東京の中心地・日比谷に根を下ろして、早6か月――。街並みにもすっかり溶け込み、今では日比谷でも名うてのカフェとして、多くのファンの支持を得ている「GESHARY COFFEE」。
世界でも類を見ない“ゲイシャ種だけのコーヒー専門店”として、まさに順風満帆のスタートを切った同店ですが、これまでの歩みについて伺うと、その道のりは決して平坦なものではなかったと言います。
今回は、コーヒープロジェクト全体を取り仕切るGESHARY COFFEE店舗開発部の富樫和輝氏に、コーヒー事業立ち上げの経緯や実店舗、コーヒーマシン開発に着手したきっかけなど、「GESHARY COFFEE」の誕生秘話についてじっくりとお話しを伺いました。前後編の2本立てでご紹介します。
富樫和輝 Kazuki Togashi
GESHARY COFFEE店舗開発部 部長 営業マンとして飛び回る日々から一転し、「GESHARY COFFEE」の前身となるコーヒー事業のスタートアップに参加。持ち前のガッツと情熱を武器に、中心的メンバーのひとりとしてプロジェクト全体を盛り上げ、牽引する。 |
※本記事は、2020年2月26日にインタビューを実施しております。
右も左もわからない手探りの5年間
――「GESHARY COFFEE」の事業に関わることになったきっかけは何ですか?
私はこの仕事に就く前は、北海道で営業の仕事をしていたんです。新卒で入社してすぐに転勤になりまして、そこで約5年、毎日営業で飛び回っていました。
そんなとき、先輩からコーヒーの新規事業に関する話を聞いたんです。まったくのゼロから事業を立ち上げようとしている、そのチャレンジ精神にとても心惹かれるものがあって、そこで自分の力を試してみたいと思い、新規事業を担当させていただくことになりました。
私が入った当時は、まだ「コーヒー」というのは数ある事業プランのうちのひとつに過ぎず、それらをどうやったら事業化できるのか、という調査からのスタートでしたね。
――本当にゼロからのスタートだったんですね。
そうですね。あの当時は自分たちが5年後に日比谷に店を構えて、コーヒーマシンも自分たちで作って、だなんて、まったく想像もしていなかったです。
「コーヒー業界にちょっと注目してみようか」という話になったとき、担当者は私を含め2人だけでした。しかも2人ともコーヒーにはまったく詳しくない。ですから、まずはコーヒー業界の動向やコーヒーマシンの市場規模といった基本的なところの調査から始めて。その中でいろいろな業者さんに会ってみたり、コーヒーマシンを作っているメーカーさんを訪ねたりもして知見を広めていきました。
あの頃は、事業化のイメージとか業界参入の手がかりのようなものはまだ全然なくて、コーヒー業界の規模感やどういうプレイヤーがいるのか、といったことを一から勉強している感じでしたね。
――本格的にコーヒー業界への参入を決めたきっかけは何だったんですか?
業界内の様子がだんだんと見えてきて、ここで自分たちに何ができるのか、その方法をいろいろと考えていく中で、もっとも可能性を感じたのが業務用の全自動コーヒーマシンだったんです。
ですが、よくよく調べてみると、業務用コーヒーマシンを手掛けているメーカーは結構多くて、後発の我々が似たようなマシンを作ったところで、まず勝ち目はない。
そこで、同じ業務用でもよりプレイヤーの少ないカフェやレストランにターゲットを絞り、さらに既存の業務用マシンではそこまで重視されていなかった「おいしさ」にあえてこだわることで、他社との違いを明確にしていけば、我々でも十分に勝算がありそうだ、という話になったんです。
また、ちょうどこの頃、コーヒープロジェクトも正式に事業として認められ、チームも4人に増えたこともあって、徐々に盛り上がっていった感じですね。
――その後はトントン拍子に進んでいったんですか?
いえいえ、そううまくは行きませんでした(苦笑)。
当面の目標はできたものの、そこからまた調査、提案、模索の日々で、気がつけばアッという間に2年くらい経っていたように思います。
プロジェクトチームとして動き出してからもコーヒーに詳しい人間はいないままで、しかもプロジェクト自体、社内では秘密だったので、知りたいことやわからないことがあっても誰にも聞けないし、相談もできないんです。
とにかく何をするにも、まず何から始めたらいいのか、そのためには何がどれだけ必要かもわからないという有り様で、あの頃は年じゅう頭を抱えていました。もちろん、自分たちは大真面目なんですけどね。たぶん他の部署の人たちは不審に思っていたんじゃないかな?(笑)。
そんな状態ですから、本当に最初の1、2年はあまり進展がなく、ただ時間だけが過ぎていくというのが一番辛かったですね。
――コーヒーに詳しくないということですが、普段はあまり飲まれないんですか?
じつは私、コーヒー嫌いだったんです(苦笑)。
北海道で営業マンをしていた頃、毎朝みんなでコーヒーを飲んでいたのですが、そこで出される苦いコーヒーが本当にダメで、わざわざ自分で紅茶を淹れて飲むほどでした。
この会社でコーヒーやろうって話になったときも、「え、コーヒー? 全然好きじゃないんだけどなぁ……」って内心では思っていましたね(笑)。
だから当然、コーヒーに対する興味も知識もなくて、どこに行けばおいしいコーヒーが飲めるとか、そもそもおいしいコーヒーがどんなものかもわからない。
コーヒーマシンに関しても同様で、どんなメーカーがあって、それぞれどういう特長があるのか、海外ブランドはどこに行けば話を聞けるのか、といったことも一から調べていったので、事業として動き出すまでにとても時間がかかってしまいました。
唯一無二の「ゲイシャ専門店」の誕生
――実店舗を持つに至った経緯についてお聞かせください。
コーヒーマシンの開発を進めていく中で、プロジェクトチームのメンバーも増え、アドバイザーとして阪本さん(阪本義治氏/アクトコーヒープランニング代表)にも参加していただいたことで、マシンの課題や目指すべき方向性が明確になり、気づけば「マシンを作る」という目標が「業界ナンバーワンを目指す」に変わっていったんです。
そこで改めて、この業界で成功を収め、自分たちが「最高のコーヒー」を提供するためにはどうしたらいいかを皆で考えたとき、ただマシンを作るだけではなく、その原料であるコーヒー豆の生産からお客様に提供する店舗まで、すべての工程を自分たちの手で、トコトンまで突き詰めてやってみようということになりました。
その決意の結果がコスタリカのハシエンダ・コペイ(自社農園)であり、焙煎ラボであり、この日比谷の「GESHARY COFFEE」というわけです。
弊社の事業コンセプトである“Farm to Cup”という言葉が使われ出したのも、たしかこの頃だったのではないかと記憶しています。
――「GESHARY COFFEE」は一般的なカフェとどこが違うんでしょうか?
「GESHARY COFFEE」の一番の特徴は、世界でも類を見ないゲイシャという品種に特化したコーヒー専門店であるところです。
最近では、スペシャルティコーヒーの市場規模がどんどん拡大し、世界中の人々に愛飲されるようになっていますが、そうした中にあって品質、価格ともに最高クラスのゲイシャ種に特化し、本当においしい豆だけを厳選して提供しています。
先ほどお話しした“Farm to Cup”という事業コンセプトの下、自社農園でのコーヒーの栽培から収穫、精製、他の農園での買い付け、焙煎、抽出までのすべての行程を一貫して自分たちの手で行っているのも特徴のひとつです。
使用するコーヒー豆はもちろんですが、その焙煎や抽出、ご提供するロケーションにも妥協なくこだわっているのが、私たち「GESHARY COFFEE」です。
――第1号店を日比谷にしたのはなぜですか?
ゲイシャ種は収穫量が少ない希少な品種で、かかるコストも並のコーヒーとはまったく桁が違います。でも、高いだけあって味や品質は抜群にいい。本当に最高のコーヒーなんです。
そういう最高のものを提供する以上は、その良さがちゃんとわかる人、最高のものを求めて人が集まる場所じゃないとダメだと考えました。
100円でコーヒーが飲める今の時代に、その価値とおいしさを理解してお金を払える人というと、ある程度経済的に余裕のある人になりますよね。そういった方々にちゃんと届く場所じゃないと意味がないので、都内でもそうした方々が多く集まる場所を中心に見て回りました。
やはり、「ゲイシャだけを提供する専門店」というインパクトを強く打ち出したかったので、いろいろ絞り込んでいった結果、最終的にこの日比谷以上に適した場所はなかった、という感じです。
ですが、実際にオープンしてみると、想定していた客層とは少し状況が違っていたんです。
当初は、世代的には30~50歳代、経済的にも時間にも多少余裕のある方々が中心になっていくのかなと見込んでいたんですが、いざ蓋を開けてみたらその予想は大きくハズレて、特定の世代に偏ることなく、下は20代から上は60歳代まで、じつに幅広い世代のお客様にお越しいただいています。
――たしかに、お店を見渡すと20~30代くらいの若いお客様も多いですね。
そうなんです。若い女性同士で来店されるお客様や、通勤時間帯、ランチタイムに来られるビジネスマンの方も結構多くて、これは嬉しい誤算でした。
とはいえ、まだまだ世間的には「ゲイシャって何?」という方も多くいらっしゃいますので、これからも店舗内外での宣伝、周知やSNSを使った情報発信など、より一層ブランディングに力を入れていく必要があるなと感じています。
じつはこの店舗を作る際、ただのカフェではなく、『FURUMAI』とゲイシャのアンテナショップにしたいという思いもあったんです。そんな狙いも込みでインテリアデザイナーの竹田さん(竹田克哉氏/TAKEDA KATSUYA DESIGN代表)に店舗デザインをお願いしました。
おかげでとてもステキなお店に仕上がったんですけど、ちょっとスタイリッシュになりすぎたのか、お客様からは「ジュエリーショップみたい」とか「入ってみるまで何屋さんかわからなかった」なんてお声もいただきまして(笑)。そういったところもこれからひとつずつ改善していきたいですね。
通りがかりの人にもひと目でゲイシャ専門のカフェだとわかる仕掛けとか、気軽に入れるような店構えなども考えています。
また近々、店内の一部装飾の変更や、店頭にはデジタル・サイネージの設置なども予定しています。これからどう変わっていくのか、ぜひ楽しみにしていてください。
――まもなく開店から半年を迎えます。
もうそんなに経つんですね。コーヒー事業もそうですが、店舗の運営も私たちには初めての経験だったので、本当にここまでアッという間でした。
オープン当初は皆バタバタしていて、お見苦しいところも多々あったかもしれませんが、ようやく全スタッフの練度も上がってきて、より良いオペレーションや質の高いサービスをご提供する環境づくりと言ったところにも目が行き届くようになってきました。
お客様としてコーヒー業界の方々も多くいらっしゃいますので、ただ味や品質だけで勝負するのではなく、今後はそうしたソフト面でもさらにブラッシュアップしていけるよう、力を入れていきたいですね。
――コーヒー業界での注目度はすごく高いですよね。
とても光栄なことですね。
上質なゲイシャを扱えるカフェがそう多くない中で、私どもはゲイシャだけの専門店で、しかも日比谷というロケーションですから。かなり奇抜に見えたのかもしれません。「あの店どうなってるの?」と興味を持たれる同業の方は多かったと聞いています。
ただ、私たちはコーヒー業界で目立ってやろうとか、トップを獲るぞ、なんて気持ちは毛頭なくて、本当にゼロから始めたことなので、少しでも上を目指したい、いいものを作りたいという思いでガムシャラにやってきました。
実際こうして事業がスタートして、いざ業界に入ってみると、自分たちがやってきたこと、今やっていることって、なかなかに大胆不敵と言うか、かなり攻めた戦略だったんだな、と改めて思いますね(笑)。
――先ほどお話しにあった「業界ナンバーワン」という目標は、日比谷店にとっては具体的にどんなことになりますか?
日比谷店を通じて、ひとりでも多くのお客様に「コーヒー飲むならGESHARY COFFEEだよね」と思っていただけるようになること。お客様にとってのナンバーワンになることが、まず私たちが目指すべきところだと思っています。
また、他にはないゲイシャ種だけのコーヒー専門店ですから、さまざまな産地や精製方法のゲイシャを提供できるように、商品ラインナップの入れ替えなども定期的に行って、そのおいしさや魅力を広く伝えていくことも私たちの使命です。
「GESHARY COFFEE」がそうした新しいコーヒー文化の発信地になっていくことも、ひいては私たちの目指す「業界ナンバーワン」へと繋がっていくのかなと考えています。
Vol.2では、全自動コーヒーマシン『FURUMAI』の開発秘話や、「GESHARY COFFEE」が目指す未来についてお伺いします。
【店舗情報】
■店名 : GESHARY COFFEE 日比谷店 (ゲシャリーコーヒー ヒビヤテン)
■定休日 : 不定休
■フロア/席数 : 1F/3席、2F/35席、3F/37席、4F/25席 全100席
■住所 : 東京都千代田区有楽町1-6-3 有楽町東宝ビル
■アクセス : 地下鉄 日比谷線 「日比谷駅」 A4出口より徒歩0分(60m)
JR山手線 「有楽町駅」 日比谷口より徒歩3分(230m)
地下鉄 千代田線 「日比谷駅」A11出口より徒歩3分(250m)
地下鉄 丸の内線 「銀座駅」 C1出口より徒歩2分(280m)
地下鉄 有楽町線 「有楽町駅」A4出口より徒歩0分 (300m)
地下鉄 三田線 「日比谷駅」A4出口より徒歩0分(320m)
地下鉄 銀座線 「銀座駅」C1出口より徒歩2分(500m)
■取り扱い品種 : ゲイシャ(GEISHA/GESHA) のみ
■自社農園 : ハシエンダ コペイ(コスタリカ)
■提携農園 : エスメラルダ農園(パナマ)、エリダ農園(パナマ)、ジャンソン農園(パナマ)
ナインティプラス農園(パナマ)、ロングボード農園(パナマ)
ゲシャビレッジ(エチオピア)他