日本でもっともメジャーなコーヒーの抽出方法と言えば、ペーパードリップです。
その器具であるドリッパーにはハリオ式やコーノ式など、いくつか規格があり、皆さんそれぞれにお気に入りやこだわりがあって選ばれていると思います。
では、もうひとつの欠かせない器具であるペーパーフィルターはどうでしょう?
ドリッパーの規格に合ったものを使っている、という方は多いと思いますが、それ以上にこだわっているという方はまだまだ少ないようです。
今回は、そんなペーパーフィルターに注目し、先ごろ発売された三洋産業の『CAFEC円すいコーヒーフィルター』シリーズで淹れ比べをしてみましたので、そのレポートをお届けしたいと思います。
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目次
焙煎度合ごとに3種のラインナップ
まずは『CAFEC円すいコーヒーフィルター』シリーズの特徴を見ていきましょう。
この商品の面白いところは、焙煎度合ごとに『浅煎り用』『中深煎り用』『深煎り用』の3種類のフィルターがラインナップされているところ。
ハンドドリップの競技大会でこのフィルターを使う人も増えているそうで、コーヒーマニアの間では発売当初から話題になっているアイテムです。
では、一般的なペーパーフィルターとは、具体的に何が違うのか?
使用している紙の質や厚さで差別化しているのかな、と思いがちですが、実際に見て、触って比べてみるとそうではない。
このペーパーフィルターの性能をわけているのは、紙の表面にあるシワ、「クレープ加工」の違いなんです。
「クレープ加工」というのは、紙の表面についているシワのようなもの。元々、素材にあるものではなく、フィルターに加工する工程でつけられるものなんですが、『CAFEC円すいコーヒーフィルター』では、この「シワの深さ」が性能をわけるカギになっています。
・浅煎り用円すいコーヒーフィルター
『浅煎り用』は、フィルターの外側だけクレープ加工が施してあり、内側は未加工でつるつるした滑らかな触感です。
クレープ加工によってフィルター表面の凹凸感が強い(シワが深い)ほど、抽出速度が速くなるそうです。
つまり『浅煎り用』は、内側にシワをつけないことで、抽出速度がゆっくりになるように狙って作られているというわけ。
フィルター外側の凹凸感もそこまで強くなく、細かいシワがたくさんあります。
・中深煎り用円すいコーヒーフィルター
『中深煎り用』は、フィルターの外側と内側、両方にクレープ加工が施されています。
3種類のラインナップの中では、もっともシワがはっきりしていて、触ったときの凹凸感も強く、『浅煎り用』とはまったく感触が違います。開封前のパッケージの厚さも3商品の中で『中深煎り用』が一番でした。
これだけシワが強くつけられていると、抽出速度もかなり速くなるものと予想されます。
・深煎り用円すいコーヒーフィルター
『深煎り用』も『中深煎り用』と同様、フィルターの外側と内側にクレープ加工が施されています。
ただ、こちらのほうがシワが細かく、凹凸感も『浅煎り用』に比べて弱く感じられます。
クレープ加工が抽出速度に与える影響は、この商品がもっとも少ないと予想できますが、内側にシワのない『浅煎り用』との性能差が気になるところです。
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実際に淹れ比べてみよう!
それでは、実際にコーヒーを淹れてみて、その性能の違いを比べてみましょう。
今回はそれぞれのフィルターに合わせて、以下のコーヒー豆を用意しました。
・浅煎り:エチオピア イルガチェフェ コンガ(ミディアムロースト)
・中深煎り:パナマ ドン・ベンジー農園(シティロースト)
・深煎り:インドネシア スマトラタイガー(フレンチロースト)
それぞれのコーヒー豆を使って、以下の順番で淹れ比べをしていきます。
1.標準的なフィルターとの淹れ比べ
三洋産業の標準的なペーパーフィルターである『アバカ円すいコーヒーフィルター(以下、アバカフィルター)』を使って、風味の違いを比較します。
『アバカフィルター』は、通気性としなやかさに優れたアバカ(マニラ麻)を素材に使用したフィルターで、内側と外側にしっかりクレープ加工が施されていて、凹凸感は強めです。
2.同じ豆を使って3種類のペーパーで淹れ比べ
同じ豆を使ってそれぞれのフィルターで抽出し、風味の違いを比較します。
フィルターごとにメーカー推奨の抽出温度があるようですが、今回は比較ということで、レシピは豆20グラム、抽出量200cc、抽出時間は約3分で統一しています。
①浅煎り豆を使った淹れ比べ
ここからは、それぞれの検証を通じて、感じたことを書いていこうと思います。
①-1.『浅煎り用』と『アバカフィルター』の比較
『アバカフィルター』は、どの焙煎度合のコーヒー豆でもバランス良く風味が出る傾向にあります。今回の検証でも浅煎り豆の酸や軽やかさがありつつも、穏やかな印象になっていました。
対して『浅煎り用』のフィルターは、『アバカフィルター』に比べて風味が強く出ている印象です。浅煎りにも関わらずしっかりしたコクが出ていて、甘みと味の輪郭がハッキリと感じられました。
①-2.浅煎り豆で3種類のフィルターを比較
『浅煎り用』のフィルターは、この検証でもやはり風味の凝縮感が印象的で、浅煎り豆なのにしっかりした風味が出ています。
『中深煎り用』フィルターは、とにかく柔らかい印象です。味の強さとしては『浅煎り用』よりもゆるい感じですが、舌触りはスムースに感じました。
『深煎り用』は、全体の印象は『中深煎り用』と似た柔らかい感じですが、コクがしっかりしています。ただ、『浅煎り用』ほどの凝縮感ではなく、この両者の間くらいの印象です。
この時点で、すでに各フィルターの特徴がとてもわかりやすく出ていることに驚きました。
とくに『浅煎り用』フィルターは、凝縮感の強い風味に仕上がるので、浅煎り豆の特徴である酸の明るさや全体の軽やかさがお好きな方だと、賛否がわかれるかもしれません。
フィルターの違いでここまで凝縮した風味を引き出せたのは、素直に驚きでした。
②中深煎り豆を使って淹れ比べ
②-1.『中深煎り用』と『アバカフィルター』の比較
中深煎りの豆を使うと『アバカフィルター』でも、ぎゅっと凝縮した感じが出てきます。バランスの良さはそのままで、パンチのある風味です。
一方、『中深煎り用』フィルターは『アバカフィルター』よりも全体に優しく、柔らかい印象です。余韻も長く、ここまで穏やかな風味に仕上がるのは驚きですが、人によってはやや味が薄いと感じるかもしれません。
②-2.中深煎り豆で3種類のフィルターを比較
『浅煎り用』のフィルターはやはり凝縮感が強いのですが、少し堅苦しい印象もありました。浅煎り豆に比べ、中深煎りの豆は元々の味が強いので、凝縮感が強くなりすぎるのかもしれません。
『中深煎り用』は全体にとても穏やかで、柔らかい印象のコーヒーに仕上がるようです。
抽出速度が早い(お湯抜けが良い)ため、コクがしっかり出にくいところがありますが、この独特の穏やかさはとても心地よく好印象です。
『深煎り用』は『中深煎り用』と印象が似ていますが、こちらの方がコクが強く出ているように感じました。コクのあるコーヒーが好みの方には『深煎り用』の方が合うかもしれません。
③深煎り豆を使って淹れ比べ
③-1.『深煎り用』と『アバカフィルター』の比較
今回検証した中で、もっとも近い風味に仕上がったのがこのふたつです。どちらもバランスが良く、スッキリとした味わいでした。
強いて言えば『アバカフィルター』はコクが強くハッキリした風味、『深煎り用』は柔らかく穏やかな印象です。
温度が下がると、さらに印象が近づくことからも、元々よく似た構造のフィルターなんだと思います。
③-2.深煎り豆で3種類のフィルターを比較
『浅煎り用』フィルターは、ここでも凝縮感が強く出ていましたが、余韻があまり感じられませんでした。風味もややこもった感じに出ていたように思います。これもこのフィルターの特徴のようです。
『中深煎り用』は、ひたすら柔らかく全体に優しい印象の仕上がり。深煎り豆を使ってもこの傾向は大きく変わらないようです。
一方の『深煎り用』は、『浅煎り用』と『中深煎り用』の良い所取りという感じで、ほど良いコクと余韻が感じられました。
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ペーパーフィルターの見方を変える画期的なアイテム!
実際に淹れ比べてみたら、それぞれのフィルターで明確な個性があることがわかりました。簡単にまとめると、以下のような感じです。
・浅煎り用:凝縮感のあるしっかりした風味
・中深煎り用:全体に柔らかで穏やかな風味
・深煎り用:浅煎りと中深煎りの中間で、コクがありつつも柔らかい風味
もうひとつ、検証してよくわかったのは、浅煎りの豆には『浅煎り用』、深煎りなら『深煎り用』といった具合に、やはりコーヒー豆の焙煎度合にフィルターを合わせると、その特性を活かした抽出ができるように、うまく工夫されているな、ということです。
試してみたいけど、どのフィルターを買えばいいか迷う、という方は、まずは自分がよく飲むコーヒーの焙煎度合に合わせてフィルターを選ぶのがオススメ。この記事を参考に、自分の好みに合いそうなものを選んでみるのも面白いですよ!
「ペーパーフィルターなんてどれも同じ」という既成概念を見事にひっくり返す、とってもよくできたアイテムですので、ぜひ皆さんも一度試してみてください。