それはもう料理の下手な母親だった。彼女が「今日は自家製パエリアよ」と意気揚々と運んできた黄色いナニカは食卓から家族の笑顔を奪うだけの破壊力があった。
今回のメインテーマは「コーヒーの自家焙煎」。焙煎経験のない人からすれば「なんだか難しそう…」と感じるかもしれないが、その不安の何割かは「自家」という言葉が原因になっていると思う。そもそも「自家」なんて言葉が付く作業は大抵、自宅で行わないような作業ばかりだからだ。
確かにコーヒーの自家焙煎は繊細な作業だが、素人には絶対に無理という作業ではない。ここでは自家焙煎の簡単なやり方やメリットなどをご紹介します。
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目次
自家焙煎をする理由・メリットとは?
コーヒー豆のイメージと言えば褐色の豆を思い浮かべると思います。あの色は火で煎った色、つまり焙煎後の豆の色です。ですが、焙煎前のコーヒー豆(=生豆)は緑色で平べったく、青臭い香りがします。この生豆を自家焙煎する理由は以下の理由があります。
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- 生豆は焙煎豆や挽き豆に比べ酸化しにくい
- 不良豆を自分で取り除ける(ハンドピック)
- 低価格
- 焙煎度合いを自分好みに調整できる(自分好みのコーヒーを)
これら1~4を順番に詳しく解説していきます。
1 生豆は焙煎豆や挽き豆に比べ酸化しにくい
コーヒー豆は鮮度によって味が大きく変わってしまいます。特に挽き豆や焙煎豆の場合、密閉・温度管理を徹底しないとすぐに味が落ちてしまうのです。しかし生豆は密閉しておけば常温でも鮮度を保ちやすく、いつでも美味しいコーヒーを飲めるというメリットがあります。
2 不良豆を自分で取り除ける(ハンドピック)
コーヒー豆は小粒な形状の上、出荷量の多さから、雑味の原因となる不良豆がどうしても混入してしまいます。不良豆は「発酵豆」「黒豆」「未成熟豆」「カビ豆」「死豆」「虫食い豆」「貝殻豆」「コッコ」と呼ばれるものが挙げられ、中にはコーヒー農場の小石や砂利が混ざっていることも珍しくありません。生豆の場合、これら不良豆を自分で取り除く「ハンドピック」を行うことができるのです。
3 低価格
生豆は自分で焙煎、グラインドを行うので加工された豆より安く購入することができます。豆によっては加工豆の10分の1程度の価格で購入できますが、不良豆を1から自分で取り除かなければならないので、元のグラム数より1割~2割程度減ってしまいます。
4 焙煎度合いを自分好みに調整できる(自分好みの味を)
豆を焙煎する時間は浅煎り・中煎り、深煎りの三つに分かれますが、さらに細かく分けた8段階の焙煎時間も存在します。これらの焙煎豆を全て購入したり、保管するのは大変ですよね。その点、生豆はいつでも好きな焙煎度合いでコーヒーを作ることができます。自分好みの豆はもちろん、来客者の好みに合わせて焙煎豆を作ることが可能なのです。
ふたつのアイテムでお手軽に自家焙煎する方法
自家焙煎専用の機器はハンドル式のものから、自動で焙煎できるファインロースターといったものがありますが、「金属製の手網」と「ガスコンロ」だけで自家焙煎することもできます。
手網とガスコンロで自家焙煎(深煎り)する方法
- 深さ5cm程度の手網に人数分のコーヒー豆を入れる
- コンロに火をつけ、手網を火から4、5cm離しながら煎る。数分後、薄皮(チャプ)が剥がれ始める
- 薄皮が出なくなり色が茶色くなってきたら、手を休めずに手網を揺する
- 煎り始めてから15分ほど経過すると、豆が弾ける音(ハゼ)がする
- さらに3分ほど経過すると二回目のハゼが起きる
- 豆全体の色が一定になったところで火を止める(長くても合計26分まで)
- 煎った豆はザルに移し、ドライヤーで冷やしたら完成(豆は余熱でも焙煎が進む)
紹介した焙煎方法は大まかな焙煎の流れです。深く掘り下げると、焙煎度合いに応じて温度調節などが必要になります。コーヒー専門店などには手網の柄に温度計が付属しているものも販売されているのでチェックしてみましょう。
コーヒーの自家焙煎:まとめ
もし「コーヒーの自家焙煎」という仰々しい言葉に戸惑っている人がいるのなら、「自家製○○」と珍妙な料理を自信満々に振る舞っていた僕の母親を見習ってほしい。それは言葉を軽く考えるというわけではなく、チャレンジ精神を持つということだ。なにしろ母親は家族の意見はどこ吹く風、常に「自家製」にこだわり続けていた。
何事にも臆せずチャレンジするのは素晴らしいことだ。ただ、母親の唯一の過ちは家族を巻き込んでいたことに他ならない。なので、失敗した焙煎豆で淹れたコーヒーは他人に飲ませないように!