日本(成田)から約4時間の空の旅で到着する台湾は、温暖な気候と穏やかな人々が住む、お茶のおいしい素敵な場所です。そんな日本から近い台湾で、コーヒーが生産されていることをご存じでしたか?
スペシャルティコーヒーの栽培も盛んな台湾ですが、本記事では台湾産コーヒーの歴史と特徴、コーヒー業界が直面している問題などを詳しくご紹介します。
台湾のコーヒーの歴史
台湾産コーヒーの歴史は100年ほどとまだ浅いものの、品質の良いコーヒーが生産されていることで近年では世界中から注目を集めているのだとか。そんな人気右肩上がりの台湾産コーヒーの歴史には、日本が深く関係しています。
日本と台湾産コーヒーの関係
はじめて台湾にコーヒーの苗木が持ち込まれた年代には諸説あり、1600年代にオランダから持ち込まれたという説と、1800年代後半にイギリスから持ち込まれたという説があります。しかし、本格的にコーヒー生産がはじまったのは、日本統治時代のことでした。
1895年、日本人によってハワイから苗木が持ち込まれ、台湾中部に位置する雲林県で生産がはじまります。高級農作物として大切に育てられた台湾産のアラビカ種のコーヒーは、そのほとんどが日本に輸出され、天皇に献上されたといわれています。
台湾産コーヒーの生産地
日本統治時代から引き続き、台湾では現在も小規模ながらコーヒーの栽培が行われています。大規模なコーヒー農園は珍しく、コーヒー生産者一人当たりが所有する農地はせいぜい1ヘクタール程度。11月から5月にかけて収穫できる台湾産コーヒーは精製された後、生産者が自ら焙煎して販売することが多いようです。
台湾のコーヒー生産地は主に、台南、阿里山、屏東、雲林の4つの県に集中しています。それらの中でも、最初に本格的なコーヒー栽培が行われた雲林県は高い山々が多く、火山性の土壌、冷涼な気温、水源が豊かでコーヒー生産に適した場所であることから、たくさんのコーヒー農園が集まっているのだそう。
一方、屏東県は緑豊かな森林に覆われた山間部で、とくに太武村周辺にコーヒー農園が多いです。台南では、関子嶺温泉の南側に「コーヒー街道」と呼ばれる地域があり、山麓にコーヒーが植えられています。
台湾で生産されているコーヒーは、タイピカ、キャティモア、ブルボン、カトゥーラ、カトゥアイ、ゲイシャなど国際的に人気の高い品種が栽培されています。最近では、収穫量が多く、品質の良いケニアのSL-34が人気で、多くのコーヒー農家が栽培を行っているそうです。
コーヒーの精製方法としては、果肉を除去して発酵槽に漬けた後、水を使って精製するウォッシュド(水洗式)が主流です。しかし、標高の低い地域では、天日干ししたコーヒーチェリーを脱穀する精製方法のナチュラル(乾燥式)を選択する農家もあります。
台湾産コーヒーは通常国内で販売・消費され、ほとんど輸出されることはありません。その少ない輸出先としては、米国(45%)が最も多く、次いで日本(21.5%)、マレーシア(12.2%)、イタリア(8.5%)、スイス(3.5%)の順です。
台湾のコーヒー消費傾向
台湾国内でコーヒーが一般的に飲まれるようになったのは、いまから30年ほど前のことです。しかし、その当時コーヒーショップは台湾全土に数えるほどしかなく、家庭で飲まれていたのはソリュブルコーヒーと呼ばれるインスタントコーヒーの一種でした。
1990年代後半、スターバックスの進出によりエスプレッソベースのコーヒーが徐々に広まっていきます。そうして現在、台湾には少なくとも15,000軒以上のコーヒーショップが存在し、2010年から2018年までの8年間でコーヒーの消費量は2倍以上に増加しました。10年前くらいからはスペシャルティコーヒーが人気となり、都心を中心に専門店が増えています。
台湾では台湾産コーヒーが消費されているほかにも、海外からコーヒーを輸入しています。台湾へのコーヒー輸出上位 5 産地は、インドネシア、ブラジル、エチオピア、 コロンビア、グアテマラです。
台湾産コーヒーの特徴は?
世界的に注目を集めはじめた台湾産コーヒーですが、「どんな味がするんだろう?」と気になる方も多いのでは? ここでは、そんな台湾産コーヒーの特徴についてご紹介します。
バラエティに富んだ台湾産コーヒー
台湾の面積は約36,000平方キロメートルで、北海道の約半分の大きさしかありません。2020年の台湾におけるコーヒー総生産量は970トン弱で、同年度のインドネシアの約75万4千トンに比べると微々たるものです。ところが、台湾は国土が狭いにもかかわらず、多様な気候のおかげで生産地によってコーヒーの風味が異なります。
例えば、台東にあるサンコーヒーの農園は太麻里と關山にありますが、この2つの農園は車で1時間しか離れていない場所にあるにもかかわらず、異なる風味のコーヒーを生産します。太平洋に面した太麻里は日照時間が長く、夜間の気温低下が激しいため、重厚なコクのある風味のコーヒーができます。一方、渓谷に位置する關山の農園ではマイルドで、長時間焙煎することで複雑な風味を引き出せるコーヒーが生産されています。
酸味と苦みが少ない台湾産コーヒー
台湾産コーヒーとひと口にいっても、フルーティーなものからブランデーのような香りや風味を持つものまでさまざまです。台湾産コーヒーの共通点としては、どの地域のコーヒーも芳醇な香りを持ち、酸味と苦みが控えめで飲みやすい点が挙げられるでしょう。
過去10年間で60種類以上の台湾産コーヒーが、国際的に有名なコーヒー品質協会によりスペシャルティコーヒーとして認められています。台湾有数のコーヒー生産地である雲林県のコーヒーは酸味が控えめで、ナッツや柑橘類のような爽やかな香りが特徴です。また、標高の高い嘉義県の農園では花の香りを持つコーヒーが生産されています。
台湾産コーヒーを購入するには?
台湾産コーヒーのほとんどは台湾国内で消費されているためなかなか手に入りにくいようですが、ここではインターネット通販で購入可能なコーヒーをご紹介します。
台湾産のスペシャルティコーヒーをお探しなら『The Formosa Coffee(フォルモサ・コーヒー)』
The Formosa Coffee(フォルモサ・コーヒー)は、台湾産コーヒーをこよなく愛するアメリカのコーヒーロースターです。販売しているコーヒーは、台湾産のスペシャルティコーヒーのみ。滑らかな口当たりと豊かな風味を持つ最高級の台湾産コーヒーを味わいたい方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
https://www.theformosacoffee.com/
台湾産コーヒーのドリップバッグ『コーヒー ドリップ 東山産10袋入 台湾コーヒー 』
お茶の名産地でもあり、コーヒーの名産地でもある台南の東山。東山にはコーヒー農園が営む、おしゃれでユニークなカフェが点在しています。こちらの商品は、繊細で華やかな風味の東山のコーヒーがドリップバッグになったものです。開封してお湯を注ぐだけで、手軽に台湾産コーヒーの味が楽しめるのがいいですね。
台湾産のゲイシャが手に入る『SOT COFFEE ROASTER(ソットコーヒーロースター)』
大阪にあるスペシャルティコーヒー専門店「SOT COFFEE ROASTER(ソットコーヒーロースター)」では、アメリカスペシャルティコーヒー協会が認めたSCAA 80 点以上のスペシャルティコーヒー、もしくは同等レベルのコーヒー豆が扱われています。こちらで販売されている「TAIWAN SONGYUE GEISHA(台湾嵩岳ゲイシャ 100g)」は、台湾最大の生産地である雲林県・嵩岳咖啡莊園で生産された豆を使用。ミディアムローストのコーヒーは、マンゴー、パイナップル、アーモンドといった甘やかな風味が特徴です。
台湾産コーヒーの評価とこれからの課題
世界的に有名なお茶の生産地でもある台湾には、繊細な風味を引き出す専門家たちが大勢います。そのような専門家たちが作っている台湾産コーヒーは、世界でどのように評価されているのでしょうか?
世界で高評価される台湾産コーヒー
アメリカのNPO団体「アライアンス・フォー・コーヒー・オブ・エクセレンス(Alliance for Coffee of Excellence、略称ACE)」が開催した台湾産コーヒーのオークションは、台湾で生産されたコーヒーのすばらしさを世界に紹介する良い機会となりました。
2021年8月にACEと台湾珈琲研究室(TCL)、台湾コーヒー協会が提携した台湾産のスペシャルティコーヒー初のプライベート・コレクション・オークションでは、26人の審査員が19のサンプルを分析して、オークションに出品する9つのロットを選出。
審査員には、『ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ2019』の優勝者である韓国代表のJooyeon Jeon氏、丸山珈琲社長の丸山健太郎氏などコーヒー業界を代表する著名人が集められました。こうして選ばれたスペシャルティコーヒーの9ロットはオークションで紹介され、すべてが86点以上を獲得します。最高ランクの89.77点を獲得したコーヒーは、500.50米ドルで落札されました。
ACEの審査員長であるスコット・コナリー氏は、「台湾といえば、『ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ2016』の優勝者を輩出した国です。しかし、スペシャルティコーヒーの世界ではまだそれほど有名ではなく、コーヒー農家の人々が島の中心部にある標高の高い山々で苦労して高品質のコーヒーを生産してきたことはあまり知られていません。彼らは茶生産に関する知識を応用し、ほかのコーヒー生産地とは異なるアプローチでコーヒーを生産しています。」と、述べました。
将来は世界大会が開催されるかも?
台湾のコーヒー業界が今後ますます発展することは、想像に難くありません。多くのコーヒー生産国では消費者と小売業者、そしてコーヒーの生産者は近い関係にはありません。しかしながら、台湾では農園と都市部が近く、焙煎業者やバリスタたちが頻繁に生産者のもとを訪ね、緊密な関係を維持しています。このことは、今後の台湾産コーヒーの発展に良い影響を与えると考えられるでしょう。
2021年、スペシャルティコーヒー協会は台湾国際コーヒーショーの期間中である11月に、『ワールド・コーヒー ロースティング・チャンピオンシップ』と『ワールド・ラテアート・チャンピオンシップ』、『ワールド・コーヒー・イン・グッドスピリッツ・チャンピオンシップ』の開催を予定していました。残念ながら、これらの世界大会はパンデミックの影響で延期されてしまいましたが、近い将来、台湾でコーヒー関連の世界大会が行われると予想されます。
台湾コーヒー業界の課題
著しい成長を見せる台湾のコーヒー業界ですが、課題がない訳ではないようです。台湾で生産されるコーヒーのほとんどは国内で消費されますが、消費者にとってそのコストは安いとはいえません。また、国内市場の需要だけでは、台湾のコーヒー生産の規模を拡大できないのは明らかです。
さらに、長年コーヒー生産に携わってきたコーヒー農家の人たちは国内外のコーヒー市場の動向に疎く、高品質のコーヒーを生産していても台湾産コーヒーの評判がなかなか上がらないといわれています。このようなマーケティング知識の不足を解決するには、生産者たちが正しいコーヒーの教育を受けて、国際的な認知度を高める努力をしなければならないでしょう。
コーヒー生産者にとっては、人件費の高騰や後継者も大きな課題となっています。コーヒー生産者の多くは高齢ですが、若い世代は都市部で別の仕事に就くことを好み、後継者がいません。コーヒー業界で働きたいと願う人の大半も、生産者側ではなく消費者側であるコーヒーショップで働くことを希望しているようです。
ただし、台湾の人々はクリエイティブで、とくに若い世代は新しいことに挑戦するのをいといません。コーヒーに関するさまざまな活動に興味を持つ人も増えているといいますから、これから台湾のコーヒー業界がどのように変化していくのか、その動向に注目したいですね。
参照サイトURL:
https://perfectdailygrind.com/