は通販でも購入できるんですよね?

通販も10年位前からやっています。
通販の注文は、15時に締め切って、15時までに注文頂いた分は、翌日の午前中に焙煎し、当日に発送しています。

 

——通販だと、ぜひ全国のコーヒー好きさんに飲んでもらいたいですね。

 

コーヒー好きな人にはもちろん飲んで頂きたいですけど、スペシャルティコーヒーって高値を付けているところも多いじゃないですか?農園さんが頑張って作ってくれたコーヒー豆を飲んでもらえなくて、眠っていると意味がない。だから、そんなに高値は付けていません。
色んな人に「こんな美味しいコーヒーを作ってる農園さんがいっぱいあるんですよ。」って知ってもらえたら嬉しい。

オンラインショップはこちらから
焙煎香房シマノオンラインショップ
〈支払い方法〉
クレジットカード、商品代引、銀行振込(りそな銀行)、銀行振込(PayPay銀行 )
〈出荷までのタイミング〉
注文後、3営業日以内に発送。(特定の時期や特殊な条件のある場合を除く)

コーヒー業界の未来

——サードウェーブと言われる時代が来て、コーヒー業界も大きく変化していると思いますが、今後も深化していくと思いますか?

 

この15年、20年くらいでだいぶ変わりましたよね。ナチュラル・ウォッシュド以外のプロセスで最初に出てきたのが「ハニープロセス」っていうのが出てきて、たしか20年経っていないんです。最初に聞いた時にはびっくりしたし、甘さや香りの違いにもびっくりした。
今も新しいプロセスを研究している農園さんも沢山あるし、新しい品種の研究もされているので、更に10年後とかにはだいぶ変ってるんじゃないかな。
品種に関しては色んな品種が出てきてるし、とりあえず新しい品種が出てきたら飲んでみたいので、手に入れる努力はしていきます。

まとめ

今回、事前に『スウィートベリー ワイニー』を送っていただき、CAFEND編集部でもハンドドリップして飲んでみましたが、焙煎香房シマノで出して頂いたコーヒーとは全くの別物でした。その違いについて島野さんに聞いたところ、「美味しくない要素を出さなければいいんです。」とおっしゃいましたが、よりコーヒーの甘みを出す抽出のコツを教えて頂きましたので、簡単に説明いたします。

 

淹れ方:ハンドドリップ
〈point1〉
蒸らすとき、お湯の量は粉全体にいきわたる量で、下から落ちない程度にする。
お湯の量が多いと、加熱時間が長くなり苦みが出てしまいます。

〈point2〉
ドリップは「の」字を書いて全体に広くドリップしながら、ポットを上下させて泡を潰しながら淹れる。
ドリップ時に出てくる泡は灰汁みたいなもので、雑味のかたまりですが、そこには香りと甘味が吸着しているので、潰すことで香りと甘味が立ちます。そこに、その泡を潰すことで雑味が極わずかに落ちます。料理でもそうですが、コクとは、「味の複雑さ」つまり、味の奥行です。味が複雑になることで奥行が生まれ、コクになります。

〈point3〉
ドリップする時、泡が落ち切る前にお湯を足す。
泡が落ち切ってしまうと、雑味が出過ぎてしまいます。

〈point4〉
ドリップ時間はあまり時間をかけ過ぎない。
時間をかけて落とすほど苦みを感じやすくなります。

簡単な説明ですが、コツとしてはこのような感じです。特別な手順は特になく、少しのコツで味が劇的に変わります。
焙煎香房シマノで飲んだコーヒーは、甘味が丸く、編集部で淹れたのは角が立っているような尖った味わいでした。教えて頂いた方法で淹れたコーヒーは、冷めた時にも甘味とフルーティーさを感じ、これは「甘い生豆を甘味を感じられるように焙煎して、甘味を感じてもらえるようにように抽出したい。」という島野さんのこだわりです。
是非、焙煎香房シマノの豆でこの淹れ方を試してみてください。

 

取材前、オンラインショップやHPを見た時、あまりの詳細な説明書きをみて、理屈っぽい方だったらどうしようと心配していましたが、会ってみたらとても優しく、おおらかな方でした。(笑)

品種や乾燥方法で味が変わることや、農園さんの努力を伝えたいという気持ちがとても強く、知っている情報を全てHPやInstagramで紹介しています。

 

焙煎香房シマノHP

オンラインショップ

焙煎香房シマノInstagram

 

最後に、取材を通じて感じたことは、長年コーヒー業界に携わっていても、常に新しいコーヒーを求めて探している島野さんはやはり、"コーヒーマニア"でした。
今後も焙煎香房シマノの深化に目が離せません。

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