コーヒーが好きな人ならお気に入りの産地や銘柄などがあると思います。
ですが『コーヒーの品種』について知っている人はあまりいないかと思います。なぜなら、コーヒーの品種は多岐に枝分かれしており、その全てを知るにはとても時間が掛かるからです。
ここでは基本的なコーヒーの品種やルーツを解説します。
まずは品種の原点とされる『ロブスタ種』『アラビカ種』『リベリカ種』3つから解説していきます。
目次
全てはここから始まった。3大品種『コーヒー3原種』とは?
品種改良される前のコーヒー。つまり『原種』。飲用されている原種は主に3つに分かれます。
・アラビカ種
世界で一番多く生産されているコーヒーの原種です。
その理由は他の2原種に比べ品質に優れている(コーヒーとして美味しい)からです。
ですが、ロブスタに比べ収穫量が低く、病害虫に弱いので頻繁に品種改良されています。主にレギュラーコーヒー用として栽培されています。
・ロブスタ種(カネフォラ種)
現在、流通しているコーヒーの約30%を占めていると言われている原種です。
『ロブスタ種』という名前の由来は英語の『Robust(強靭な)』からきている通り、他の2原種に比べ病害虫に強く、環境に左右されにくいという特徴を持っています。
苦味と香りが独特でレギュラーコーヒーには向かず、インスタントコーヒーや缶コーヒー用の豆として栽培されています。
・リベリカ種
流通量がわずか1%未満のコーヒーの原種です。理由としては病虫害に弱く、品質も良くないことが挙げられます。現在は西アフリカの一部の地域で栽培されています。
コーヒーだけではなく、食品は品種改良の歴史に彩られています。
その理由は大きく分けて『味の向上』と『栽培(飼育)をしやすくするため』の2つです。
特にコーヒーは後者を目的とした品種改良を何度も繰り返しています。
それはコーヒー豆の元となる『アカネ科コーヒーノキ』という種が病害や虫害にさらされやすいということが理由となります。より美味しく、より強い種になるように品種改良されたコーヒーのルーツはどのようなものなのでしょうか。
基本的なコーヒーの品種を図解します。
今回はコーヒーの流通量の約70%を占めるアラビカ種にスポットを当てていきます。
まず、上図を見るとアラビカ種から2通りに枝分かれしているのが分かると思います。
ひとつは『エチオピア在来種』です。これはその下のティピカと並んで最古のアラビカ種と言われています。
近年話題となった『ゲイシャコーヒー』がこれに当たります。
まだ発見されてない、もしくは商業化されていないアラビカ種は数多くあると言われています。もしかしたら近い将来、ゲイシャコーヒーのような素晴らしい味のコーヒーが発見されるかもしれませんね。
続いて『ティピカ』。
酸味・風味・甘味・コクが優れており、流通しているアラビカ種のコーヒーのほとんどがこのティピカのルーツを辿っています。
なぜ、これほど優れた品種が改良の対象になってしまったのでしょうか。それは、病害に弱く、生産性の低さにありました。1967年まではティピカ種100%の豆が流通していましたが、生産性が悪いという理由からその数はどんどん激減し、今ではほぼ手に入らない幻のコーヒー豆となりました。
さらに上図でティピカの下に伸びる線に『コナ』や『ブルーマウンテン』といった聞き覚えのある銘柄があるかと思います。
これらの品種はティピカなのですが、栽培された地域に違いがあるのです。『ティピカ』という品種はエチオピアからイエメンに渡ったコーヒーノキの子孫に当たります。
そして、このティピカが他の地域――例えばジャマイカに渡ったとします。ジャマイカで育ったティピカは後の『ブルーマウンテン』になったのです。
不思議な話ですが、コーヒーノキは栽培される環境によって特徴に変化が表れます。
このようにコーヒーノキが環境に適応するため性質を変えることを『突然変異』といいます。次項ではティピカ種から突然変異したコーヒーの品種を解説していきます。
ティピカの突然変異種は多岐に渡ります
現在も栽培・流通されており、交配種としても用いられるティピカの突然変異種を紹介していきます。
・マラゴジーペ(マラゴジッペ)
マラゴジーペのルーツはブラジルで生まれたといわれており『ティピカの突然変異種』です。(リベリカ種との交配種との説もあります)。豆の大きさがなんと約7.5cm(スクリーン19)!
それだけではなく、葉も樹木も巨大なため、収穫が難しく流通量はわずか全体の2.5%ほどとされています。ほのかなコクと酸味から『上品なコーヒー』とされています。
・ケント
現在でもコーヒー農園の頭を悩ませる『サビ病』。
この病害はコーヒーの葉にカビ菌が付着し、生育を止め最後は木を枯らしてしまうという恐ろしい疫病です。1920年にインドで発見されたティピカの突然変異種『ケント』はサビ病に強く、インドをはじめケニア、タンザニアに広まりました。
・スマトラ
スマトラは有名な銘柄『マンデリン』に含まれる品種です。ティピカの突然変異種としてインドネシアのスマトラ島で発見されました。強いコクと苦味を持っていることからブレンドの豆としてもよく用いられます。
・ブルボン
イエメンからブルボン島(現フランス領 レユニオン島)に持ち込まれたティピカが突然変異して誕生したとされる品種です。丸型で小粒の豆で香りやコク、甘味に定評がありますが、病害虫に弱く収穫量が安定しないため品種改良の交配種としてよく用いられます。
品種改良され、現在も流通されている品種とは?
ティピカが様々な国渡り、その国の風土に合った品種に変貌し、さらには品種改良されていきます。
・『スマトラ×ブルボン=ムンド・ノーボ』
生産量が安定しない・病害虫に弱いという欠点をもつブルボン種を品種改良したのがムンド・ノーボという品種です。
成長速度が速く、生産量も多いのでブラジルを代表する品種として流通するようになりました。
そして上図のムンド・ノーボから伸びる線の先に『アカイア』という品種があるかと思います。これは新しい品種ではなく、ムンド・ノーボを栽培するなか、果実が大きい個体同士を交配させたものになります。アカイアもムンド・ノーボと並ぶブラジルの人気商品です。
・『アマレロ』と『カツーラ(カトゥーラ)』
ティピカが突然変異したように、他の豆も突然変異を起こすことがあります。特にブルボン種から突然変異した『アマレロ』と『カツーラ』は黄色のコーヒーチェリーを実らせるのです(通常のコーヒーチェリーは赤)。
アマレロはブルボンと比較して樹高が低いので栽培しやすく酸味と甘味、コクが強くでます。ブルボン種の『優勢突然変異』と言われています。
続いて『カツーラ』はブラジルで発見されたブルボンの突然変異種です。低気温や病害虫に強いと言われていましたが、ブラジルの気候に合わず、現在では主にコロンビアやコスタリカで栽培されています。やや強い酸味と渋味が特徴です。
・『ムンド・ノーボ』×『カツーラ(カトゥーラ)=『カツアイ』
ムンド・ノーボは生産量が高いのですが、樹高が高いという欠点を持っています。
それを補うためにカツーラと品種改良されて作られたのが『カツアイ』という品種です。
この改良により生産性が向上し、病害虫にも強いカツアイが誕生しました。カツーラの名残として赤と黄色のコーヒーチェリーを実らせます。
コーヒーのルーツを知ることとは
コーヒーの『銘柄』に詳しければ美味しいコーヒーを飲むことには困らないかもしれません。
今回、解説した『コーヒー豆のルーツ』を知ったとしても、それが美味しさに直結するとは思いません。では、『ルーツを知る』ということにはどんな意味があるのでしょうか。
それは、生産性の向上、味の追求、ひいては『人』と『コーヒー』の強い結びつきを感じるためだと思います。