日本で唯一、ゲイシャ種のスペシャルティコーヒーだけを提供する、ゲイシャコーヒー専門店として話題の「GESHARY COFFEE (ゲシャリーコーヒー)」。
華やかな大人の街・日比谷に誕生した同店は、コーヒーのおいしさもさることながら、その居心地の良さや街のイメージにフィットした上質で魅力あふれる空間デザインでも注目を集めています。
そこで今回は、店舗のインテリアデザインを手掛けたデザイナーの竹田克哉氏にお話しを伺い、デザインのコンセプトやこだわりのポイントなどをご紹介していきたいと思います。
竹田克哉 Katsuya Takeda
TAKEDA KATSUYA DESIGN代表 http://takedakatsuyadesign.com/ ミラノ在住の日本人デザイナー。日本で建築実務を経験したのち、さらなる建築デザイン知識向上のため1998年にイタリア・フィレンツェ大学建築学部へ留学。以後、イタリアを拠点にラグジュアリーショップのデザインなど、主に欧州でさまざまなプロジェクトに携わる。GUCCIやDOLCE&GABBANA、ERMANNO SCERVINOといったハイブランドのショップデザインも手掛けている。 |
大人の街・日比谷に誕生した“コーヒーの楽園”
日本人にとってカフェやコーヒーがより身近な存在となりつつある昨今、希少なゲイシャ種をメニューに加えるお店やスペシャルティコーヒーに特化した専門店なども増えてきています。
そんな中、ゲイシャ種のスペシャルティコーヒーだけを提供する、世界的にも極めて珍しい“ゲイシャコーヒーの専門店”として登場したのが「GESHARY COFFEE」です。
その第1号店である日比谷店は、東京宝塚劇場や日生劇場、帝国劇場など名だたる劇場が建ち並ぶ、いわば日本のエンターテイメントの中心地に位置しています。
そんな大人が楽しむ街に構えるカフェだからこそ、求められるのは最上級のゲイシャコーヒーにも引けを取らない、上質でラグジュアリーな時間と空間。
今回そうした空間づくりを一手に引き受けたのが、イタリア・ミラノを拠点に活躍するインテリアデザイナーの竹田克哉氏です。
「GESHARY COFFEE」日比谷店の出店にあたり、竹田氏が掲げたデザインコンセプトは“楽園”。そこに込められた氏の思いとこだわりとは――?
――「GESHARY COFFEE」との出会いについて教えてください。
私のイタリア留学時代からの友人で、有名な靴職人の深谷さん(※)という方がいるんですが、その深谷さんが「GESHARY COFFEE」の木原社長ともお知り合いだったんです。
(※)深谷秀隆氏 イタリア・フィレンツェを拠点に活動する靴職人。日本人初の海外ビスポークショップ「il micio(イル・ミーチョ)」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーとして活躍中。 |
それで、その深谷さんから「今度知り合いが新しく始めるコーヒーショップのデザインコンペやるらしいよ」と教えていただいて。いい機会だから、と参加してみたら、運よくうちのデザインに決まったんですよ。
イタリアのミラノに拠点を構えてからはブランドだけでなく、物販系とか飲食店のデザインの仕事も増えてきまして、「いつか日本でも何かやってみたいな」と思いはじめていた時期でもあったので、今回お話しをいただいたのは本当にいいきっかけになりました。
――日本でのお仕事は初めてだったんですか?
そうなんです。日本でインテリアデザインの仕事をするのはこれが初めてで、しかもこんなに大きくて立派なお店ですからね。出来上がるまでは苦労も多かったですが、今はやっと日本にも自分の作品と呼べるお店ができた、という思いです。
農園視察で得た数々のインスピレーション
――“楽園”というデザインコンセプトはどのようにして決められたんですか?
じつは今回、コンセプトをまとめるまでがすごく大変だったんです。なかなかアイデアがまとまらず、アレコレ考えすぎて方向性を見失ってしまったこともありました。
そんな迷走状態が続いていたときに「じゃあ、ヒントを探しに現地まで行ってみましょうか」と視察に誘っていただいたんです。
木原社長からも「実際、農園を見てみないと雰囲気はわからないし、現地で得られるものがあるかもしれない」と言われ、急遽パナマとコスタリカの農園へ視察に行くことになったんです。
――ステキですね、いかがでしたか?
これまでにも仕事でいろいろな国に行く機会がありましたが、今回はその中でも群を抜いてハードな視察でした。とくに現地に着くまでの機内2泊は本当にキツかったですね(笑)。
でも、その辛い経験があったおかげか、到着翌日にパナマのボルカン火山麓にあるホテルで迎えた朝の印象は本当に素晴らしくて。あのときの感動はきっと一生忘れないと思います。
――具体的にどんな印象だったんですか?
一言で表すなら“この世の楽園”という感じですね。
見渡す限りの自然に囲まれた中で小鳥がさえずり、小川のせせらぎが聞こえてくるんです。
澄んだ空気を味わい、眺めを楽しみながら、ゆったりと時間を過ごす。東京にないものがここには全部ある。これこそ本当のパラダイス(楽園)なんだと思いました。
――デザインコンセプトの“楽園”は、そのときの体験から来ているんですね。
そうですね。あのとき感じた“楽園”という印象はとても鮮烈で、これをデザインの軸にしようと決めてからは、それまでの迷いが嘘のように一気に考えがまとまっていきました。
――視察では他にどんなところを見られたんですか?
農園で畑の様子を見たり、精製や焙煎をやっている工場を視察したりと、コーヒーが作られるほぼすべての工程を直接見て、可能なところは自身でも触れるようにしました。
皆さんご存じのとおり、ゲイシャという品種はコーヒーの中でも特別なものじゃないですか。
だから、まずはそこをちゃんと理解してデザインに取り組まないとダメだと思っていたので、視察で各工程に触れることができたのはとてもよい経験になりましたね。デザインのインスピレーションにも大いに役立っていると思います。
最高のゲイシャを育む雄大なテロワール(※1)とか、シェードツリー(※2)が影を作るコーヒー畑、カラッと乾燥した広いパティオ(※3)、精製や焙煎を行う工場など、それぞれの工程の特徴的な要素が日比谷店のデザインに活かされていますので、ぜひお店で農園の雰囲気を感じていただきたいです。
(※1)テロワールとは
コーヒー農園とそれを取り巻く自然環境のこと。生産地の地理や地形、土壌、気候などを総合的に見た特徴を指す。 (※2)シェードツリーとは 強い直射日光からコーヒーを守るため、日陰を作る目的で植えられる背の高い樹木のこと。バナナやマメ科の植物がよく用いられる。 (※3)パティオとは 精製したコーヒー豆を広げて乾燥させるためのスペース。スペイン語で「広場」や「中庭」という意味。より乾燥効率のいいアフリカンベッド(木製や金属製の枠に網を張った乾燥台)を使っている農園もある。 |
――日比谷店には、現地での体験やそこで得たアイデアが詰まっているわけですね。
そうですね。今回、「GESHARY COFFEE」さんと仕事をさせていただくにあたって感じたのが、コーヒー豆の産地にクローズアップしてデザインされたコーヒーショップって意外と少ない、ということでした。
そのせいかカフェにはよく行くけど、自分の飲んでいるコーヒーがどうやって生産されているのか知らないという人も結構多い。
だからこそ今回の日比谷店のデザインでは、ゲイシャというコーヒー豆の産地やプロセスをしっかりクローズアップして、その素晴らしさをインテリアや空間全体のデザインで感じ取ってもらいたいと考えたんです。
日比谷という立地も考慮し、直接的なデザインはできるだけ避け、あえて抽象的にゲイシャコーヒーの楽園を表現することも意識しました。
“楽園”というメインコンセプトに加えて、各フロアには「生産地」「農園」「精製」「焙煎」と個別のテーマも決められていて、それに沿った調度品やマテリアルのチョイス、使い方にもこだわっていて、そのひとつひとつにちゃんと意味を持たせているんです。
また、マテリアル自体もテーマに合わせて一から作っているので、ここにしかないオリジナルのものも多いんですよ。
――それはとても贅沢ですね。
そうなんです。これほど大規模なプロジェクトにデザイナーとして参加できたのは本当に光栄なことだと思っています。
異なる4つのテーマに何らかの共通性を持たせ、“コーヒーの楽園”を表現するというのは大変難しい作業でしたが、それ以上に楽しく充実した仕事をすることができました。
日比谷地区のカフェのシンボルに
――竹田さんにとっても代表作となった「GESHARY COFFEE」日比谷店ですが、今後どんなお店になってほしいですか?
「GESHARY COFFEE」さんは世界中からよりすぐった最高級のゲイシャコーヒーだけを提供している、唯一無二のコーヒーショップです。
ぜひそのおいしさ、素晴らしさをひとりでも多くの人に体験していただいて、「コーヒー飲むならGESHARY COFFEEにしようよ」と言っていただけるような、日比谷地区のカフェのシンボルになってくれたら嬉しいですね。
――デザイナーとしてはどういういところに注目してもらいたいですか?
フロアごとに雰囲気がまったく違いますので、その日の気分で「今日はこのフロアにしてみよう」と何度も楽しめる空間になっていると思います。
それぞれのテーマの違いとコンセプトの共通性、ひとつひとつのマテリアルが何を表現し、どんな意味が込められているのか、そうしたところにも注目して楽しんでもらえたらいいですね。
単純に色や形を組み合わせるのではなく、「雰囲気をデザインする」ことをつねに心がけているという竹田氏。
「GESHARY COFFEE」日比谷店は、そんな竹田氏が肌で感じた“楽園”の雰囲気をそのまま再現したような、コーヒー農園の風や大地の息遣いが感じられる、まさに唯一無二のコーヒーショップと言えそうです。
少し気の早い話ですが、今から2号店オープンの話も待ち遠しい。そんな気持ちにさせてくれるインタビューでした。
ぜひ皆さんも本場イタリアで活躍するインテリアデザイナーの手がけたお店で、コーヒー農園の雰囲気を感じながら最高級のゲイシャコーヒーを楽しまれてみてはいかがでしょうか?