古くから独自のコーヒー文化が花開いたイタリアには、多くのロースタリーが存在します。中でも、イタリア東海岸上部に位置する都市フォルリにある『Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)』は、スペシャルティコーヒー専門のコーヒー焙煎所です。
本記事では、コーヒーの本場ともいわれるイタリアのみならず、世界中のコーヒー好きに愛されている『Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)』をご紹介します。
目次
『Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)』とは?
「Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)」(以下、ガルデッリ)は、イタリアのコーヒー業界ではかなり有名なロースタリーです。国際的なコーヒー焙煎競技大会「ワールド・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップ(World Coffee Roasting Championship)」で優勝経験を持つ焙煎士によって創業されたガルデッリは、どのようなロースタリーなのでしょうか?
『Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)』のはじまり
ガルデッリの創業者であるルーベンス・ガルデッリ(Rubens Gardelli)さんは、フォルリの街でカフェを経営していた両親のもとに生まれました。そんな背景を持つ彼がコーヒーの焙煎に興味を持つようになったのは、ごく自然なことだったといえるでしょう。
しかし、恵まれた環境で育ったとはいえ、プロフェッショナルな焙煎士になるには多くの時間を費やさなければなりませんでした。最初、ルーベンスさんは一度に最大50gのコーヒー豆を焙煎できる小さな焙煎機を購入し、試行錯誤を繰り返したといいます。
彼は焙煎の知識と経験がほとんどない状態からスタートし、感覚と創造性を駆使して独自の焙煎ルールを確立していきました。焙煎士としてレベルアップするごとに使用する焙煎機も変わっていき、50gから300g、その次は自分で作った700gの焙煎機、さらに5kgを経て現在では15kgのマシンを使用しているそうです。このピンク色の15kgの焙煎機は「Genio」というブランドのもので、ルーベンスさんの長年の友人であるネイル・マレーさんが製作しました。
こうして、2010年には地元にロースターリーを構えたルーベンスさんでしたが、転機が訪れたのは2014年のこと。ほんの腕試しの気持ちから参加したワールド・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップのイタリア国内大会で優勝し、それ以来同大会で4連覇を果たすことになります。その後、2018年には世界チャンピオンの座を獲得しました。
世界中に顧客を持つ有名コーヒーロースターに成長
2014年以降、イタリアのコーヒー業界で有名焙煎士としてその名を知られるようになったルーベンスさん。しかし、国際的な焙煎競技会で優勝して世界一の焙煎士になったことをきっかけに、イタリア国内だけではなく、世界中のレストランやカフェからコーヒー豆の注文が殺到するようになります。
大量の注文をさばくために、2018年前半にはロースタリーをフォルリ郊外に移動しなければなりませんでした。現在ではイタリアはもちろん、イギリス、フランス、スペイン、カナダ、スイス、ハンガリー、ポーランド、スロヴァキア、香港、アラブ首長国連邦の国々などにあるレストランやカフェにてガルデッリのコーヒーを楽しめます。
コーヒーへの情熱とビジネスの成長
1回の焙煎を1バッチと数えますが、ガルデッリではルーベンスさん自らすべてのバッチに携わっています。ガルデッリが世界中に顧客を持つ人気ロースタリーであることを考えれば、創業者がすべての焙煎作業に携わることが、どれほど大変で凄いことかがわかるのではないでしょうか。
世界トップレベルのコーヒー焙煎士であるルーベンスさんですが、コーヒービジネスで成功した今も彼のコーヒーへの情熱は冷めやることを知りません。彼はコーヒーの焙煎をビジネスとして捉える以前に、ただ興味の赴くままに好きなことを突き詰めた結果、現在の立場を手に入れたのだととあるインタビュー記事の中で述べました。
トップロースタリーであり続けるために
世界的なコーヒーブームにより、次々と新しいロースタリーが誕生する中で常にトップを走り続けることは容易なことではありません。それはガルデッリのように、どんなに素晴らしいコーヒーを供給し続けているロースタリーであったとしても同じことがいえるようです。
ルーベンスさんはビジネスを拡大させるために、コーヒーの味にこだわることに加えて、チームワークの大切さを強調しています。彼のロースタリーには、優秀なスタッフが揃っています。例えば、ガルデッリのコーヒーバッグには「ピンクの白鳥」がデザインされており、ほかのどんなロースタリーとも違った唯一無二の存在となっています。これは、ガルデッリのアートデザイナー部門やマーケティング部門の功績だといえるでしょう。
ほかにもルーベンスさんの母親であり、ガルデッリのオーダーマネージャーであるシンシアさんは、注文を処理するに止まらず、コーヒーのバッグの梱包とラベル付けを手作業で行いロースタリーを支えているのだとか。
また、2019年にオープンしたガルデッリのカフェの経営責任者、およびヘッドバリスタを務めるマッテオさんもロースタリーに欠かせない人材です。彼は2013年に出場したラテアートの大会でルーベンスさんと出会ったことをきっかけに、スペシャルティコーヒーについての知識を深めてきました。その後2014年、2017年、2020年のイタリア国内のラテアート選手権の決勝に進み、バリスタとしての腕を磨き続けています。
『Gardelli Specialty Coffees(ガルデッリ・スペシャルティ・コーヒーズ)』のコーヒーの特徴
ガルデッリのコーヒーを飲むと、良い意味でそれまでのコーヒーに対する見方が変わるといわれています。ユーゲニオイデスやシドラなどめずらしい品種のものが多く、日本ではなかなか手に入りにくいコーヒーを取り扱っているのもガルデッリの特徴のひとつです。ここでは、世界中で人気のガルデッリのコーヒーについて詳しくご紹介します。
ガルデッリのコーヒーは「酸味」が特徴
ガルデッリがめずらしい品種を扱っているからといって、わざわざ毛色の変わったコーヒーのみを仕入れている訳ではありません。ガルデッリでは、コーヒーの品種や農家の名前に影響されることなく、一年の特定の時期に最高品質のコーヒー豆を購入することをモットーとしています。
ガルデッリのコーヒーはいずれもフルーティーな酸味が大きな特徴で、飲んだ後に後味の余韻が長く続くものが多いといわれています。スペシャルティコーヒーといえば酸味が強いコーヒーですが、酸味のあるコーヒーが苦手な人も少なくないでしょう。酸味が苦手なのは日本人だけではなくイタリア人も同じようで、ガルデッリのカフェの店頭には、「Acidity is not a crime.(酸味は悪いものではない)」というメッセージが掲げられています。
じつはコーヒーの酸味には良いものと悪いものがあり、悪い酸味は極端に浅煎りされたコーヒーや酸化したコーヒーから発せられます。この悪い酸味を持つコーヒーは酸っぱく、オレンジやカシス、ベリーといったフルーツのような風味を持っていません。一方、ガルデッリでは常に焙煎したての新鮮なコーヒーしか販売しておらず、その酸味は当然ながらフルーティーな「良い酸味」です。
酸味の秘密は?
旬のコーヒー豆を適切に焙煎し、フレッシュなうちに販売することにより、繊細で風味の良い酸味を持ったスペシャルティコーヒーが誕生します。ただし酸味の秘密はそれだけではなく、コーヒー豆の精製過程が「良い酸味」に影響するようです。
コーヒー豆の精製方法には、ナチュラルプロセスやウォッシュドプロセスなどの種類があります。ウォッシュドプロセスを行っているケニアのコーヒー農家では、果肉を除去するためにパルピングマシンにかけた後、コーヒー豆を水に浸し発酵させます。
二度の発酵プロセスが完了したコーヒー豆は洗浄され、きれいな水が入った浸漬タンクに24時間浸されることに。この過程を通すことでコーヒー豆の酸度が高くなり、明るく爽やかながらも、フルーツのような繊細で複雑なフレーバーに仕上がります。
ウガンダの『Mzungaプロジェクト』
2015年からルーベンスさんが取り組んでいる「Mzungaプロジェクト」は、ウガンダのアレックスさんが営むコーヒー農場で栽培された、SL14品種のある1本の木を発見したことからはじまりました。その木は徐々に果実が熟すほかの木とは異なり、収穫期になると熟した果実を鈴なりに実らせたといいます。
明らかにほかの木とは違うこの木に興味を惹かれたルーベンスさんは、収穫したコーヒーチェリーをこっそりイタリアに持ち帰り、ナチュラルプロセスで処理することに。そうしてルーベンスさんが自宅の居間で精製したSL14品種は、素晴らしい風味を持つコーヒーに仕上がりました。その後、アレックスさんの農場ではこの特別なコーヒーの木を栽培しはじめます。
2017年、「Mzungaプロジェクト」で収穫したコーヒーは「Gardelli RED(ガルデッリ・レッド)」と名づけられ、素晴らしくフルーティーでクリアなボディのカップが誕生しました。現在も同プロジェクトは進行中で、レッドよりもさらに酸味が強い「Gardelli WHITE(ガルデッリ・ホワイト)」と、レッドとホワイトの中間である「Gardelli ORANGE(ガルデッリ・オレンジ)」を生み出す研究が行われています。
ガルデッリ流コーヒーの保存法のおすすめ
ガルデッリでは焙煎したてのコーヒーを販売していますが、焙煎したてのコーヒーには二酸化炭素が含まれているため、焙煎後の最初の数日間はどうしてもスモーキーな風味が加わるのだそう。最高の状態でコーヒーを飲むためにも、ドリップコーヒーの場合には少なくとも4日、エスプレッソの場合には8~10日間ほどの期間を置いてから、コーヒーを抽出するのがおすすめです。
ルーベンスさんによると、コーヒーの香りのピークは焙煎後の最初の3週間ですが、元のパッケージに密封しておけば、焙煎から8ヶ月経っても風味の良いコーヒーを味わうことができるといいます。いつでもおいしいコーヒーを飲むためには、コーヒー豆をガルデッリのジップロックバッグに入れて室温で保ち、直射日光や光が当たらないように保存しましょう。
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