「ゲイシャに寄り添う」ことを第一に
――ゲイシャコーヒーとスイーツのペアリングを考える上で難しいなと感じることはありますか?
よくホテルで出されるようなブレンドコーヒーは苦味や味がしっかりしているので、スイーツの味も強めにしないとコーヒーに負けてしまうんですが、それだとシングルオリジンの繊細な風味には逆に強すぎてダメなんです。
とくに当店でお出ししているゲイシャコーヒーは、フルーティーで繊細な香りと明るい酸味が特徴なので、これまでに私が作ってきたようなスイーツでは甘すぎる。
また、ケーキ作りでは欠かせないバターや生クリームの乳脂肪分がゲイシャの香りを曇らせ、感じさせなくする、ということもありました。
でも、それって見方を変えれば、ゲイシャコーヒーに特化している分、何が合って何が合わないのか、しっかり見極められる、ということでもあるので、私自身は大きなメリットだと捉えています。難しい反面、やりやすさもある、という感じですね。
大事なことは、いかにゲイシャに寄り添うことができるか。相乗効果でお互いをよりおいしく感じさせることができるかです。簡単ではないですが、つねにこのことを心に留めて、ひとつひとつ大事に作っています。
――そういえば、お店で提供されているスイーツは手作りなんですよね?
はい、店舗の5階にキッチンがありまして、そこですべて一から手作りしたものをご提供しています。
――すべて一からと言いますと、スポンジやケーキの上のトッピングなどもですか?
そうですね。既存のものを使えば手間を減らせますが、そうすると私たちが全行程を見られなくなる。どんな人がどういう思いで作っているのか、そこが大事なんです。
それはコーヒー豆もいっしょで、自社農園でコーヒーを育て、他の農園からの買う場合は必ず自分たちで見て買い付ける。焙煎も自社でやっていますし、抽出もお客様の目の前でやっている。すべての工程をクリアにして、そこに携わる人々の思いも伝えていくのが私たちのコーヒーなんです。
ですから、スイーツに関してもできるだけ自分たちの手で、自分たちの目の届く範囲で最良のものを選び、手作りするようにしたいと考えています。
――素晴らしいですね。でも、そうなると今後メニューを増やそうとなったら大変じゃないですか?
たしかに大変ではありますが、一方でいろいろ挑戦してみたいという思いはつねにあります。
ただ、ニーズがあったからといって闇雲に増やすのではなく、しっかりとこだわってゲイシャに合うものを、絶対にこれが一番おいしいと胸を張って言えるものを作りたいですね。
――ちなみにこれまで採用されなかったメニューというのはあるんですか?
じつはあるんです。
私は自信を持って提案したアイテムだったんですが、他のスタッフからは「これじゃない」ということで、残念ながら不採用になりました。またいつか形を変えて再チャレンジしたいな、って勝手に思っています(笑)。
――メニューの決定は皆さんでされているんですね。
そうなんです。パティシエ、バリスタ、焙煎士がそれぞれ持っている「ゲイシャと合う」という感覚は結構違うので、全員一致というのはなかなか難しいんですが、全員がチームとしてやっているお店ですから、やはりチームの総意として「これ、いいよね」「おいしいね」と納得できるものじゃないと店頭に並ぶことはないです。
すでに販売しているメニューに関しても、それで完成とは思っていません。
たとえば、今お店で提供しているロールケーキですが、これまではトッピングのイチゴに「とちおとめ」を使っていました。それを先日から「あまおう」に切り替えたんです。
――どうしてですか?
今ちょうど「あまおう」が旬なんですよ。
やはり旬のフルーツが持っている「うまみ」というのは、他にはない特別なものなので、そういうところはうまく取り入れて、それに合わせてケーキの味も調整していきます。
既存のメニューもそれで完成ではなく、よりおいしくするためのアップデートはつねに必要なんです。
たとえばイチゴだったら、仕入れようと思えば夏でも仕入れることはできます。冷凍のものや外国産もあるので。でも、それがベストかと言ったら絶対にそうではない。イチゴだったら何でもいいというわけじゃないんです。
とくに素材の味は絶対的なものなので、今が旬の一番おいしいものにこだわりたいですね。
――そういう意味では、同じ農園のコーヒーでも毎年微妙に味わいが変わりますよね。
そうですね。ひと言でゲイシャと言っても、農園や収穫された年、精製の方法によって味や香りは大きく変わりますので、その時々のコーヒーの状態に合わせて、スイーツの味も調整を行っています。
当店ではつねに数種類のゲイシャコーヒーをご用意していて、それぞれ個性が異なるんですが、ある程度、味の方向性は定まっているんです。そのバランスを見ながらスイーツの味も柔軟に変えていく、またそれに合うようなメニューを開発することを心がけています。
野心的な新メニュー開発にも意欲的
――こんなにステキなスイーツだと「お土産」としても喜ばれそうですが、テイクアウトはできるんですか?
お店でお出ししているスイーツは、一部を除いてお持ち帰りも可能です。
コーヒーもスイーツもお店で召し上がっていただくのが一番おいしいのは間違いないんですが、そのおいしさを誰かとシェアしたいとか、ご自宅でも楽しみたいというお客様もいらっしゃると思いますので。
また、お持ち帰り用のアイテムとして、「ゲイシャ・メレンゲ」も先日より販売しています。コーヒーとして飲むだけではなく、「食べるゲイシャ体験」もご提案できればと思い、開発しました。
エスプレッソに使用する豆と同じくらい細かく挽いたゲイシャの豆がそのまま入っていますので、しっかりゲイシャの風味を味わっていただけると思います。
――おいしそうですね。今後も「食べるゲイシャ体験」をテーマにしたスイーツは増えていくんですか?
そうですね。やっぱり飲むだけではなく、「食べるゲイシャ」という切り口で斬新なものを提案したいという気持ちはあります。最上級のコーヒー豆が身近にあるわけですから、これを素材に使わないという手はないですよ。
ただ、飲み物もゲイシャ、食べ物もゲイシャとなると、どっちの味かわからなくなっちゃうので、そこはスタッフみんなと相談しながら「これはいいね」と思えるものをしっかり吟味していきたいです。
ゲイシャコーヒーに負けないスイーツの名店に
――まだ始まったばかりの「GESHARY COFFEE」ですが、今後どんなお店に育っていってほしいですか?
やはり「ゲイシャコーヒーの専門店」という触れ込みでスタートしていますので、いらっしゃるお客様のほとんどはコーヒーが目当てだと思うんです。
お店でケーキの並んだショーケースを見て初めて「あ、ケーキもやってるんだ」くらいの印象の方が多いのではないかな、と。
ですので、これからはコーヒーと同じくらい、スイーツを目当てに来てくださるお客様も増えていってほしいですね。
ゲイシャに寄り添うことを第一に考えてスイーツを作っていますが、もちろんケーキ単品でもおいしい、どこにも負けない最高のケーキだと自負して作っていますので、「GESHARY COFFEEのケーキが食べたい」といって来てくださるお客様がいたら、それは私にとって何よりも嬉しいことです。
パティシエとしては、もっとスイーツを目立たせたいという気持ちもあるんですが、あくまで主役はゲイシャですので。私の作るスイーツたちはゲイシャコーヒーを引き立てる名脇役というか、お互いに相手のよいところを引き出す名コンビというか、そういう関係でありたいと思っています。
「GESHARY COFFEE」を牽引するパティシエとして、新たなキャリアを歩み始めた板垣氏。
その口から紡がれる言葉のひとつひとつは、気鋭のパティシエらしく理想や情熱にあふれ、明るい表情からはこれからのお店づくりに賭ける明確な意志と強い意気込みが感じられました。
板垣氏の手掛けるスイーツの数々が、これからの「GESHARY COFFEE」にどのような彩りを添え、どんなブランドへと育てていくのか、今後の展望がとても楽しみです。
最高のゲイシャコーヒーと、それを引き立てる最高のスイーツ。他のカフェでは決して真似することのできない、唯一無二にして最上級の体験を求めて、この週末は「GESHARY COFFEE」へ足を運んでみてはいかがでしょうか?
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