「バリスタはコーヒーに関わる人々を代表する大切な役割」と語る、バリスタ・スペシャルティコーヒー業界の第一人者・松原大地さん。Vol.1に続いて、バリスタトレーナーとしての想いを語っていただきました。
「バリスタの価値を高めたい」WBC認定審査員が求める“バリスタの資質”とは? Vol.1
日本でも本格的にコーヒーを学べる場
──バリスタトレーニングラボを開いたきっかけについて教えてください。
2010年にワールドバリスタチャンピオンシップ(以下、WBC)の審査員になり、世界大会などでいろいろな国へ行く機会が増えました。
海外にはコーヒー文化の成熟した国も多く、お店はもちろん、バリスタを取り巻く環境も充実しています。プロのバリスタになるためにコーヒーの知識や技術を学ぶスクールもたくさんある。でも、日本にはそういう場が多くないのが現状です。
コーヒーショップの開業や職業としてバリスタを本気で目指している人たちが世界基準でコーヒーを学べる空間、そんな場所を作りたくて、バリスタトレーニングラボを開きました。
──いっしょに運営されている女性の方は奥様ですか?
はい、妻の平井麗奈です。彼女は2001全日本バリスタ競技大会で3位入賞の実績があり、ジャパンバリスタチャンピオンシップ(以下、JBC)の認定ジャッジとしても10年以上のキャリアがありまして、ラボ立ち上げからいっしょにトレーナーをしています。
──ご夫婦でやられていて意見がぶつかったりすることは?
それはありますよ、普通に(笑)。でもその中でいろいろディスカッションをして、結果いいものができているという部分も多くあります。
お互いの意見を織り交ぜて最終的にいい場所に着地できると、新しいことを始めても失敗が少ないな、と感じますね。
──バリスタトレーニングラボではどんなことを教えているのですか?
バリスタとしてのスキルアップはもちろんですが、私たちが認定ジャッジとして得た経験や知識なども最新情報として積極的にお伝えしています。世界のコーヒーのトレンドとか、世界大会の決勝でこんな味のコーヒーを飲んだよとか、さまざまですね。
バリスタは技術だけでなく、プレゼンテーションやカスタマーサービススキル、そしてホスピタリティの面でも磨きをかけることで、コーヒーのファンは今以上に増えていくと思いますし、市場もさらに広がっていくはずです。それがバリスタの職業としての価値も高めることにもつながっていくと期待しています。
その意味でも、真剣にコーヒーを学べる場を私たちの手で提供できていることは、本当に幸せに感じています。
目の前でカプチーノを淹れてくれるアンリミテッドコーヒーバー
──松原さんの経営されている「アンリミテッドコーヒーバー」では、目の前でカプチーノやカフェラテなどを淹れてくれるそうですね。
はい。たとえばバリスタの大会だと、審査員の目の前でエスプレッソにミルクを注ぎ、出来立てのミルクビバレッジ(カプチーノやラテ)を提供してくれるんですが、普通のお店ではなかなかそうはいきません。とくに大きなお店だと、通常はカウンターの中でバリスタが作成したミルクビバレッジを別のホールの担当者がテーブルまで運んで、というのが一般的な流れですよね。
しかし、これでは注ぎたての素晴らしいテクスチャーのミルクビバレッジは味わえない。またバリスタ自らがお客様に味わいなどをご説明するチャンスもなくなってしまします。
私たち認定ジャッジが大会で味わっているのと同じ、素晴らしい状態のカップをお客様にも体験してもらいたい、そんな思いからお客様の目の前で注いで完成させるスタイルを始めました。
──スタッフの皆さんの反応はどうでしたか?
皆、前向きに受け入れてくれました。スタッフには大会の入賞者も多いのですが、お客様の目の前で提供するスタイルに日頃から慣れているため、大会の舞台でも臆せずにやれていると思います。
また、お客様とのコミュニケーションの時間も増えるため、バリスタの大切な役割でもあるコーヒーの背景や味覚の特徴、フレーバーなどを伝えることもでき、よりおいしくコーヒーを楽しんでいただけているのではないかと思っています。
大事なのは情熱と学び続ける意欲
──最後に、松原さんの考える“おいしいコーヒー”と“理想のバリスタ”についてお聞かせください。
淹れる人の技術やコーヒー自体のクオリティも確かに大事な要素ですが、私個人としては、手間を惜しまず心を込めて丁寧に淹れてくれたコーヒーは何よりもおいしいと思います。
今は機械も進歩してボタンひとつでコーヒーが出てくる時代になりましたが、私はそれによってバリスタの存在価値がなくなるとは思いません。やはりお客様に対するホスピタリティやプレゼンテーションといったサービス面も含めて、人は「おいしいな」と感じるんだと思います。
──とてもわかる話です。“理想のバリスタ像”についてはいかがですか?
技術が素晴らしいとか、安定しておいしいカップを出せるとか、スピードが速いとか、そういったことが一昔前は“優れたバリスタ”の条件に挙げられたかと思いますが、私は今の時代はそれ以上に「コーヒーに対する情熱」と「学び続ける意欲」がより大切だと思っています。
トレンドの移り変わりが激しいスペシャルティコーヒーの世界では、どんなにテクニックのある人でも、学び続けないと数年後には評価が下がってしまう。逆に今スキルがない人でも「情熱」と「学び続ける意欲」さえあれば、いつか素晴らしいバリスタに成長する可能性があるわけです。
現状に慢心せずにつねに進化を求め続けること、そしてすべてのお客様にコーヒーのおいしさを伝えていく、その情熱を絶やさないことが、理想的なバリスタの条件ではないでしょうか。
普段、私たちがコーヒーのおいしさについて考えるとき、豆の種類や抽出方法、技術などに目がいきがちですが、その一杯を淹れる人の「情熱」も大切だと語る松原さん。
そのカップにはおいしいコーヒーといっしょに、コーヒーにかける溢れんばかりの想いと飲む人への心遣いも注がれている。そう感じさせてくれるインタビューでした。
アンリミテッド コーヒーバー
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UNLIMITED COFFEE ROASTERS
アンリミテッド コーヒー ロースターズ
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*焙煎所では一般営業は行っておりませんのでご注意下さい。
コーヒーの販売はコーヒーバーにて行っています。