一日、一日と秋が深まり、いよいよホットコーヒーのおいしい季節がやってきました。
私たちコーヒー焙煎士にとっても、秋は一年でもっとも楽しみな季節。
そう! 今年収穫された新豆(ニュークロップ)が続々と登場するシーズンなのです。
今年はどんなコーヒー豆と出会えるのか、注目の品種や新たな製法などの話題も続々と届いており、今からワクワクが止まりません!
そこで今回は、今シーズンのコーヒー業界の注目ポイントをいくつかピックアップしてご紹介してみたいと思います。
ぜひコーヒー豆を買われる際の参考にしてみてください!
そもそもニュークロップって何?
注目ポイントについてお話しする前に、コーヒーの新豆、いわゆる「ニュークロップ」について簡単におさらいしておきましょう。
コーヒーの「ニュークロップ」とは、お米で言うところの「新米」。今年収穫されたコーヒー豆のことを指します。
コーヒーの産地の多くは赤道付近に集中していて、産地の事情により多少の前後はあるものの、だいたい9~10月頃には日本へ到着します。
たとえば中米の場合、収穫は年末から始まり3月頃にはだいたい終わりますが、そこから精製、乾燥の工程を経て、倉庫で2カ月ほど休息させます。その後、船に積み込まれ、日本へと到着するのはさらに2カ月後です。
このように多くの手間暇をかけて日本へと届けられるニュークロップですが、その最大の魅力はやはり鮮度のよさ!
お米の場合、新米ならではのみずみずしさが魅力ですが、コーヒーも同様で、ニュークロップのフレッシュさはこの時期にしか味わえないものです。
自家焙煎をされているコーヒー店なら、そろそろニュークロップの豆も出始めている頃ですので、ぜひこのフレッシュ感を味わってみてください。
関連記事:コーヒーの「旬」を表す言葉、「ニュークロップ」って知ってる?
話題の高級品種ゲイシャの動向
さて、ここからは今シーズン注目のコーヒーについてご紹介していきます。
最初に取り上げるのは、最近何かと話題に上ることも多い「ゲイシャ」です。
「ゲイシャ」とはコーヒーの品種のひとつで、独特なフローラルの香りとレモンを思わせるキレのある酸が印象的で、今とても人気のあるコーヒーです。
ただ、生産者の手間がとてもかかる品種で、収穫量も少ないため、取引価格は高くなりがち。
今では100グラムで数万円というような超高額で販売されていたり、ゲイシャ専門の高級カフェが登場したりと、一般的にも知名度が上がってきています。
ちなみにゲイシャの名前の由来は日本語の「芸者」ではなく、この品種が発見されたエチオピアの「ゲシャ(GESHA)」という村の名前から来ています。
ゲイシャのオススメの楽しみ方は、生産国ごとに飲み比べてみることです。
元々、ゲイシャはパナマのラ・エスメラルダ農園で収穫されたものがコーヒー品評会「ベスト・オブ・パナマ」で記録的な高額で落札されたことから一気に有名になりました。
のちにその人気とともにゲイシャは各国へと広まっていき、最近ではパナマ以外のゲイシャも出回るようになってきています。
また、少しマニアックな話ですが、ゲイシャには上記のパナマ由来のもの以外に、アフリカのマナウィ由来の種も存在しており、それぞれ風味の強さなどに違いがあります。
現在流通しているものの多くはパナマ由来のゲイシャになりますが、飲むときには生産国だけでなく、どこ由来のゲイシャか、という点にも注目して味や香りの違いを感じてみてください。
関連記事:1杯100円から1万円まで!?コーヒーの値段はどうやって決めるの?
新・精製法「アナエロビック」は定着するか!?
コーヒー生産国では、つねに新しい品種の栽培や精製方法などが試されています。
それらすべてが日本に入って来るとは限りませんが、今シーズンは新たな精製方法のコーヒーを体験するチャンスがあるかもしれません。
その精製方法のひとつが「嫌気発酵」を利用した「アナエロビック」です。
「嫌気発酵」とは、酸素を必要としない状態で活動する微生物の働きを利用した発酵方法。
収穫したコーヒーチェリーを密閉したタンクに入れて発酵させることで無酸素状態を作り、嫌気性細菌の活動を促して、有機物を分解する方法なんだそうです。
アルコール飲料やパンの製造ではポピュラーな発酵の方法らしいなので、ご存じの方もいるかもしれません。
私がこの「アナエロビック」で精製したコーヒーを初めて体験したのは、数年前の「カップ・オブ・エクセレンス」というコーヒー品評会でのこと。
カッピングで感じた印象は「シナモンロール」でした。シナモンの香りだけではなく、砂糖のような甘さを含んだ香りも強く感じたのです。
そのあまりにも特徴的な香りは、驚きや賞賛とともに歓迎する声も多い一方で、否定的な意見も一部にはあるようです。
「アナエロビック」による精製は、主にコスタリカで行われていますが、この方法で作られたコーヒーが少しずつですが日本にも輸入され始めています。
残念ながら当店では入荷の予定はありませんが、新たなコーヒーとして今後定着していくのかどうか見ものですね!
かなりのレア物ですが、もしどこかのお店で「アナエロビック」を見かけたら、勇気を持って試してみることをオススメします。
アジアのコーヒーがブレイクする予感!?
今シーズンは自家焙煎店やコーヒー専門店などでアジア産のコーヒー豆を見かける機会が増えるのではないか思います。
これには私の主観もやや強めに入っていますが、それほどにアジア圏のコーヒーに強い勢いのようなものを感じています。
現在、アジア圏のコーヒーとして有名なのはインドネシア(マンデリン、トラジャなど)、ベトナム、広く捉えればインドもあるかと思います。
近年これら以外のアジアの国々でもスペシャルティコーヒーが続々と出てきているのです。
パプアニューギニアや東ティモールは、すでに5年ほど前からスペシャルティコーヒーが作られるようになり、最近では定番の雰囲気さえ漂い始めています。
まだまだ産地としてはマイナーですが、ミャンマーでもとてもおいしいコーヒー豆が作られていました。
お茶とコーヒーは産地が共通していることがあり、たとえば紅茶で有名なスリランカもかつてはコーヒーの産地でした。
しかし、コーヒーの大敵である「さび病」の蔓延により、コーヒーノキは枯れ、替わってお茶が植えられたのです。以来、スリランカは紅茶の一大産地となりました。
そのスリランカと真逆の出来事が今、中国や台湾で起きています。
中国の福建省や台湾の阿里山といったお茶の産地でコーヒー栽培が進められていて、市場にも出回るようになってきたのです。
私もこのコーヒーを飲んだことがありますが、ほんのりプーアル茶を思わせる風味がありました。農園自体の成長ぶりも著しく、今後の注目株となりそうです。
価格はやや高めですが、台湾では地元のコーヒーを扱う店も徐々に増えてきているそうなので、現地へ行かれる予定のある方は、ぜひチェックしてみてください。
日本ではまだまだ珍しいので、コーヒー好きの方へお土産としても喜ばれるかもしれませんよ?
関連記事:コーヒー生産国にも格差がある? 行ってわかったコーヒー栽培・生産現場の今
次のコーヒーブームは何が来る?
ちょっと大まかではありますが、今シーズンの注目ポイントをまとめてご紹介しました。
まだしばらく続きそうな「ゲイシャ」ブームに加えて、新たなムーブメントとして「アナエロビック」精製や「アジア圏のコーヒー」など、今後の動向から目が離せないトピックが盛りだくさんです。
コーヒー業界では、毎年こうした新しい動きがあり、それが2年、3年と時を経て、さらに新しい流行や文化へと進化していきます。
そうした流れを追いかけながら楽しむのも、またコーヒーの面白さのひとつ。
サードウェーブが一段落した今、次は何がブームになるのか? そんなことを予想しながら、新たなトピックに注目してみるのも楽しいかもしれませんね。