アメリカで3番目に人口が多いフロリダ州は温暖な気候と美しいビーチが特徴ですが、最近では企業の進出先として人気となっており、急速に成長している経済圏のひとつです。そんなフロリダ州のセントピーターズバーグで、話題になっているコーヒーロースターがあります。
本記事では、スペシャルティコーヒーの世界では新しいロースタリーでありながらも、ほかのコーヒーロースターとの差別化に成功した、『Hogg Batch Coffee(ホッグ・バッチ・コーヒー)』をご紹介します。
目次
『Hogg Batch Coffee(ホッグ・バッチ・コーヒー)』の誕生
2019年に、デュアン・ホッグさんとデイビッド・ホッグさんという双子の兄弟によって創業された『Hogg Batch Coffee(ホッグ・バッチ・コーヒー)』。まだ新しいコーヒーロースターながらも、ユニークなコーヒーを提供していることで注目を集めています。
起業家精神に富んだ双子
コネチカット州出身のホッグ兄弟がフロリダ州に引っ越したのは、南フロリダ大学の大学院に進学するためでした。アートデザインスクールに通っていたこともある彼らは、クリエイティブなことが大好きで、在学中にアパレルビジネスや動画ビジネスを副業にしていたこともあるといいます。
大学院卒業後、デュアンさんはJPMorgan Chase & Co.に、デイビッドさんはNew York Lifeのデジタルマーケティング部門に就職しました。日中、会社員として忙しく働く彼らは、フロリダ州セントピーターズバーグのグランドセントラル地区にあるロースタリーを週末にのみオープンさせます。二足の草鞋を履く彼らは自分たちが立ち上げたコーヒービジネスに夢中ですが、意外なことに会社勤めをするまではあまりコーヒーを飲まなかったのだとか。
「コーヒーとの出会いは会社勤めがきっかけでした。オフィスの休憩室で同僚たちと飲む機会が多かったんですが、そのときはコーヒーの味が好きというよりは、カフェインを摂取するために飲んでいたようなものですよ。」と、デイビッドさんは語ります。そんなデイビッドさんがコーヒーにハマるようになったのは、彼の奥さんがスターバックスなどのプレミアムコーヒーブランドを紹介したことがきっかけでした。
コーヒービジネスをはじめたきっかけ
コーヒーのおいしさに気づいたデイビッドさんは、コーヒー豆の焙煎に興味を持つようになります。最初は焙煎についての知識がほとんどなかったため、自宅にあったポップコーンマシンでコーヒー豆の焙煎に挑戦したこともあったのだそう。
その後、コンロを使用する家庭用焙煎機を購入すると同時に、いろいろなコーヒー豆を試飲するようになりました。抽出方法もエスプレッソだけではなく、ハンドドリップ(プアオーバー)やフレンチプレスなど、さまざまな方法を試すようになり、コーヒーの奥深さに魅了されていきます。とはいえ、自分でコーヒーを焙煎するのは単なる趣味のひとつだったといいます。
デイビッドさんがコーヒービジネスをはじめるきっかけになったのは、2017年に休暇で訪れたテネシー州チャタヌーガのギフトショップで見つけた、樽熟成コーヒー(バレルエイジドコーヒー)との出会いでした。
これまで飲んできたものとはまったく違う風味を持つコーヒーに衝撃を受けた彼は、「自分もこんなコーヒーを作ってみたい!」と思います。その当時、フロリダでは樽熟成コーヒーはめずらしく、なかなか手に入りませんでした。
すばらしいビジネスのアイデアを得たデイビッドさんは双子の兄弟であるデュアンさんと共に、樽熟成コーヒー作りを開始します。こうして、2019年1月に正式にホッグ・バッチ・コーヒーを立ち上げました。
スペシャルティコーヒーをすべての人に届けたい
アメリカのスターバックス店舗数は世界でも群を抜いて多いため、どこにでもあるように思いますが、じつはアフリカ系アメリカ人が多く住む居住区にはあまりカフェをオープンしない傾向にあるのだそうです。またスペシャルティコーヒー業界で活躍しているアフリカ系アメリカ人はまだまだ少ないといいます。
このような背景ゆえか、デイビッドさんとデュアンさんは、自分たちがスペシャルティコーヒーの世界で成功を収めれば、アフリカ系アメリカ人たちがもっとスペシャルティコーヒーに興味を持つようになると考えています。
「多様性が認められるようになったといいますが、スペシャルティコーヒーの世界にはまだまだ多様性が欠けていると実感しています。コーヒー豆の多くはアフリカや南米など有色人種が住む地域で栽培されているのに、コーヒー文化の最先端は白人たちによって形作られてしまう。
アフリカ系アメリカ人のコミュニティの中には、最高級のコーヒー豆がアフリカで生産されていることを知らない人だっているんです。僕たちはスペシャルティコーヒーをあまり飲まない人、飲んだことがない人、飲むきっかけがない人などすべてにアプローチしたいと願っています。」と、デイビッドさんは語っています。
『Hogg Batch Coffee(ホッグ・バッチ・コーヒー)』のコーヒー
フロリダ州には、ほかの州同様、たくさんのコーヒーショップやコーヒーロースターがあります。しかし、競合ひしめく業界に果敢に飛び込んだデイビッドさんたちは、自分たちの製品に大きな自信を持っています。
ふつうのコーヒーとはひと味もふた味も違うと評判のホッグ・バッチ・コーヒーのコーヒー。いったいどのようなコーヒーなのでしょうか?
ユニークなフレーバーの熟成(エイジング)コーヒー
樽熟成コーヒーの魅力にとりつかれたデイビッドさんたちは、すぐさま新品の小さな樽を購入。彼らは樽に蒸溜酒を入れて熟成させた後、その樽の中にコーヒー豆を保管します。「樽」を作る作業からはじめたため、コーヒーを焙煎するまでにはかなりの時間を要しましたが、完成したコーヒーの出来はすばらしいものでした。
「最初はアメリカンオークの新品の樽を使用して、一から十まですべての工程を自分たちでやっていました。満足のいく成果を得ることができたけど、ビジネスにするには現実的な方法ではないと気づいたんです。
そこで地元の蒸溜酒製造所に協力してもらうことにして、バーボンやウィスキーの樽からはじめて、ラムやジン、その他のワインやスピリッツの樽を試してみました。最近では、ロゼの樽で熟成させたコーヒーもあります。」と、デイビッドさんは述べています。
樽熟成コーヒーを作るには、1~2ヵ月もの間コーヒー豆を樽に保管しますが、2〜3日に一度、中身をかき混ぜる必要があります。乾燥した樽よりも湿った樽を使用したほうが風味が早く染み込みますが、風味がしっかりついたかどうかを見分けるには、感覚と経験のみが頼りです。
差別化に成功
「まず樽を探すことからはじめて、次はその樽にふさわしいコーヒー豆を探し出し、樽とコーヒー豆の風味を合わせることが重要です。これまで僕たちが作ってきたものの中でも最高の組み合わせだと思ったのは、オールドトムジンの樽を使用した『コーヒー+ジン』。これは、想像を絶するほど良い味だと断言できます。
『コーヒー+ウイスキー』や『コーヒー+バーボン』も人気です。今度発売する『コーヒー+シェリー』なんて、女性受けするんじゃないかな。僕たちのコーヒー作りはいつも実験みたいなもので、新しいコンビネーションを生み出すことに、いちばんやりがいを感じています。」と、デュアンさんは述べています。
添加物や化学物質を使わずに自然の風味を引き出し、最高の品質と風味を保証するために、少量生産に重点を置くホッグ・バッチ・コーヒー。ほかのコーヒーロースターが販売している製品と比べると、ホッグ・バッチ・コーヒーのコーヒーの価格は決して安いとはいえません。それにもかかわらず、リピーターは増える一方で、彼らのビジネスは成功を収めています。
「僕たちには、定番アイテムと呼べる製品がありません。ほかのコーヒーロースターは同じ生産者からコーヒー豆を購入していますが、僕たちはコーヒー豆の種類や仕入先の多様性に重点を置いています。僕たちのビジネスモデルは、いわばほかの会社とは正反対です。
常に変化する製品ラインナップこそが、ホッグ・バッチ・コーヒーが競合他社との差別化要因だといえるでしょう。月替わりでコーヒーを提供しているから、お客さんたちも僕たちのコーヒーを楽しみに待っていてくれるんじゃないかな。」と、デイビッドさんは成功の理由について述べました。
困難な時期を乗り越えた『Hogg Batch Coffee(ホッグ・バッチ・コーヒー)』
会社を立ち上げてわずか数カ月後、ホッグ・バッチ・コーヒーは大きな壁にぶつかります。パンデミックの影響で、地元のファーマーズ・マーケットでの対面販売を中止せざるを得なくなり、一時は事業の停止も検討しました。
しかし、デイビッドさんとデユアンさんは、自動車王と呼ばれるヘンリー・フォードの『今こそ大きなチャンスの時である。だがそれを知っている人は実に少ない。』という言葉を思い出し、生き残るためにあらゆる方法に挑戦します。
その結果、それまで注力していなかったインターネットによる販売に移行し、驚くほどの成功を収めました。現在、ホッグ・バッチ・コーヒーはグランドセントラル地区セントラルアベニュー2327番地にロースタリーを構えていますが、ウェブサイトからも彼らが作るすばらしいコーヒーは購入可能です。気になったという方は、ぜひ下記の公式ウェブサイトを訪れてみてはいかがでしょうか。
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