世界的にも稀有なゲイシャコーヒーの専門店として、コーヒーフリークたちの間でもすっかりお馴染みの存在となりつつある「GESHARY COFFEE」。
特集インタビューの第6弾では、自社開発の全自動コーヒーマシン『FURUMAI』のアンバサダーであり、「GESHARY COFFEE」のプロジェクト立ち上げ当初からコンサルタントとしても尽力している、株式会社アクトコーヒープランニングの阪本義治代表にお話しを伺いました。
「GESHARY COFFEE」の“これまで”と“これから”、ゲイシャ専門店としての役割、さらに国内外から熱い視線が注がれている『FURUMAI』に寄せる想いなど、裏側を深く知る者の一人として、また業界を牽引するトップランナーとして、ズバリ語っていただきました。前後編の2本立てでご紹介していきます。
阪本義治 Yoshiharu Sakamoto
株式会社アクトコーヒープランニング 代表取締役
大手外食チェーンでの勤務を経て、29歳でコーヒー業界入り。丸山珈琲では複数の店舗を束ねる統括ディレクターとして活躍する一方、職業としてのバリスタに早くから着目し、日本初のバリスタトレーナーとして若手の育成にも尽力。世界各国のバリスタが腕を競う競技会「バリスタ・チャンピオンシップ」にて世界チャンピオンを輩出するなど、優秀な人材を多く世に送り出している。2015年に独立し、株式会社アクトコーヒープランニングを設立。若手バリスタの育成をする傍ら、カフェやコーヒー専門店のコンサルティング業務、セミナーなどの講演活動も精力的に行い、「コーヒーのプロ」として日々忙しく全国を飛び回っている。 |
いつでも最高級のゲイシャが飲めることの素晴らしさ
――「GESHARY COFFEE」がオープンして半年が過ぎましたが、コーヒーのプロである阪本氏の目にこのお店はどのように映っていますか?
コーヒー好きの方ならすでによくご存じだと思いますが、この「GESHARY COFFEE」は、コーヒーの中でもとくに希少な「ゲイシャ」という品種に特化した、世界でも類を見ないゲイシャコーヒーの専門店です。
最近ではイベントや期間限定の商品としてゲイシャを扱うお店も増えていますが、「GESHARY COFFEE」に行けば、いつでも最高級のゲイシャを楽しめる。しかも一種類だけじゃなく常時数種類を取り揃えている、こんなお店は他にありませんよ。本当に素晴らしいことだと思います。
これからのコーヒー業界、そして消費者のためにも、この事業はぜひ継続して、さらに広げていってほしいですね。微力ながら僕もそのお手伝いをしていきたいと思っています。
そもそも「ゲイシャ」というのは、他の品種と比べて非常に手間もコストもかかる繊細な品種なんです。そのうえ収穫量は少なく、土地との相性も難しいため、どこの農園でも植えれば育つというものではない。
そういった背景もあって、市場での取引価格は必然的に高くなり、それを末端のカフェで提供しようとすると一杯何千円にもなってしまう。でも、これでは売り手にとってあまりにハードルが高すぎる。お客様がみんな一杯数千円のコーヒーを飲んでくれるわけではありませんからね、扱いたくても簡単には手を出せないんです。
だから、パナマの品評会でゲイシャが初めて世に出た2004年から十数年が経った今でも、市場的にはほとんど広がっていないし、ゲイシャ自体ご存じない方も多いわけです。
こうした状況は、僕のようなコーヒー業界で働く人間にとってはとても残念なことですし、ゲイシャの魅力や素晴らしさが伝わらないままに埋もれているのは本当にもったいないと思っていました。
そんなとき「GESHARY COFFEE」さんがゲイシャコーヒーの専門店をやろうじゃないか、と声を上げてくださったので、これは業界のためにも、消費者のためにも絶対に必要なことだと思って、僕もこのプロジェクトに賛同したんです。
――たしかにゲイシャにはコーヒーに対するイメージをガラッと変えてしまう、それくらいのインパクトがありますよね。
そうなんです! 僕を含め、世界中のコーヒー従事者が初めてゲイシャを口にしたときに感じた、あの衝撃をぜひ皆さんにも体験してもらいたいんです。そのうえでコーヒーの新しい魅力や奥深さ、おいしさというところにも目を向けてもらえたら嬉しいですね。
日本でコーヒーというと、深煎りでどっしりとした苦味の強いもの、というイメージがまだまだ根強いじゃないですか。でも、その一方でコーヒーは苦いから嫌いという人もいる。今までコーヒー業界はそういう人たちを置き去りにしてきたわけですが、ゲイシャは苦いコーヒーが嫌いな人にこそ試していただきたいんです。
ゲイシャが持つ華やかな香りや甘み、酸味というのは、昔ながらのコーヒーとはまったく別次元のもので、それこそコーヒーのイメージを一変させてしまう。今までコーヒーが苦手で飲めなかった人にもきっとおいしいと感じてもらえる、ゲイシャにはそれくらいのパワーがあるんです。
既存のコーヒーの概念を変え、さらに幅を広げていくには、やはりゲイシャくらい強烈なインパクトのあるコーヒーをもっと世に出していくことが大事なんです。
「GESHARY COFFEE」さんにはゲイシャの魅力を広め、コーヒーの新たな価値観を作り上げていく、その旗振り役として、ぜひこれからのコーヒー業界を引っ張っていってほしいですね。
ゲイシャ専門店に課せられた“ミッション”とは
――ゲイシャコーヒー未体験の方に、「GESHARY COFFEE」でゲイシャを楽しむためのアドバイスなどはありますか?
あまり難しいことは考えずに、まずは気軽に一杯飲んでいただくのがいいと思います。
というのも、ゲイシャ未体験の方には、まず一度味わっていただかないと、あの華やかさや味わいというのは言葉だけでは伝えきれないですからね。
一口飲んでもらって「あ、ゲイシャってこんな味なんだ!」という新鮮な驚きを楽しんでもらいたいです。
――とくにオススメのメニューなどはありますか?
お店のスタッフに聞くと、自社農園のハシエンダ・コペイをお勧めされると思います。もちろんここの農園のゲイシャも抜群においしいんですが、いっしょに買い付けなどもやらせていただいている僕としては、やはりそのときお店で一番高い豆をぜひ飲んでほしいですね。
今、お店でお出ししているゲイシャで一番価格の高いものは一杯2,500円するんですけど、本当のことを言うと2,500円じゃまったく元が取れない。それくらい最上級の豆なんです。でも、これ以上値段を高くすると誰にも飲んでもらえないじゃないですか。だからギリギリの値段で止めているんです。
お店としては売れば売るほど赤字になってしまうんですけど、そこはゲイシャ専門店ですからね。元が取れないような値段であっても、つねに最高のゲイシャを取り揃えておきたいですし、本当においしいゲイシャコーヒーをご提供したい、という信念でこの値段でお出ししています。
コーヒー一杯に払う金額としては、かなり勇気がいると思いますが、飲まれた方は皆さん必ず驚かれます。それくらい強烈なインパクトと、値段以上の価値を持った一杯ですので、最高のゲイシャを味わってみたいという方は、ぜひ試してみてください。
――そう言われると、ちょっと飲んでみたいな、という気分になりますね。
そう思っていただけると嬉しいですね(笑)。やはりメニュー表の値段と商品名だけじゃ、おいしさや価値は伝わらないですから。
じつは今、より多くのお客様にゲイシャの価値と魅力をお伝えし、その感想や反響をしっかり掬い上げるためのひとつのアイデアとして、新しい商品提供のスタイルを試しているところなんです。
これまでは1階のカウンターでオーダーして、商品を受け取ったら座席へ、という流れのセルフサービス式を採用していたんですが、このスタイルだとレジ前が混雑しやすく、お客様とのコミュニケーションも取りづらいという課題がありました。
そこで今、試しているのが、1階でオーダー後にスタッフがお客様の座席まで商品をお持ちする配膳方式です。これだとお客様との自然な会話やコミュニケーションの機会が作りやすく、商品やお店のコンセプトなどをお話しする中で、お客様の声もより多く聞くことができるようになりました。
最高級のゲイシャに特化した唯一無二の専門店だからこそ、今後この可能性をどこまで広げていけるか、どうやって広げていくのかをしっかり見据えて、考えていく必要がある。そのための重要なヒントがお客様からのフィードバックにあると僕は考えています。
――お客様からの反響でなにか面白いものはありましたか?
僕が面白いなと感じたのは、今飲んでいるコーヒーがどんな農園で作られたのか、生産環境や生産者の人となりに興味を持たれるお客様が意外に多いということです。とてもステキなコーヒーの楽しみ方だと思います。
あとは、先ほども少しお話ししましたが、価格や味に関する話題も多いと聞いています。「普通のカフェだと思って入ったら全然違った」「目からウロコの体験だった!」と驚かれる方もいらっしゃるようです。
そうして興味を持っていただいたお客様にこそ、ゲイシャという品種の希少性だとか、収穫量の少なさ、育成の難しさなどをお話しして、値付けの理由を説明しなきゃならないと思うんですよ。
おいしいから値段を高くしているんじゃなくて、値段の裏側にある理由もきちんとお伝えして、それを納得して楽しんでいただく。ゲイシャの価値を理解したうえで、また飲みたいと思うファンをひとりでも多く増やしていくことが、この「GESHARY COFFEE」に課せられた重要なミッションだと思うんです。
まだ試験的に始めたばかりですが、今後もこうしたお客様とのコミュニケーションの機会は増やしていきたいですね。その方法を今も「GESHARY COFFEE」さんと模索しているところです。
――昨今のコロナ禍もあって、まだ外出や外食に抵抗感のある方も多いと思います。そんな今だからこそ、直接的なコミュニケーション以外でファンにアプローチしていくアイデアというのは何かありますか?
そうですね、今まさに「GESHARY COFFEE」さんといろいろ計画しているところなんですが、近々公開できそうなものとしては、オンラインショップがあります。
なかなか東京のお店まで足を運べない、自宅でも「GESHARY COFFEE」の味を楽しみたいという方に向けて、一日も早くスタートできるよう頑張っています。詳しくは近日中に公式なアナウンスがあると思いますので、もう少しお待ちください。
――自宅で楽しめるというのはいいですね!
現在も日比谷店では、数種類のゲイシャをコーヒー豆とドリップバッグで販売していまして、とくにドリップバッグはそれぞれの豆のコンディションに合わせて、挽き目や味の調整をすべて手仕事で丁寧にやっているんです。
大量に作り置きはせず、在庫の状況を見ながら適宜必要な分だけ作ってお出ししていますので、豆の品質、新鮮さには自信がありますよ。
また、ドリップバッグをお買い上げいただいたお客様には、お湯の量や抽出時間などの淹れ方を解説したマニュアルもお付けしています。そのとおりに淹れてもらえば、誰でも簡単にお店の味を再現できますので、手軽に楽しみたいという方や贈り物にもぴったりだと思います。
「GESHARY COFFEE」が目指す“これから”とは
――阪本さんが今後、「GESHARY COFFEE」とともに達成していきたい目標などはありますか?
幸か不幸か、この一、二カ月は新型コロナウイルスの影響もあって、慌ただしかったお店が一段落し、僕もスタッフの方々も自分たちの足下をしっかりと見つめ直すことができました。
東京の一等地にゲイシャコーヒー専門店を構えたことの意義。そこで僕たちは何がしたいのか、何をする店なのか。そういったことを改めて整理して考えることができたんです。
そうして導き出したひとつの目標が、まずはこの日比谷店が「正しい情報を発信していく場になる」ということです。
たとえば、さまざまなゲイシャを試飲できるテイスティングのパーティーであるとか、生産者の方を招いて講演していただくのも面白いですよね。まだアイデアの段階ですが、「GESHARY COFFEE」には単にゲイシャの専門店だけではなく、最先端の情報発信地としての役割も担ってもらいたいと考えているんです。
それはやはり東京の一等地で、前代未聞のゲイシャ専門店という店を構えた会社の使命でもあるし、「GESHARY COFFEE」にはそれだけの力も備わっていると思っています。僕もそのサポート役として、これからも力を尽くしていきたいですね。
経済活動も徐々に復活の兆しを見せ始めていますし、我々もその動きに合わせて、少しずつですがいろいろなイベントなどを仕掛けていこうと準備を進めているところです。
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次回、後編では阪本氏と全自動コーヒーマシン『FURUMAI』との関わりや開発当時の裏話、FURUMAIアンバサダーとしての活動などをご紹介していきます。