広く国内外で「奥田理論」と呼ばれる料理哲学を展開するイタリアンのトップシェフ奥田政行さんと、革新的で魅力的に日本のコーヒー界を進歩させた、スペシャルティコーヒーロースターのオーソリティー岡内賢治さん。レジェンドと呼ばれ、多方面からリスペクトされる存在です。
今回は、そんなお二人が2017年12月に開催した、コーヒーが持つ特性を活かしてイタリア料理との組み合わせを余すところなく表現するコラボイベント「レジェンドたちの味覚流儀」を2回にわたってレポート。
ひと皿ごとにコーヒーが香りたつ、新しくて美味しい、そして何よりも楽しいイベントの様子から、コーヒーが持つさらなる魅力を感じてみてください。
「レストランは食文化の発信地でありたい」という奥田政行シェフの想いから、さまざまなコラボレーションを生み出してきたイベントも今回で38回目。
今回のお相手は、中目黒本店・代官山に2店舗を構え、名だたるレストランや有名パン屋さんなどにもオリジナルローストコーヒーを卸すカフェファソンの岡内賢治さんです。
すでに昨年末のイベントではありますが、その味や舌触りはあまりにも鮮烈で、まるで昨夜の出来事かのよう!
お料理とコーヒーを組み合わせが、新しい化学反応を起こす。この夜のメニューはこちら。
ここからは、コースの順を追ってその味覚流儀をお伝えいたします。
書き出す前から、非常に長い記事になることを予感しておりますが(!)、難しい話はさておき、複雑に絡み合う奥深い味をイメージしながら、お楽しみください。
コーヒーの実を乾燥させると、梅のような味になる?
コーヒー好きの方には周知の事実、コーヒー豆って果実の種なんです。すなわち豆ではない! そして、種のまわりにある実を集めて乾燥させたものがカスカラ。
このカスカラをお湯に入れて抽出すると、カスカラコーヒーチェリーティと呼ばれる杏や梅のようなしっかりとした酸を感じる飲みものになります。
それだけで終わらないのが、このイベント。山形県産赤ジソのシロップとカスカラチェリーのコーヒーシロップを加え、軽やかな酸味と奥深い甘味を引き出したものがウエルカムドリンクとして用意されていました。
口に含むと微かに発泡を感じる舌触り。いや、炭酸は入っていないはず・・・ナゼ???
梅のようなまろやかな酸味と黒糖のリキュールのようなコクのある甘さ、タバコを思わせる、燻りのニュアンス。
そして、ほのかなシュワッが胃袋を刺激してくれるようで、その感覚は食前酒さながら(ノンアルコールです)。
のっけからノックアウト。永久に飲める気がします。
コーヒーとのペアリング感覚を知るひと皿目
さて、ここからがコースの本番。ひと皿目は、蕎麦粉のクレープに生クリームとハチミツをかけて、カスカラを絞った果肉をトッピング。ペアリングは6時間掛けてじっくりと抽出した東ティモールの水出しコーヒーです。
最初にスイーツ?と、ざわつく会場。もちろん私の心もざわついています。
カスカラは、ウェルカムドリンクでも使用した果実の部分。このカスカラ、単独でいただいても非常に美味しいんです。言うなれば、コーヒーの実のドライフルーツを少し甘く煮たものといった感じでしょうか。
スッキリとした甘さを持つカスカラと、しっとりした甘さのホイップクリーム、コクのあるハチミツに、クレープの食感と焼かれた香り。そこにレモングラスなどのハーブを感じさせる東ティモールの水出しコーヒーを口に含むと、リキュールの効いたコーヒーゼリーを食べてるかのような、全く新しい味わいが広がります。
なるほど、お食事とコーヒーのペアリングってこういうことか・・・と深く納得。合わせることでさらなる美味しさを引き出すペアリングの魅力を、このひと皿目に教えていただきました。
コーヒーで脂が切れるという新感覚
2皿目のお料理は、サーモンをマリネして軽く火を入れ、ふんだんにアボカドオイルかけたもの。「オイルがたっぷりのお料理を味わいながら、コーヒーを口に含むとその苦みで脂が切れる」と話しながら、自らコーヒーを運ぶ奥田シェフ。
……脂が切れる「???」 頭の上にクエスチョンマークが飛び交いましたが、百聞は一見にしかず、体験してみましょう。
サーモンが柔らかい!手に持ったナイフをカトラリーレストに戻し、フォークを右手に持ち替えました(フォークだけで充分という判断)。ほろっと解けてとろっとろ。見た目とのギャップが尋常ではございません。
とても深いところから滲み出るような甘さに、アボカドオイルがしっかりと絡みます。一瞬にして消えてしまいそうなサーモンを口に残し、シルキーな味わいが特徴であるタンザニア ブラックバーン農園の水出しコーヒーをひと口含むと、私が声に出すよりも先に「わぁ、本当に脂が切れる!」と会場のあちらこちらから声が。
コーヒーを飲む前ももちろん美味しい。脂のまろやかな甘味も感動的。だけど、コーヒーの苦みによって一瞬にして口の中が晴れわたる感覚は、それ以上の感動です。
浅煎り・深煎りでペアリングの味わいも変化
次に登場するのは、なんともアヴァンギャルドな見た目のひと皿。牛乳のリコッタチーズの上に乗っているのは、だだちゃ豆のフリーズドライをオリーブオイルで煮て、ミキサーでクラッシュしたもの。ケニア・ガクイファクトリーの豆を、"浅煎り・深煎り"と異なる焙煎にした水出しコーヒー2種がペアリングとなります。
「カフェインを飲むから、カフェin」という奥田シェフのダジャレを耳の片隅に、まずはコーヒーをいただきましょう。
浅煎りはギュッとした酸味があってフルーティ、深煎りは香ばしくてレーズンのような甘い香り。岡内さんによると「ケニアの豆は、極浅煎りから深煎りまで幅広く楽しめるのも特徴のひとつ」なのだそう。さらに同じケニアでもエリアや精製方法、ローストの違いで味が変わってくると考えると、ケニアの豆だけで膨大な選択肢があることが分かります。
ペアリングの妙を感じるため、お料理とコーヒー、パンをさまざまに組み合わせてみると・・・
浅煎りコーヒーは、お料理と同時にいただくことで水出しコーヒーが赤ワインのような味わいに。
深煎りコーヒーとお料理の組み合わせは、パンを添えることでリコッタチーズの甘みがさらに引き出され、コーヒーとケーキを食べてるよう。
同じ豆、同じ抽出でも、焙煎の違いだけでここまでの変化が感じられることに驚きを隠せません。
取材協力
アル・ケッチァーノ http://www.alchecciano.com
カフェ ファソン http://cafe-facon.com