バリスタが腕を競う大会と聞くと、「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

 

しかし、コーヒーのスペシャリストが出場する大会はひとつだけではありません。

 

ここでは、バリスタたちがコーヒーの抽出技術において世界一になることを夢見て出場を目指す「ワールド・ブリュワーズ・カップ」、さらに一般社団法人日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が主催 するコーヒー抽出競技会「ジャパン・ブリュワーズ・カップ(JBrC)についてご紹介いたします。

『ワールド・ブリュワーズ・カップ』とは?

コーヒー業界に携わる人々が注目するワールド・ブリュワーズ・カップとは、どのような競技会なのでしょうか?

 

ワールド・ブリュワーズ・カップの開催目的は?

2011年、ヨーロッパのスペシャルティコーヒー協会とアメリカのスペシャルティコーヒー協会により、ワールド・コーヒー・イベンツ(World Coffee Events)が設立されました。2017年にヨーロッパとアメリカのスペシャルティコーヒー協会は統合され、新たにスペシャルティコーヒー協会となって約40ヵ国以上が名を連ねていますがが、ワールド・コーヒー・イベンツは依然として国際的なコーヒーのイベント管理組織として活躍しています。

 

ワールド・コーヒー・イベンツはいくつか国際的なコーヒー競技会を執り行っていますが、ワールド・ブリュワーズ・カップ(WBC、またはWBrCとも略される)もその内のひとつです。ワールド・ブリュワーズ・カップは、「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」や「ワールド・ラテアート・チャンピオンシップ」と並び、世界的に権威のあるコーヒーの国際競技会として認識されており、フィルターコーヒーの抽出技術とサービスクオリティの向上を目的として開催されています。

 

手作業によるコーヒー抽出技術を競う大会

2020年には新型コロナウィルスの世界的な流行のために開催されませんでしたが、ワールド・ブリュワーズ・カップは2011年から毎年開催されている大会です。開催場所はワールド・コーヒー・イベンツの組織委員会によって決定され、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップやワールド・コーヒーロースト・チャンピオンシップ、およびワールド・ラテアート・チャンピオンシップと併せて開催されます。

 

ワールド・ブリュワーズ・カップではエスプレッソマシンなどの機械を一切用いず、ペーパードリップ、ネルドリップ、フレンチプレス、エアロプレスといった手動の器具のみが用いられることに。大会では競技者たちが手作業で淹れたブラックコーヒーの味が競われますが、抽出技術や知識に加えて、競技者の個性や創意工夫が問われます。

 

ジャパン・ブリュワーズ・カップとは?

ワールド・ブリュワーズ・カップに出場するには、各国の関連組織が開催するブリュワーズ・カップで優勝しなければなりません。日本国内で行われる大会は「ジャパン・ブリュワーズ・カップ(JBrC)」と呼ばれ、ワールド・ブリュワーズ・カップと同様に、ペーパードリップ、ネルドリップ、フレンチプレス、エアロプレス等の抽出器具が用いられます。

 

ジャパン・ブリュワーズ・カップの準決勝・決勝においては、大会公式のコーヒー豆ではなく、参加者が選んだコーヒー豆が競技に使用されます。コーヒーの味が採点されるのはもちろん、参加者が自ら選んだコーヒー豆の魅力をプレゼンテーションして審査員にアピールしなければなりません。

 

ジャパン・ブリュワーズ・カップと似た競技会に、「ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオンシップ(JHDH)」がありますが、こちらはペーパードリップとネルドリップに特化した大会です。予選では大会公式のコーヒー豆が用いられ、コーヒーの抽出技術とブラックコーヒーの味が評価されます。

 

ワールド・ブリュワーズ・カップのルールは?

同じコーヒー関連の国際競技会でも、それぞれ大会ごとにルールは異なります。ここでは、ワールド・ブリュワーズ・カップの競技構成とルールについてご紹介します。

 

器具の持ち込みが可能

ワールド・ブリュワーズ・カップの予選は必修サービスとオープンサービスの2つの競技から成っており、決勝はオープンサービスのみで構成されています。どちらの場合も、コーヒー豆を粉砕するためのグラインダーや抽出器具、カップなど、競技で使用する器具を持ち込むことが許可されているため、競技者のこだわりを反映することが可能です。

 

持ち込み可能なコーヒーの抽出器具は手動であることが条件となっており、ペーパーやネルドリップだけではなく、フレンチプレスやエアロプレスも含まれます。コーヒーと水の比率に厳しい制限はありませんから、競技者の独自性を活かすポイントになるでしょう。

 

コーヒーの淹れ方の条件としては、エスプレッソと特別するためにTDS2%以下でなければならないということだけです。

 

TDS(Total Dissolved Solid)とは、抽出されたコーヒーの中にどれだけコーヒー成分が含まれているかを数値化したもので、濃度のことを指します。エスプレッソはTDS10%近くありますが、スペシャルティコーヒー協会が定めた一般的なドリップコーヒーのTDSは1.15〜1.35%です。

 

予選から決勝へ

必修サービスでは、大会主催者側から提供されたコーヒー豆を使用して、審査員のために3つのコーヒーを用意しなければなりません。香り、風味、後味、酸味、ボディ、バランスなどに基づいて評価され、100点満点で集計されます。

 

オープンサービスの場合には、競技者は自分で選んだコーヒー豆を抽出することに加えて、プレゼンテーションのために10分間の時間が取り分けられることに。コーヒー豆の産地から抽出方法、テイスティングノートを説明するプレゼンテーションは、コーヒーの味と同じく採点対象になりますから、入念に準備をしなければなりません。オープンサービスは140点満点で集計されます。

 

予選を通過した6名が決勝に進むことができ、決勝ラウンドではオープンサービスのみで競技が行われます。こうして6名の競技者の中から、最高得点をはじき出した選手のみがワールド・ブリュワーズ・カップ・チャンピオンの名を手にします。

 

新しい規則の導入も

2021年に開催されたワールド・ブリュワーズ・カップでは、新型コロナウィルスの予防措置に焦点が当たった新しい規則が導入されました。これまでと比べるといくつか変更点があったようですが、これにはソーシャルディスタンスを取り入れることが含まれています。

 

新型コロナウィルス感染予防策を意識した規則が今後も継続されるかどうかは状況次第ですが、競技者への影響を最小限に抑えるよう配慮しながら競技が行われることでしょう。

 

ワールド・ブリュワーズ・カップで活躍したバリスタたち

ワールド・ブリュワーズ・カップでは、さまざまな国の代表者たちがバリスタとしての腕を競い合います。ここでは、これまで大会で活躍してきた日本に所縁の深いトップバリスタたちをご紹介します。

 

2016年のチャンピオン・粕谷哲さん

ワールド・ブリュワーズ・カップ2016で見事世界一に輝いた粕谷哲さんは、チャンピオンとして日本人初・アジア人初の快挙を成し遂げました。病気をきっかけに、粕谷さんは20代後半でIT業界からコーヒー業界に転職し、バリスタとして知識と技術を磨いたといいます。

 

ワールド・ブリュワーズ・カップで優勝することによってコーヒーのスペシャリストとしての影響力を持った粕谷さんの使命は、おいしいコーヒーを紹介することだけではありません。

 

粕谷さんは現在も、以前はあまり注目されることのなかったバリスタの職業的地位を引き上げ、コーヒーに関連する正しい情報を伝える務めを果たしています。

 

スイス代表のチャンピオン・深堀絵美さん

ワールド・ブリュワーズ・カップ2018では、スイス代表の深堀絵美さんが優勝を果たしました。旅行会社で会社員として働いていた深堀さんですが、2014年のバリスタチャンピオンが淹れたスペシャルティコーヒーに魅了され、コーヒーの世界に足を踏み入れます。

 

現在、深堀さんは2016年から共同経営者であるマシュー・タイスさんと共に、チューリヒ市内でコーヒーショップ「MAME」を営み、バリスタとして活躍しています。また、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ2021では、世界第4位の成績を収めました。

 

2021年大会で世界第2位に輝いた畠山大輝さん

ワールド・ブリュワーズ・カップ2021で世界第2位に輝いた畠山大輝さんは、2019年には、ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオンシップ とジャパン・ブリューワーズ・カップ のチャンピオンの座を獲得しました。

 

国内のコーヒー関連の大会で史上初の同時優勝を達成した畠山さんですが、現在はオンラインショップ「ビスポーク」で個人向け(場合によっては企業にも)にコーヒー豆を販売しています。

 

 今後のワールド・ブリュワーズ・カップに注目しよう

いくつかあるコーヒー関連の国際競技会の中でも、ワールド・ブリュワーズ・カップは手作業で淹れるコーヒーに特化した大会です。2011年からはじまった競技会ですが、これまでにアイルランド、オーストラリア、アメリカ、ギリシャ、ノルウェー、日本、台湾、スイス、中国代表のバリスタが優勝を勝ち取っており、スイスにおいては2018年と2021年の計2回チャンピオンを輩出しています。

 

近年では、アジアの国々出身のバリスタたちも頭角を現してきているため、彼らの活躍から目が離せないのではないでしょうか。また、ワールド・ブリュワーズ・カップにおいては、南米などのコーヒー生産国の代表者たちがチャンピオンに輝いたことはまだありません。

 

近い将来、すばらしいバリスタがそれらの国々から現れる可能性も高く、ぜひ今後もワールド・ブリュワーズ・カップに注目していきたいですね。

 

 

▼世界チャンピオンの独占インタビュー記事

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画像引用・参考サイトURL:

https://worldcoffeeevents.org/

http://www.worldbrewerscup.org/

http://www.yutari.jp/

https://cafec-jp.com/

https://www.swissinfo.ch/

https://europeancoffeetrip.com/

https://ottencoffee.co.id/

https://scaj.org/

 

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