先日、1杯1万円のコーヒーがテレビ番組で紹介され、放送後にはネットニュースなどでも大きく取り上げられて、世間をざわつかせました。
その一方で、コンビニエンスストアに行けば、1杯100円で有名バリスタ監修の淹れたてコーヒーを飲むこともできます。
同じコーヒーなのに100倍もの価格差があるって、なんだか不思議な話ですよね。
ここに一体どんなカラクリが隠されているのか? やや概論的な話になってしまいますが、今回はコーヒーの価格の裏側をちょっと覗いてみることにしましょう!
コーヒーには相場がある
いきなり価格の話に入る前に、まずはコーヒー豆のグレードについてお話しておきます。
コーヒー豆には、その格付けを示す基準として「グレード」が設けられています。
一般的な品質のコーヒー豆は「コモディティ(Commodity)」、一定の基準を満たした高品質な豆は「スペシャルティ(Speciality)」に分類され、このグレードによって価格の決められ方が異なるのです。
まず、価格帯としてはもっとも安い「コモディティ」から解説していきましょう。
意外と知られていませんが、コーヒー豆は金や原油、大豆などと同じく先物取引の対象で、中でも「コモディティ」に分類されるコーヒー豆は取引市場でその相場が決まります。
アラビカ種はニューヨーク市場で取引され、2019年6月の平均値は1kgあたり309.5円。一方、カネフォラ(ロブスタ)種はロンドン市場の取り扱いで2019年6月の平均値は1kgあたり176.33円でした。
当然、先物取引ですから世界中で起きるさまざまな出来事に連動して相場が変動します。コーヒーに関して、とくに影響が大きいのがブラジルの作柄で、豊作が報じられると相場が下がり、不作になりそうだとニュースが流れると一気に高値になることも……。
また、投機目的で投資している人も多いため、ときには予想を超える値動きを見せることもあり、世界のコーヒー業界はそのたびに右往左往させられることになります。
極端に相場が上がれば値上げは避けられなくなりますし、反対に下がりすぎると生産者が赤字になってしまうこともあるのです。
スペシャルティはダイレクトトレード
一方、「スペシャルティ」に分類されるコーヒー豆は、先物取引市場のコーヒー相場を参考にしつつ、農園と消費側(バイヤー)が直接交渉して価格を決める「ダイレクトトレード」によって取引が行われています。
高品質な「スペシャルティ」の豆は「コモディティ」に比べ、取引価格も高め。一店主の立場では、現地での詳しい取引価格までは把握しきれませんが、一般的には「コモディティ」の相場の5割増しくらいで取引されています。
ダイレクトトレードの良いところは、「品質の良いコーヒーを作ると相応の高値で買ってもらえる」という認識を生産者たちに広めたこと。これが産地に良い影響を与えています。
最初に手間をかけて品質を上げる努力をしなければならないのは生産者側なので、立ち上げには大きなリスクを伴いますが、うまく軌道に乗れば、収入は大幅にアップ。実際そうして暮らしぶりが良くなった生産者も増えているのです。
ダイレクトトレードのおかげで、生産者の努力がきちんと報われる環境ができ、その結果、高品質なコーヒーの安定した供給が支えられているわけですね。
オークションで取引される豆は別次元
コモディティやスペシャルティとは別にオークションにかけられて取引されるコーヒー豆もあります。
そうしたオークションの中でも、「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」と呼ばれる品評会がとくに有名で、主に中米の生産国で毎年開催されています。
この品評会で入賞したコーヒー豆は、世界で同時開催されるインターネットオークションに出品されます。
オークションですから落札価格はその時々で異なりますが、最低価格でも一般的なスペシャルティの値段の2~2.5倍くらい。人気が集中すると4倍以上に跳ね上がることもあります。
また、生産量が限られた作物であるため、その希少性に対して高値がつけられることも少なくありません。
私も一度、インターネットオークションに参加したことがありますが、刻一刻と変わっていく状況の中、狙っているコーヒーをいかに安く落札するかの駆け引きと立ち回りが要求され、なかなかの緊張感でした。
生産者からすると、こうしたオークションは人生が一変する可能性を秘めたチャンスの場でもあります。
それだけに多くの生産者が品評会での入賞を目指し、手間をかけ、愛情を注いだ最高のコーヒー豆を出品するのです。
ケニアでは、スペシャルティに分類されたすべてのコーヒー豆がオークションで取引されるようになるなど、生産者を支援する新たな動きも出始めています。
「ゲイシャ」の値段が高い理由は?
ここ数年、何かと話題に登ることが多い「ゲイシャ」というコーヒーの品種があります。じつは1杯1万円のコーヒーもこの「ゲイシャ」を使ったもの。
当然、話題の多くは価格に関することで、コーヒーにしてはあまりに高すぎるお値段に「何が違うんだろう?」と不思議に思われた方も多いのではないでしょうか。
「ゲイシャ」が高値になる理由は、これまでの解説にその秘密が隠されています。
第一の理由は、「ゲイシャ」という品種の特徴です。
この「ゲイシャ」という品種、病気への耐性が低い上に収穫量も少なく、さらに木そのものの寿命も短いため非常に手間がかかり、安定的な生産が非常に難しいと言われています。
もうひとつの理由は、とても特徴的で魅力に溢れた風味です。フローラルの香り、柑橘系の酸といった独特なフレーバーは品評会での評価も高く、世界中のコーヒー愛好家を虜にするほど。
コーヒー市場から消えつつあったゲイシャ種を広く世に広めたパナマのラ・エスメラルダ農園は、今では独自にオークションを開催し、ゲイシャの販売を行っています。
「ゲイシャ」によって世界的な知名度を得た農園が、その年もっとも手間をかけたゲイシャを出品する貴重な機会だけあって、毎年オークションは白熱し、価格も高騰を続けています。
抜群においしい上に生産量がごくわずかとなれば、価格がつり上がっていくのは当たり前。そんな「ゲイシャ」ブームにあやかろうと便乗する国も増えてきています。
早いところでは6年ほど前から、すでに「ゲイシャ」の生産を始めていて、最近ではパナマ以外にもさまざまな国の「ゲイシャ」が出回るようになってきました。
それに伴い、品質にも幅が出てきて、かなりお手頃な価格帯のものも出回るようになりました。最上級のものに比べれば、だいぶ身近に感じられる値段になってきているのは嬉しいですよね。
店頭価格はそれぞれのお店次第
コーヒー豆の価格がどのように決められているか、大まかな仕組みがおわかりいただけたでしょうか?
安いコーヒー、高いコーヒーにはそれぞれに背景があり、値付けもそれに基づいてされています。もちろんそこには各店舗の事情や経費、見込みたい利益なども含まれるため、同じ豆だからといって、皆が同じ値段になるわけではありません。
ただ、ひとつ覚えておいてほしいのは、コーヒーの価格がそのままおいしさと比例するとは限らないということ。
どんなに高品質なコーヒー豆でも、1杯のコーヒーになるまでの保管状況や焙煎、抽出のしかたなどで味が大きく変わってきますし、店主が自信を持って提供する1杯もお客様の好みに合わないことだってあるでしょう。
コーヒーの価格に目を向けることは、農園から1杯のカップになるまで、さまざまな事情が絡み合い、人々が関わり合って成り立っていることに気付く、よいきっかけになります。
少し興味を持たれた方は、ニューヨークやロンドンのコーヒー相場を覗いてみると面白いかもしれません。世界のコーヒー事情をより身近に感じられるはずですよ。