バリバリのITコンサルタントからまったく畑違いのコーヒー業界へと飛び込み、わずか3年弱でバリスタ競技の最高峰、ブリュワーズカップで世界チャンピオンの栄冠を手にした粕谷哲さん。
Vol.1に続いて、ご自身の考える働き方や今後の目標について、じっくりと深く語っていただきました。
▼Vol.1を読まれていない方は▼
【粕谷 哲さん】「できることを、わかることから」世界の頂点に輝いた彼は、今も挑戦し続ける Vol. 1
意思をもって決めたら、やり遂げる
── バリスタの競技大会に出場しようと思った、きっかけはなんですか?
バリスタとして働くようになって、まもなく感じたことが、まだ業界自体が若いということでした。
当時、コーヒー業界に入ってまだ半年とか1年程度の新米でしたが、そんな僕でも今から真剣に取り組めばトップを目指せるのではないか? 決してバリスタ競技を甘く見ていたわけではないんですが、まだまだ追求していく余地はあるなと感じたんです。
カフェや喫茶店で働く人々の数に対して、バリスタ競技の人口が圧倒的に少ないということもチャンスだと思いました。やはり多くの方は日々のお店の経営に忙しく、大会に出てみようとか、もっともっと技術を磨こう、といったことになかなか時間をかけにくい。だったら僕は、あえてそっちの道を目指してみようと。
そう決めてからは、「絶対に日本一になる!」と自分に言い聞かせて、大会に勝つにはどうすればいいか、勝つために必要なものは何か、そんなことばかり考えていました。
本当にコーヒー漬けの毎日でしたね。それから2年かけてようやく国内の大会で優勝して、目標だった日本一になり、さらにその約1年後には世界チャンピオンになることができました。
もちろんこれは結果論ですし、たまたまその時、運が自分に向いていたのかもしれない。そして、サポートしてくれたコーヒーファクトリーのオーナー夫婦をはじめ同僚のみんなにも感謝しています。
恩返しをしたいという強い気持ちもあって必死で努力しましたね。
挑戦し続けることが最大の成長
── チャンピオンになって尚、大会に出場されるのはなぜですか?
友人や仕事関係の方々からも「チャンピオンになったのになんで?」とよく聞かれるんですが、その理由はとてもシンプルなんです。そもそもチャンピオンになりたくてバリスタになったわけじゃないですから。
先ほどもお話ししたように、競技大会でトップを目指すことは僕がバリスタとして目指すひとつの目標であって、それがすべてじゃない。チャンピオンになることは僕にとってのゴールではないんです。
少し言葉は悪いかもしれませんが、チャンピオンになることはあくまで通過点のひとつだと思っています。これからもコーヒーの世界で生きていくために、僕が設定した目標のひとつなんです。
ですから、世界チャンピオンになったからといって「もうこれで満足」と思ったことは一度もないですし、まだまだこれからも挑戦を続けていくつもりです。もちろん挑戦する以上は、勝つつもりで行きますよ。
── チャンピオンとして出場することに迷いはなかったんですか?
大会に出ること自体に迷いはなかったですが、出るにあたって悩ましい問題はいくつかありました。なかでもいちばんはスケジュールですね。今年は本当に多くのお仕事をさせていただいて、これまでにないくらい忙しく動き回っていたので、練習する時間をまったく作れなかったんです。正直、予選落ちも覚悟していたくらいで。
奇跡的に予選を通過したあとも海外出張の予定が続いていたので、決勝に向けた準備も十分にすることができませんでした。また、会社を設立したばかりということもあって、これからどうやって切り盛りしていこうか、そっちに気を取られて大会に集中しきれないということもありました。
ただ、それでも大会に出てトップを目指すことは僕の目標のひとつなので、あきらめようとは思いませんでした。
僕の中では「挑戦すること」とか「成長すること」って、とても重要な意味を持っているんです。できることだけやっていてもしかたない、今できないことをできるようにするのが、人生ではもっとも重要なことだと思っています。
だから、世界チャンピオンになっても挑戦を続けることはやめません。この姿勢を貫くことに僕は大きな意味があると自負しています。
ジャパンバリスタチャンピオンシップに出場した理由
── 今回は以前、優勝されたブリュワーズカップではなく、ジャパンバリスタチャンピオンシップへの挑戦でしたね。
はい。きっとこんなことしている人ってそう多くないですよね(笑)。
でも、こうやって挑戦し続ける姿を業界に対して見せていくことも世界チャンピオンになった僕の使命だと思うんです。また、これからの若いスタッフたちにも僕の成長し続けている姿を見せたい、というのもありますね。
── いい刺激になりそうですね。
そう感じてくれると嬉しいですね。
やっぱり繁盛しているお店って、働いているスタッフがみんなイキイキとしていて楽しそうなんですよ。夢に向かって頑張っていたり、仕事にやり甲斐を感じていたりするんでしょうね。僕はそういう若い子たちを全力で応援したいし、そのための環境も提供してあげたい。
どうしたら技術やサービスをもっと向上させることができるのか、お客様に喜んでもらえるのか、そういうことを自分で考えられるスタッフは輝いて見えます。そういう人のところには自然と人も集まって来ると思うんです。スタッフが暗い顔をしてイヤそうに仕事をしているお店には行きたくないでしょう?(笑)
そんなことをしていたらAIにどんどん仕事を奪われちゃいますよ。
「自分を磨き続ける大切さ」を伝えたい
── AIで仕事がなくなるということですか?
飲食業界は、まさにその危機にあると思います。レジや皿洗いは、もちろんですが、コーヒーを淹れるのだって、素人がやるより機械が淹れた方が確実においしくなる。これから、いろいろなことが機械に置き換えられていくと思います。
ただ、僕はAIにできることはAIがやればいいとも思っています。
人間はAIには真似ができない尖ったことをやればいい。個性や特技を磨き続け、自分が目指す道をどんどん突き進んでいくことが、これから先、業界で生き残っていくために必要なことなんじゃないでしょうか。
── 自分磨きですね。
僕がこの世界に入って本当にラッキーだったなと思うのは、以前に勤めていたコーヒーファクトリーの皆さんがとても優しく、僕が何をしていても温かく見守ってくれたことです。
僕はひとつのことに集中すると、のめり込んでしまうところがあって、そうなると周りが見えなくなり、時には人に迷惑をかけてしまうこともあるんです。そんな僕に対しても皆さんとても協力的で、応援し続けてくれました。今の僕があるのはそうしたサポートのおかげですね。
今は自分が経営する側になり、支えてくださった皆さんの温かさをより一層、深く身に沁みて感じます。僕もそういう会社を作っていきたいし、業界全体がそうなっていってほしいと思っています。
── 挑戦する人の姿は応援したくなります。
そうですね。うちのスタッフにも大会を目指して頑張っている子がいますが、今後も全面的にバックアップしていきたいなと思っています。先日もサイフォンの大会にひとり出場したんですが、夜中の2時、3時まで一緒に練習していました。
やっぱり大会に出る以上、そこで満足してほしくないですからね。どうしたら勝てるのか、どうして負けたのか、もっと上を目指すために足りないものは何か。そういったことをしっかり考えて、次の目標に向かっていってほしい。
勝って頂点を掴むまでの道のりが挑戦なんだということを伝えていきたいですね。
僕がセミナーでよく言っていることに「競技大会は自分にとっての100点を出す場ではない」というのがあります。これは自己満足で完結しないように、という戒めでもあるんですが、実際、競技大会というのはルールで定められたベストなコーヒーがあって、競技者はそれを理解して、どこまでベストに合わせていくことができるかを競うものなんです。
僕自身も、自分の決めたゴールに向かって走るとき、今もそうですが、そうやって勝ちにいっています。
つねに目標を持って、そこへ向かってひたむきに邁進していく粕谷さん。
その純粋ともいえる真っすぐで熱い想いこそが、これからのコーヒー業界を支え、変えていく大きな力となっていくんだなと実感させてくれるインタビューでした。
これからも粕谷さんご自身やPHILOCOFFEAが参画する「船橋コーヒータウン化計画」がどんなアクションを見せてくれるのか、その一挙手一投足から目が離せません。
【粕谷 哲さん】「できることを、わかることから」世界の頂点に輝いた彼は、今も挑戦し続ける Vol. 1
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