昔、バカみたいに忙しいイタリアンで働いていた。当時寝不足で出勤することの多かった僕は、エナジードリンクを一気飲みしてから営業に臨んでいた。しかし値段は300円と高く、その金額は当時の僕にとって二日分の食費に相当する大金だった。
そんな不憫な僕を見かねた店長が「エスプレッソ飲めば?」と言ってくれたのだ。聞けばエスプレッソには覚醒作用があるとのこと。僕の思い込みを激しい性格も手伝ってかエスプレッソを飲むと過剰なまでに陽気になった。もしかしたらイタリア人の陽気な性格は“コーヒーの覚醒作用”が関係しているのかもしれない。まずはイタリアとコーヒーの関係から解説します。
イタリアのコーヒー文化の始まりとは
エスプレッソやカプチーノ・カフェラテの発祥地として知られるイタリア。イタリアにコーヒーが伝わったのは1600年初頭です。ちなみに日本にコーヒーが伝わったのは1641年なのであまり変わりませんよね。ですが当時の日本ではコーヒーの味が受け入れられず、普及したのは数百年先になります。
イタリアではローマ法王がキリスト教徒に勧めたことや、イタリアの食文化にマッチしたことなどがコーヒーの普及に繋がりました。今でもコーヒーはイタリア人に欠かせないものですが、中でも特に人気のあるエスプレッソはどのように誕生したのでしょうか?
エスプレッソの誕生。デミタスカップが先に誕生していた
1806年にナポレオン1世が輸出を制限するベルリン勅令を発布したことにより、イタリアでコーヒー豆が不足します。この事態を乗り切るため、カフェ・グレコのサルヴィオーニはカップの大きさを通常の三分の二にしてコーヒー豆を節約したのです。これがいわゆる「デミタスカップ」の誕生です。
小さいカップでコーヒーを飲むというスタイルは流行し、1901年エスプレッソマシンの開発者ルイジ・べゼラによって「デミタスカップ+エスプレッソ」という図式が確立されました。もし、ベルリン勅令がなかったらデミタスカップではなく、通常サイズのカップで、量の多いエスプレッソを飲んでいたかもしれません。
イタリア人のコーヒー消費量と立ち飲みの文化
日本人一人当たりのコーヒー消費量は年間約340杯ですが、イタリア人の消費量は約577杯という統計が出ています。つまり一日1杯以上は確実にコーヒーを飲んでいることになります。そしてドリップ式コーヒーよりも断然エスプレッソの消費量が多いそうです。
街にはバールと言われる喫茶店が立ち並び、地元の人の憩いの場所となっています。バールではバリスタに飲みたい物を告げ、立ち飲みするのが本場のスタイル。ほとんどの人がエスプレッソを飲んでいますが、朝食を取る人はカプチーノ・カフェラテなどを飲んでいます。他のコーヒーは主に観光客がオーダーすることが多いようです。
イタリア人の陽気さの理由
この記事を書き終わり、イタリア人の陽気さはコーヒーの覚醒作用よりもバールに隠されているんじゃないかと思い至った。イタリアのバールの数は15万件。日本のコンビニ設置数の約2倍というから驚きだ。つまり他人と触れ合う場所が多いので自然と社交性が高くなるのだろう。他国の人間はその社交性の高さが陽気に見えるのだと思う。
あれ? じゃあ、僕がエスプレッソを飲んで陽気になっていたのは……やっぱり思い込みだったのかもしれない。