紅茶好きが多いイメージのイギリスですが、コーヒーを好んで飲む人も多く、最高級のコーヒー豆を提供するコーヒーロースターがいくつも存在します。
本記事では、イギリスのコーヒー好きなら知らない人はいないほど人気のコーヒーロースター『Square Mile Coffee Roasters(スクエア・マイル・コーヒーロースター)』をご紹介します。
目次
イギリスのコーヒーシーンを牽引するコーヒーロースター
スペシャルティコーヒーが注目を集める前から、厳選したコーヒーだけを焙煎してきた『Square Mile Coffee Roasters(スクエア・マイル・コーヒーロースター)』。その歴史は、どのようにしてはじまったのでしょうか?
実演販売からコーヒーの世界へ
スクエア・マイルの共同経営者であるジェームズ・ホフマン(James Hoffmann)さんは、コーヒービジネスに参入する前、百貨店で国産のエスプレッソマシンを販売する実演販売員の仕事をしていました。来る日も来る日もエスプレッソを淹れては人々に振る舞う彼が、コーヒーの世界に夢中になるのにそれほど時間はかからなかったといいます。
当時を振り返ってジェームズさんは、「エスプレッソマシンの実演販売の仕事を通して、コーヒーの世界がどれほど豊かで面白いかに気づかされたんだ。コーヒー業界は多様で複雑だけど、一生飽きない仕事だと思うよ。」と語ります。
最悪のタイミングで起業
2007年にアジアで初めて開催された「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ東京大会」の優勝者になったジェームズさんは、翌年ロンドンに『Square Mile Coffee Roasters(スクエア・マイル・コーヒーロースター』(以下、スクエア・マイルと記載)をオープンさせました。
最初はロースターにカフェを併設したいと願っていましたが、米大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破綻したことにより、世界的な金融危機が起こります。
世界金融危機のせいで企業や個人の資産が大きく目減りし、アメリカやヨーロッパの他の国同様、イギリスも金融危機に陥りました。そのような時期に起業したためか、カフェを開く夢は見送らざるを得ず、スクエア・マイルはコーヒーの焙煎と卸売業に専念することに。しかし苦難を乗り越え今では、現在に至るまでにロンドンに拠点を置きながら、100社以上もの企業やカフェにサービスを提供しています。
コーヒー業界で生き残るために必要なこと
コーヒー業界でビジネスを成功させるのは、元バリスタ世界チャンピオンが経営するコーヒーロースターであっても容易なことではありません。
ここでは、イギリスのコーヒー業界で活躍するジェームズ・ホフマンさんが語る、コーヒービジネスを成功させるために必要なことについてご紹介します。
カフェを開く夢
スクエア・マイルが創業したのと同じ時期、イギリスではたくさんのカフェがオープンしては消えていきました。
そもそもスクエア・マイルを立ち上げたのは、おいしいコーヒーを提供するカフェを開きたかったからだとジェームズさんはいいます。
「その当時のロンドンでは、カフェを併設したロースターはまだ珍しい存在だったんだ。
でも、もしもあのときカフェを作るというアイデアに固執していたら、オープンして 1 年もしないうちに閉店に追い込まれていただろうと思うよ。
コーヒー業界に入ったときはなにもかも手探り状態で、ビジネスの基本なんて知りもしなかったからね。」
と、彼は述べました。
成功のカギは柔軟性
スクエア・マイルが移り変わりの激しいコーヒー業界の中で生き残ることができたのは、ひとえに柔軟性のおかげとも言えるでしょう。
多くの人は、良い商品と情熱さえ揃っていれば、どんなビジネスでもいずれは軌道に乗ると考えるかもしれません。実際、ロースターをはじめることを思い付いたときには、ジェームズさんもそのように考える人のひとりに過ぎませんでした。
コーヒーについて学ぶことは非常に多かったものの、苦にはならなかったようです。問題は、タイミングとビジネスに関する知識の欠如にありました。しかし、問題を克服することに成功したジェームズさんは、軌道に乗せるのが難しいコーヒービジネスを続けるに当たり、下記のようにアドバイスしています。
「うまく行かないことを無理にし続けると、簡単に生き詰まるのが世の常です。これまでたくさんの同業者が理想を追い求めるあまり、自らの首を絞めてきたのを目の当たりにしてきたよ。
信念を持って仕事に取り組むことはとても大切だけど、常に変化し続ける世界に対応するためにはなによりも柔軟性を持つことが大切だ。」
イギリスのコーヒー市場の現状
現在のイギリスのコーヒー市場は、供給が需要を大きく上回っている状態です。いつでもおいしいコーヒーが飲めるカフェがたくさんでき、以前と比べると、どのカフェも提供するサービスの質だけではなくコーヒーの質が格段に上がりました。選択肢が増えることは、消費者にとって喜ばしいことでしょう。
しかし、コーヒー業界に従事する人々にとっては厳しい状況です。ますます激化する業界で生き残るためには最高品質のコーヒーを供給し続ける必要がありますが、品質に見合った価格付けをすると顧客離れが起こる可能性があります。
スクエア・マイルでは高品質を維持しつつ、いつでも適正な価格でコーヒーを提供できるよう、コーヒー生産者と常に協力し合う努力を払っています。
『 Square Mile Coffee Roasters』の社会貢献活動
スクエア・マイルはコーヒーの啓蒙・教育活動を行っているほか、コーヒーを通して社会貢献活動を行っているコーヒーロースターです。ここでは、彼らの活動の一部をご紹介します。
ユニークなサブスクリプション
スクエア・マイルが開催しているコーヒーレッスンは、ユニークなサブスクリプションです。全12回に渡るビデオレッスンでは、コーヒーに関するより深い知識を身に付けると共に、実践的なトレーニングを受けることができます。
インターネット環境を利用した「eラーニング」プラットフォームでのレッスンは毎月第 2 金曜日に行われますが、毎レッスンに合わせて、スクエア・マイルが厳選したコーヒーキットが自宅に届く仕組みです。ちなみに、第 1 回のレッスンではドリップの抽出比率について学ぶことができます。
ほかにも、ジェームズさんは自身のYouTubeチャンネルを通して、スペシャルティコーヒーの啓蒙活動を行っています。こうした活動を積極的に実施することで、スペシャルティコーヒーへの認識を高め、すばらしいコーヒーが身近にある生活がどれほど豊かで幸せなものであるのかを訴えているそうです。
『UK Coffee Week』とは?
スクエア・マイルは、コーヒー生産者たちのコミュニティにきれいな飲料水を届けるためのチャリティープロジェクト「Waterfall(ウォーターフォール)」を支持しています。このプロジェクトの主力募金キャンペーンは「UK Coffee Week」と呼ばれ、毎年 1 週間イギリスのコーヒー業界の中心的存在であるロースターやカフェが資金集めを行っています。
「UK Coffee Week」の創設者で、コーヒービジネス誌「5THWAVE」の編集長であるジェフリー・ヤングさんはあるインタビュー記事の中で、スペシャルティコーヒーを飲む人たちは自分が飲んでいるコーヒーを生産している人々の生活をもっと気に掛けるべきだと述べました。スクエア・マイルは、このようなチャリティープロジェクトを通じて、コーヒー生産者たちの生活の質を向上させ、より良いコーヒーを栽培できるような環境を整えたいと願っています。
スペシャルティコーヒーを飲みながら
スクエア・マイルはコーヒーを愛する人々に、ただコーヒーを飲むだけではなく知識や理解を深めて欲しいと願い、積極的に活動を続けているコーヒーロースターです。
スペシャルティコーヒーをはじめ、おいしいコーヒーや質の良いコーヒーを飲むとき、それがどのような過程を経て生産されているか、どうすればコーヒー生産に携わる人々が継続的に質の良いコーヒーを生産することができるかなどを考える良い機会になるのではないでしょうか。
参照サイトURL:
https://shop.squaremilecoffee.com/
https://www.publicsectorcatering.co.uk/
https://www.ukcoffeeweek.com/news/2021/coffee-heroes-james-hoffmann