まったくの手探りから始まった業務用コーヒーマシンの開発プロジェクトは、いつしか自社農園でのコーヒー栽培から、それを提供するカフェの経営まで、すべての工程を一貫して行う大きなコーヒービジネスへと成長を遂げました。

     

    その立ち上げから中心メンバーのひとりとして、プロジェクトを力強く牽引してきたのが「GESHARY COFFEE」の富樫和輝氏です。

     

    本稿ではVol.1に引き続き、コーヒーマシン『FURUMAI』の誕生秘話や「GESHARY COFFEE」のこれからについてお伺いしていきます。※本記事は、2020年2月26日にインタビューを実施しております。

     

    ▼Vol.1はこちらから

    【特集】マシン作りの夢はいつしか巨大コーヒー産業へ! 「GESHARY COFFEE」が目指す“次の目標”を訊く

     

    まだ世の中にない進化したコーヒーマシンを!

    ――御社の全自動コーヒーマシン『FURUMAI』とは、どういうマシンなのですか?

     

    『FURUMAI』は、スペシャルティコーヒーに特化した業務用の全自動コーヒーマシンです。

     

    「GESHARY COFFEE」がゲイシャ種の専門店ということもあり、そこで使われている『FURUMAI』も当然、ゲイシャの専用機と思われがちですが、実際はそうではなく、より幅広いスペシャルティコーヒーの個性や魅力を引き出すことに特化したコーヒーマシンとして開発しました。

     

     

    ――なぜスペシャルティコーヒーに注目されたんですか?

     

    まだ開発が初期段階だった頃、世の中で“スペシャルティコーヒー”というキーワードが注目を集めるようになり、ブームが起こりつつあったんです。

     

    そこで、「せっかく一から作るんだから、このスペシャルティコーヒーに特化した、新しいマシンがいいね」ということになったんです。

     

    スペシャルティコーヒーが注目されるようになったことで、じつはコーヒーって品種や精製方法、産地のテロワール(生育環境)でこんなにも味が変わるんだ、ということが広く知られるようになりました。

     

    焙煎士やバリスタといった職人さんたちは、そうしたスペシャルな豆が持つ魅力を最大限に引き出すために日々研究を重ね、技術を磨いているわけです。

     

    ですが、その代替手段であるはずの業務用の全自動コーヒーマシンは、機能的には昔からほとんど変わっておらず、まるで進歩が見られない。

     

    バリスタがやっているように豆の個性や状態に合わせて、淹れ方を変える柔軟性はなく、むしろマシンの性能や設定に合わせてコーヒー豆の焙煎度合いや粒度を決める、というのが当たり前でした。

     

    全自動コーヒーマシンを導入することで、手間をかけず、すばやく淹れたてのコーヒーを提供できるのはとても素晴らしいことです。でも、それで味を犠牲にしてしまっては本末転倒じゃないですか?

     

    だから、普段バリスタがやっていることを、そっくりそのまま再現できるような全自動コーヒーマシンを作ろうと考えたんです。

     

    抽出時にバリスタが考え、実践している、ありとあらゆる調整項目をすべてマシンに詰め込み、数十項目にも及ぶ詳細な抽出レシピを豆ごとに設定、再現が可能な全自動マシンを目指しました。

     

     

    ――設定項目が数十種類もあるんですか!? 従来の業務用マシンと比べると劇的な進化ですね!

     

    味に影響を与えるであろう要素は、考えられる限りすべてを投入したつもりです。

     

    たとえば『FURUMAI』には2つのグラインダーを搭載しているんですが、これで2段階に豆を挽いて粒度を整え、同時に豆に付着したチャフの分離もできるんです。これを事前に設定しておくことで、抽出時のチャフや微粉の残量も全部自動で調整してくれる。ここまでやる全自動コーヒーマシンは他には存在しないと思います。

     

    また、設定項目の多さもさることながら、各項目の調節範囲にもかなり幅を持たせているので、バリスタの好みに合わせて自由度の高いレシピ作りが可能となっています。

     

    実際、アンバサダーの皆さんにご提供いただいた『FURUMAI』のオリジナルレシピを見てもよくわかるんですが、抽出時に注目するポイントはバリスタによって結構違うんです。

     

    抽出中の圧力を重視する方もいれば、豆の量や粒度、お湯の温度と抽出時間にこだわる人もいる。そうした個々のリクエストに完璧に対応し、バリスタの手仕事を再現する。スペシャルティコーヒーのおいしさを最大限に引き出す、というところをこれからも追求していきたいですね。

     

     

    ――まったくノウハウのないところから、たった5年でここまでの物が作れるんですね。

     

    市場調査などに費やした時間も含めて5年なので、実際の開発期間はもっと短いですけど、阪本さん(阪本義治氏/アクトコーヒープランニング代表)をはじめ、アンバサダーの皆さんに助言をいただき、何度も何度も試作を重ねて、ようやくここまでたどり着きました。

     

    初期の原理試作の段階では、まだマシンの全体像も見えていない状態なので、開発チームにマシンを構成するパーツをひとつずつ手作りしてもらい、テストを重ね、さらに新しいアイデアを盛り込んでいく、という感じでやっていました。

     

    パーツが完成したら、次はそれらを組み合わせて機能するかをテストし、ダメなら再びバラしてパーツから見直す、という地道な作業を来る日も来る日も繰り返し、作り上げてきたので、はじめて試作機が組み上がったときは感慨もひとしおでした。でも、テストで淹れたコーヒーは残念な味でしたけど(笑)。

     

    そこから1次試作、2次試作と何台も試作機を作り、かなりのステップアップを経て、ようやく現在の形、デザインに収まりました。

     

    開発レベルでは一体どれくらいのトライアンドエラーを繰り返したのか、もはや想像もつかないですね。

     

     

    ――ライブ感のあるデザインもとてもステキです。

     

    ハンドドリップで抽出するときの、あの演出と楽しさをマシンでもうまく再現したくて、デザインにもかなりこだわっているんです。

     

    よくある業務用マシンってブラックボックスとは言わないですけど、ボタンを押してしばらくすると取り出し口にコーヒーが出てくるだけで、淹れる過程がまったく見えないじゃないですか。そこに面白味はまったくないし、中が清潔かどうかもよくわからない。

     

    私たちはスペシャルティコーヒーに特化したマシンを作るわけですから、普通の業務用マシンとの違いを明確にするためにも、豆に合わせて挽き方、淹れ方を変えているよ、というところをちゃんと見える形にしたかったんです。

     

    実際、こうして目の前でマシンがコーヒーを淹れてくれる様子を眺めているだけでも、ちょっと物珍しくて楽しいですしね。

     

    ただ、中身を見せるということは、同時に汚れちゃいけないということでもあるんです。わずかでも液漏れしたり、洗浄不足で汚れが残っていたりするのも当然ダメ。

     

    見えなければ多少はごまかしもきくでしょうけど、あえて見せる以上は徹底的にクリーンにしなければならないですし、パーツの配置や素材を“どう見せるか”も考えなくてはならない。そういう部分でも通常の業務用マシン開発に比べて、ものすごく神経を使いましたね。

     

     

    ――まさに皆さんの努力の結晶ですね!

     

    本当にそうですね。でも、『FURUMAI』はこれで完成というわけではないんです。

     

    業務用の全自動コーヒーマシンとして、現状問題なく稼働はしているんですが、実店舗で運用するのは「GESHARY COFFEE」が初めてで、こうして日々お店で使っていると見えてくる改良の余地、改善すべき点というのもみつかってきています。

     

    これからはそうした課題の解決とアップグレードをしながら、いずれは量産化に向けた準備も進めていきたいと考えています。

     

     

    ――具体的な販売時期などはもう決まっているんですか?

     

    まだ具体的な時期は決まっていません。

     

    これまでも自分たちが納得できるものを目指してやってきましたので、これからもそこは変えずに、焦らず、妥協せず、まずは我々スタッフ全員が納得いくマシンに完成させてから、次のステップに進みたいと思っています。

     

    とはいえ、すでに国内外からいろいろとお問い合わせをいただいていますので、できれば展示会などでまた何かしらお見せできればと考えています。ぜひ楽しみにしていてください。

     

    『FURUMAI』でチャンピオンの味を世界へ

    ――マシンがここまで高い技術と機能を持つようになると、今後バリスタにとって強力なライバルになる、という見方もできそうですが?

     

    お客様からも同様のご意見をいただくこともありますが、私たちはそうは考えていません。

     

    コーヒーの世界って、その歴史や品種、製法、淹れ方など、本当に情報量が膨大で奥が深いじゃないですか? 我々シロウトが少し齧った程度では、まったく底が見えないくらいディープな世界です。

     

    そんな中にあって、バリスタという職業はその知識や経験、スキルによって、コーヒーのおいしさや楽しみ方を我々にもわかりやすく教えてくれる、ある意味“先生”のような存在だと思うんです。

     

    私たちの『FURUMAI』はそんなバリスタの仕事に取って代わるものではなく、バリスタの方々が培ってきた知識や技術を『FURUMAI』を使って共有してもらうことで、本人がその場にいなくても、いつでも同じ味が楽しめる。そんな環境を提供したい思って開発したマシンなんです。

     

    たとえば、世界チャンピオンのバリスタが淹れるコーヒーは、他の誰にも再現できない唯一無二のものですが、そのチャンピオンが自身のレシピを『FURUMAI』で再現すれば、以降はいつでも、誰が操作しても、まったく同じ味を何杯でも淹れることが可能になります。チャンピオンの味をより多くの方に楽しんでもらえるわけです。

     

    豆を挽いて抽出し、器具を洗浄するまでの工程は、すべて『FURUMAI』が自動でやってくれますので、そこはマシンに任せてもらい、バリスタの皆さんにはその知識や経験を生かしたレシピ開発やお客様とのコミュニケーションといったところへ力を集中していただく、そんな役割分担ができたらいいのかな、と思っています。

     

     

    ――チャンピオンのレシピを再現できるというのは画期的ですね。これはもう実際にやられているんですか?

     

    「GESHARY COFFEE」で提供しているコーヒーメニューのうち、「バリスタレシピ」としてお出ししているものがいくつかあるのですが、これらは『FURUMAI』アンバサダーでご参加いただいたバリスタの皆さんとコラボして作ったメニューになります。

     

    この「バリスタレシピ」はご注文の際に、レシピを考案されたバリスタのご紹介と使用している豆の産地や特長などもお話しさせていただいています。

     

    提供しているメニューの開発は、『FURUMAI』の特徴や良さ、癖などを隅々まで熟知した我々プロジェクトチームが作っていますが、その半分くらいはバリスタの皆さんとコラボして開発しており、その時々で提供している豆・レシピが変わっているので、そういったところもお客様にはお楽しみいただければと思っています。

     

    次の使命は、ゲイシャの魅力を広めていくこと

     

    ――御社のコーヒープロジェクト全般に関する、今後のブランディングやマーケティングについてお聞かせください。

     

    『FURUMAI』の開発も一段落し、日比谷店もようやく軌道に乗ってきましたので、これからはゲイシャを今以上に多くの方々に知ってもらえるように、もっと宣伝や周知活動に力を入れていきたいですね。

     

    ゲイシャのおいしさ、魅力というのを広く伝えていって、ちょっぴり贅沢したいときや特別な日、大事な方へのプレゼントなどでもっとゲイシャを飲んで、使ってもらえるように頑張ります。

     

    また、普段あまりコーヒーを飲まれない方やゲイシャをご存じない方々に対しても、もっとわかりやすく、ゲイシャが身近な存在となれるようなフォーマットも考えていく必要もあると思っています。

     

    今現在、日比谷店には足りていないところがまだまだありますので、そうした部分のブラッシュアップもしていきながら、いずれは新店舗の出店やネットショップの開設なども準備を進めていきたいですね。

     

     

    ――ネットで買えるようになるのは嬉しいです。

     

    おかげさまで最近は、コーヒー豆やドリップパックの販売も順調に伸びているんです。

     

    今も経済活動の自粛が続いていますが、お客様にはご自宅でもゲイシャをお楽しみいただけるよう、オンラインショップ開店に向けて準備を進めております。地方にお住まいの方々にも当店のゲイシャ体感できる機会をご用意できるようになります。

     

    実店舗については、簡単に作れるものでもないですし、ただ闇雲に店舗数を増やせばいいとも思っていませんので、今後も妥協なく「GESHARY COFFEE」のブランドに相応しい場所をじっくり吟味していきたいですね。

     

    その上で「ここだ!」という場所が見つかったら、そのときは迷いなく迅速に出店していくつもりです。

     

     

    ――1月にはお店でコーヒーセミナーも開かれていますね。

     

    そうですね。一般の方向けにゲイシャのセミナーとテイスティングの会を開催させていただきましたが、おかげさまで大変好評をいただきました。

     

    普段はなかなかできないゲイシャコーヒーの飲み比べや、スイーツとのペアリングなども体験できますので、それほどコーヒーに詳しくない方にも楽しく、ゲイシャのおいしさ、素晴らしさを知っていただけるイベントになっております。

     

    またコロナウイルスが収束しましたら定期的にイベントを開催して、ゲイシャの普及と「GESHARY COFFEE」ブランドの認知度アップに繋げていきたいですね。

     

    繰り返しになりますが、私たちのこれからの目標であり使命は、ゲイシャのおいしさや価値、魅力を広く伝えていくことだと思っています。

     

    『FURUMAI』に関しても、自分たちで考え、自分たちの手でゼロから作り上げてきた、他に類を見ないコーヒーマシンに仕上げることができたと自負しています。

     

    これからさらにブラッシュアップを重ねて、どこへ出しても恥ずかしくないオンリーワンのマシンとして、広く世界ヘ向けて展開していきたいです。

     

    これまでと同様、すべてにおいて妥協はせず、私たちが納得のいくやり方、私たちだからできるやり方というのを模索しながら、より多くの方に届くよう情報発信を続けていきますので、どうか応援よろしくお願いします。

     

     

     

    まったく知識も興味もなかったコーヒーの世界へ単身飛び込み、わずか5年で業界全体が注目する一大プロジェクトを成功へと導いた富樫氏。

     

    どんなことにも手を抜かずに真正面から取り組む、その真摯さと情熱、ひたむきな姿勢が周囲の人々を動かし、巻き込み、さらに大きな力を生み出していく原動力となっているようです。

     

    膨大な時間を費やした『FURUMAI』の開発、そして「GESHARY COFFEE」の開店と、ふたつの大きな難題を見事にクリアしてみせた富樫氏が挑む、新たなステージにこれからも注目していきましょう!

     

     

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    【店舗情報】

    ■店名 : GESHARY COFFEE 日比谷店 (ゲシャリーコーヒー ヒビヤテン)

    ■定休日 : 不定休

    ■フロア/席数 : 1F/3席、2F/35席、3F/37席、4F/25席 全100席

    ■住所 : 東京都千代田区有楽町1-6-3 有楽町東宝ビル

    ■アクセス : 地下鉄 日比谷線 「日比谷駅」 A4出口より徒歩0分(60m)
    JR山手線 「有楽町駅」 日比谷口より徒歩3分(230m)
    地下鉄 千代田線 「日比谷駅」A11出口より徒歩3分(250m)
    地下鉄 丸の内線 「銀座駅」 C1出口より徒歩2分(280m)
    地下鉄 有楽町線 「有楽町駅」A4出口より徒歩0分 (300m)
    地下鉄 三田線 「日比谷駅」A4出口より徒歩0分(320m)
    地下鉄 銀座線 「銀座駅」C1出口より徒歩2分(500m)

    ■取り扱い品種 : ゲイシャ(GEISHA/GESHA) のみ

    ■自社農園 : ハシエンダ コペイ(コスタリカ)
    ■提携農園 : エスメラルダ農園(パナマ)、エリダ農園(パナマ)、ジャンソン農園(パナマ)
    ナインティプラス農園(パナマ)、ロングボード農園(パナマ)
    ゲシャビレッジ(エチオピア)他

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