コーヒー豆や挽粉、またはインスタントコーヒーを購入するとき、どのような理由で商品を手に取るでしょうか。銘柄や生産国、味、値段――人それぞれ理由があると思います。
しかし、『生産者』や『栽培環境』を考慮してまでコーヒーを選ぶ人は少ないと思います。
それは、なぜなのでしょうか?
重要ではないから。
いいえ、『生産者』と『栽培環境』この2つはコーヒーの未来を左右する重要な選択肢になります。
近年のコーヒーブームによりコーヒー業界は盛り上がりを見せますが、多くのコーヒー農園はその恩恵を受けておらず貧困に喘いでいるという現実があります。また、質より量を重視した栽培は地球環境のみならず、私たちの食の安全をも脅かしているのです。
この問題と向き合っているのが『認証団体』です。
――コーヒーパッケージに『認証ラベル』というものが付いているのを見たことはないでしょうか。ここでは栽培の改革や生産者の保護、コーヒー未来を考える認証コーヒーについて解説します。
目次
コーヒー農園の貧困が招くコーヒーの将来
それは私たちがコーヒー豆を購入しても、そのお金が直接コーヒー農園に行くわけではないからです。ほとんどの場合、穀物メジャーといった大手コーヒーディーラーの懐に入っていきます。
図式としてはディーラーが安価で農園から豆を買い取り、その何倍もの価格で全世界に輸出するというものです。
このような実状からコーヒー農園は質より量を考え田畑を拡大するため森林伐採し、農薬を大量散布します。
ですが、一部の農園では1日1ドルほどの賃金しか得ることができません。
この風潮は現在も当たり前のように続いており、生産者は「農園を継続してやっていけるのか?」という問題に直面しています。
『環境破壊』『不公平な取引』『劣悪な労働環境』この流れを止めなければ近い将来、高品質のコーヒー豆は消え、生産者はいなくなってしまうかもしれません。
では、冒頭で触れた『認証団体』は、これらの問題をどのように是正しているのでしょうか?まずは、多くの認証団体が取り組む『トレーサビリティー』というシステムを解説していきます。
食品の流通経路を知り安全を得る『トレーサビリティー』
トレーサビリティー(traceability)とは、追跡可能という意味です。
追跡可能というのは、食品が消費者の元に運ばれるまでのプロセスが明確であるということです。
国産でも外国産でも基準スレスレでパスしている食品はたくさんあります。
生産されている場所だけでなく食品がどのように加工、流通されているのかが一貫して分からなければ安全と言えないのではないでしょうか。
サプライチェーン(※)で物流を考えることが大切です。(※原材料調達・生産管理・物流・販売までを一つの連続した供給管理)
生産者が誰なのか、どこの農園・工場でどのように作られて、どのように流通しているのか、一つ一つの経路を明確に把握することにより食品が、安全・安心なものにつながります。
これを見極める1つの指針が『認証ラベル』です。認証されている食品は生産者を始め、生産方法から流通経路の全てが追跡可能となっています。
このように生産品の情報が明らかになっている状態を『トレーサビリティー』と呼びます。
また、認証団体の多くが『サステナビリティ』という理念を持っています。次項ではサステナビリティという考え方を解説します。
認証団体のコンセプト『サステナビリティ』とは?
サステナビリティ(Sustainability)......和訳してみると『持続可能性』となりますが、いまいち聞き慣れない言葉ですよね。
ですが、多くの認証団体がこのサステナビリティという理念を支柱に活動しています。
■サステナビリティ『持続可能性』(Sustainability)とは■
認証団体は各々、考え方に違いはありますが第一に『環境を守り、取引市場に公平性を持たせる』という活動を行っています。
この活動が実を結ぶことにより生産者が次の世代にもバトンを渡せる、つまり持続的に生産を続ける社会ができあがるのです。
まだ、ちょっと分かりにくいので具体的な話として『あるコーヒー農園』に着目してみましょう。
「日本から遠く離れたコーヒーベルトの地でコーヒー農園で働く人がいました。
彼は働いても働いても僅かなお金しかもらえません。
仕方がないので子供を学校に行かせず一緒に働くことにしました。それでも得られる賃金は僅かなものです。
そして、農地を広げるため森林の伐採や農薬をたくさん使うことにしました。
こうしてやっと暮らしていける程度の賃金を手にします。
幼いころから、そんな父の姿を見て育った息子は『将来、コーヒー農園を継ぎたい』とは思わないでしょう」
そこで、認証団体は公正な取引の推進や環境破壊をしない効率的な農法などを農園に提示します。
また、児童の労働を禁止させるなど子供の福祉にも目を向けます。
なんとなく認証団体の活動を見てみるとチャリティーのイメージを持ってしまいがちですが、
本質は『農園や企業の環境を向上させ、将来的に生産者が産業を続けられると思える社会・土壌を作る活動』なのです。
かなり簡易的に説明してしまいましたが、次項では有名な認証団体を詳しく解説していきます。
サステナビリティを軸に食品・製品(コーヒー)を支援する団体
・レインフォレスト・アライアンス
地球の生物種の半数以上が生息していると言われる熱帯雨林は、20世紀に入ると商業伐採が進み毎秒0.5~0.8ヘクタールの速度で減少していると言われています。
この状況を食い止めるべく1987年に設立されたのが『レインフォレスト・アライアンス(RA)』という団体です。
RAは熱帯雨林で農業や林業、観光業を営む人たちに
“地球に優しく、今より作業効率の良いプラン”を提示し、熱帯雨林を守ると同時に地域住民が『持続的』に生活をしていける社会を作ります。
RAが定める基準に従って監査会社が監査を行い、認証機関がその報告書をもとに認証する「第三者による認証」によって基準をクリアした農園・企業の製品が対象となります。
審査基準は『生態系の保護』、『良好な労働環境』、『生産性・品質の向上』が支柱となり、これらの基準を通過した製品は“カエルマークの認証ラベル”の使用が許可されます。
生物多様性や水、土壌など天然資源の保護、労働者の労働環境の保護、農薬使用の制限と低減によって、また消費者の手元に届くときまでの流入経路(トレーサビリティ)が明確にしていくことによって結果的に安全性の高い製品に繋がっていきます。
現在、認証を受けている主な農作物は、コーヒーや茶、カカオ、バナナ、オレンジなどが挙げられます。
・UTZ (ウツ)
主にカカオやコーヒー、茶などを生産する農園に『地球に優しい農法』や『優良な労働環境』を推進する団体です。
この2つの理念が広がることで、農園で働く労働者や、その家族の生活が守られ、私たち消費者も安全な食品を口にすることができます。
UTZプログラムでは、「トレーサビリティを重視し、オンライントレーサビリティシステム」を提供しています。
このプログラムでは、管理基準遵守やトレーニングにより生産者にプロフェッショナルな生産者になってもらうことによって、品質向上と生産量増加させていくことによって長期的に持続可能性が高い競争力をつけていくことを目指しています。
具体的には……
UTZ団体「アジア・ビジネス開発マネージャー・オルティス様」によると。
「UTZでは同システムを含むメンバー限定ポータルサイトを運営しています。
UTZ認証原料をUTZ認証原料だとうたって売買する全メンバー(生産者および消費国側の輸入業者、加工メーカー等)は全てのUTZ認証原料の売買を同システムに登録する必要があります。
消費者向け製品を製造する企業は、使っている原料が本当にUTZ認証原料であるという保証を得られます。
それによって消費者にもこの点に関するコミュニケーションが可能になり、消費者も自らが購入した『サステイナブル製品』が本当にそうであるという安心感を得られることができます。
具体的には、オンラインバンキングやオンラインショップに似た使い勝手の良いものをイメージして下さい。
またRAでも同様のシステムを提供しています」。
※オフィシャルサイトの関連ページ:https://utz.org/what-we-offer/traceability-system/
2018年にウツはレインフォレスト・アライアンスと合併しました。
今回の合併は複雑化した認定基準を分かりやすくし、お互いの良い部分を取り入れるという狙いがあります。
※数年前にUTZ Certifiedは『UTZ』という団体名に変わっています。
・バードフレンドリー®
熱帯雨林では『シェードグロウン』という栽培方法があります。
シェードグロウンとは原生林に近い状態で栽培を行い、森林に近いシェード(木陰)を保ち、有機栽培かつ、収穫もすべて手摘みという伝統的な栽培方法です。
この栽培方法により熱帯地域特有の強い日射やスコールからコーヒーを守ることができるのです。
また、森林に生息する渡り鳥の保全にも繋がり、シェードグロウンとはまさに自然と調和した農法と言えるでしょう。
ですが、近年では農園の低コスト化の流れによりプランテーション農園が増加しています。
プランテーション農園はコーヒー豆を大量収穫することができますが、森林の伐採、農薬の散布といった環境破壊が懸念されているのです。
1990年代後半、専門家によって北米と中南米を行き来する渡り鳥の減少が確認され、世界最大の学術研究機関であるスミソニアン協会が、調査研究・保護のため「スミソニアン渡り鳥センター」(SMBC)を設立しました。
鳥類学者・環境学者・地理学者が研究した結果、シェードグロウンを維持するコーヒー農園が渡り鳥の生息地となっていることを発見し、1999年、バードフレンドリー®認証プログラムが始まりました。
バードフレンドリー®プログラムでは、シェードグロウンで作られたコーヒー豆をプレミアム価格で買い取ることで、生産農家を支えています。
また、コーヒーから生まれた収益は、このプログラムを創設したスミソニアン渡り鳥センターの研究調査資金として、世界中の渡り鳥保護・生態系保護のために利用されています。
他の認証団体はコーヒー以外の製品も認証していますが、バードフレンドリー®は『シェードグロウンを行っているコーヒー農園』だけを認証しています。
参考元:http://bird-friendly-coffee.jp/concept/
・フェアトレード
主にコーヒー事業に携わっている人たちは農園、豆の買い取り業者、カフェ、小売店などが挙げられます。
この中で最も利益率が低いとされているのはコーヒー豆を栽培する農園です。
例えば、大手カフェのコーヒーが1杯330円とすると、農園が得られる金額はわずか3円~9円ほどと言われています。
これは生産国より輸入国のほうが発言力が強く、一方的な交渉になっている場合があるからです。
『フェアトレード』はこのような格差を改善し、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」です。
フェアトレード認証の対象産品は、コーヒーだけではなく、紅茶、バナナ、カカオ、コットン、花、スポーツボールなど多岐に渡ります。
また、それらの産品を栽培している生産者だけでなく、認証原料を輸入、製造する組織も認証を取得する必要があります。
国際フェアトレード基準を守って作られた製品には、国際フェアトレード認証ラベルが貼られます。
国際フェアトレード基準は、生産コストをまかない、かつ経済的・社会的・環境的に持続可能な生産と生活を支える「フェアトレード最低価格」と、生産地域の社会発展のための資金「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」を生産者に保証しています。
私たちが認証コーヒーを購入することとは??
ここで紹介した団体はサステナビリティ――
つまり、コーヒー豆の生産者が“持続的”に農業に従事していける環境作りの支援を行っています。
団体はそれぞれ活動・監査に違いはありますが基本的には...
『労働者の人権を守り、
自然保護を考え栽培したコーヒー豆に適正な価格、またはプレミアム価格を付ける』
という方式を取っています。
人によっては「遠い国の労働者や環境なんて知ったこっちゃないし、できる限り安くコーヒー豆を買いたい」と思う人もいるかもしれません。しかし、『認証コーヒー』は単純にナチュラリズムやヒューマニズムだけを考えたコーヒーではないのです。もし、コーヒー市場で買取業者と消費者だけが得をするのであれば、どんどん生産者は減っていきます。結果的にコーヒーの生産量は落ち込み、価格が高騰してしまうかもしれません。
また、自然保護をまったく考えず生産されたコーヒー豆は果たして安全なのでしょうか。今も化学肥料や農薬を大量に散布している農園は少なからず存在しているのです。『安いから得』とばかり考えていたら、いつかそのツケを払うときがくるのかもしれません。認証コーヒーとはコーヒー好きの私たちが考えなければならない、ひとつの課題です。
その答え方によってコーヒーの将来は大きく変わっていくでしょう。
参考先: