千葉県流山市は、古くは江戸時代に江戸への物流の拠点として栄えた町です。一度は現代風の町並みになりましたが、現在は当時の趣を再現した白黒の漆喰風の建物が再び建てられています。
流山の歴史を活かした町づくりの発端のひとつとなったのが、今回訪れた「蔵のカフェ+ギャラリー 灯環(とわ)」です。住宅街の一角に建つカフェは、明治時代に作られた土蔵「笹屋土蔵」を改修してオープンしたもの。国の登録有形文化財にも指定されています。
「もともと古民家カフェをやってみたかった」というオーナーは流山育ち。灯環はふるさとの町おこしにも一役買う存在です。流山の歴史を感じられる蔵を活かした落ち着く空間で、地元産の食材を使ったおいしい食事と珈琲をいただいてきました。
目次
「流山切り絵行灯」の看板が目印 知る人ぞ知る住宅街の中の古民家カフェ
灯環があるのは、流鉄流山線流山駅より徒歩5分の住宅街。狭い路地に面した場所です。駐車場もありますが、台数に限りがあり道幅も狭いため、公共交通機関や駅付近のコインパーキングを利用してもよいでしょう。
目印は眩しい白壁と控えめに掲げられている看板、そして流山界隈の名物でもある「流山切り絵行灯」。自宅表札や店の看板として、町中で見かけることができます。夕暮れ時に点灯されると、昼間とは異なる風情ある町並みが楽しめますよ。
通りに面した場所にはテラス席も。お邪魔した午後3時過ぎには、女性のお客さんたちが誰かの家に遊びに来たかのようなくつろいだ雰囲気で談笑していました。蔵の白壁に庭のグリーンが映え、弾ける笑い声がより明るく感じられます。
テラス席は開放感がありますが、同時にほかのお客さんに聞かれたくない話をする席としてもよさそうだな、なんて思いました。
こぢんまりとした落ち着く店内 飲食スペースは1階のみ
中に入った1階がカフェスペース。カウンター席とテーブル席があります。灯環の飲食スペースはこの1階のみ。2階はその時々で内容を変えるギャラリースペースです。
今回は、体にやさしい「農園野菜のごはんプレート」(税込1,500円)をオーダー。地域で採れた新鮮な野菜のデリと、特別栽培された黒米、自家製のスープがぎゅぎゅっとセットになったワンプレートです。
このプレートは数量限定。予約優先です。メニューは週ごとに変わります。
そのほか、「キッシュブランチプレート」(税込1,300円)や「牛すじカレー」(税込1,200円)も。
「店内の席数がそれほど多くなく、メニューの用意にも限りがあります。ご予約をして来ていただくほうが確実にご案内できますよ」とのこと。以前、開店時間直後にお邪魔した際は、小一時間ほどで満席になっていました。平日であっても予約しておくことをおすすめします。
今回のメニュー内容はこちら。
小皿に盛られたデリは、地場産の野菜をふんだんに使っていて健康的。目と舌で楽しめるワンプレートです。
「揚げ鶏と彩り野菜の甘辛仕立て」は、サクサク食感の鶏肉に絡んだ甘辛ダレが絶品。居合わせたお客さんも「これ、おいしいですよね……!」とおっしゃっていました。
「灯環」は流山市の町おこしの先駆け
オーナーは2歳から流山市で育ち、現在もお店の近くに住んでいます。もともと、「古民家カフェをやりたかった」のだそう。その想いを実現させたのは、老朽化が進む一方だった「笹屋土蔵」との出会いでした。
「流山市の歴史を活かしたお店を」の声に、市も土蔵の大家さんも快諾。剥がれかかった壁や内部を改修して甦らせ、営業をスタートしました。店のオープンを機に、蔵は国の登録有形文化財に指定され、数々のテレビ番組の取材も受けています。
「灯環」の構想話を市に持ちかけていた頃、流山市では古い町並みを利用した町おこしが盛り上がり始めていました。「タイミングとご縁に恵まれ、奇跡のように灯環のオープンが実現できたんです」と話してくれました。
発祥の地で味わう「みりんスイーツ」はハンドドリップ珈琲と一緒に
流山市が、みりんの発祥地であることをご存知でしたか? それまで主流だった、色の濃い「赤みりん」とは別の「白みりん」として江戸時代に誕生したのがルーツで、市内でイベントも開催されている「流山ならでは」の存在なのです。
灯環では、みりんを用いたスイーツメニューが食べられます。今回いただいたのは「ほっこり♥みりんdeスィートポテト」。(単品580円)。ドリンクとのセットにもできます。(880円)
スイートポテト自体にもみりんが使われている上、みりんを煮切ったシロップが回しかけられています。なかなかみりんを単体で味わう機会がないので、組み合わせの意外性とおいしさに驚くでしょう。
やさしい甘みがスイートポテトのおいしさを際立たせます。
なお、単品販売のみですが、「りんごとチーズのみりんバターケーキ」(450円)もあります。こちらは持ち帰り用としても販売されているので、おみやげにおひとついかがでしょうか。
単品でも味わえる珈琲は、珈琲焙煎士から豆を取り寄せてハンドドリップで淹れているもの。笠間・益子焼きなどのコーヒーカップは、ひとつとして同じものがありません。オーナーのコレクションで、この店のおすすめポイントのひとつです。
珈琲焙煎士は東京世田谷区の「GLAUBELL COFFEE(グラウベルコーヒー)」を運営している狩野知代さん。グラウベルコーヒーの特徴は、人にも地球にも負担をかけずに栽培されているもので、味の優れている生豆を選んでいること。毎日何杯でも飲める、後味がスッキリした珈琲を目指しているのだそうです。
2016年7月からは卸業のほか、実際に珈琲が飲める店舗もオープンしました。
灯環との出会いは、店をオープンするにあたり、オーナーがドリップ技術の学び先を探していて見つけたのがきっかけ。狩野さんが行っていた講座に通ったのが縁で、豆を仕入れることになったのだそうです。
今回はオリジナルブレンドをいただきましたが、「何杯でも飲める」言葉どおり、爽やかな飲み心地。ブラックのままでもおいしくいただけました。焼き物ならではの器のざらざらした手触りも、ほっとするひとときに一役買っています。
2階はギャラリースペース 物作り作家の「環」が広がる場に
灯環の特徴のもうひとつが、2階で開催されているギャラリーイベントです。来店時に混み合っているときや食後に、オーナーからも「ぜひお気軽にご覧になってくださいね」と声がかかります。
入場料は無料。見るだけでもOKです。
取材に訪れたときに開催されていたのは、「冬を待つ羊のポルカ」。羊毛作家、イラストレーター、羊毛フェルト・ニット作家の3名の作家の作品展でした。
およそ1週間から10日程度のスパンで、さまざまな展示会が行われています。流山に縁がある人に限らず、ジャンルも多種多様。「オーナーさんが声を掛けてくれているんです」と今回お話させていただいた作家さんが話してくれました。
イベントをきっかけに、作家同士のつながりが生まれることもあるのだそうです。もちろん、気に入った作品は購入可能。1階レジ横にも手作り雑貨の販売スペースがあります。
歴史ある土蔵カフェで、五感で味わい尽くす時間を
目で見て、手触りを楽しんで、舌で味わえる「蔵のカフェ+ギャラリー 灯環」。オーナーやギャラリーイベント中の作家さんたちとの会話も楽しめる素敵なお店です。
五感に語りかける非日常空間に惹かれ、遠方から来るお客さんも多いのだとか。流山方面にお出かけの際には、ぜひ訪れてみてくださいね。