コーヒー業界の“今”を支えるトップランナーたちにお話しを伺うプレミアムインタビュー。
第4回となる今回は、他業種からバリスタへと転身し、わずか数年でJapan Brewers Cupを優勝、World Brewers Cup 2016ではアジア人初となる世界チャンピオンに輝いた、日本が世界に誇るトップバリスタ・粕谷哲さんを迎えてのインタビューです。
直近では、梶真佐巳氏とともに株式会社PHILOCOFFEAを設立。バリスタ・トレーニングのため世界各国を飛び回りながら、ご自身のコーヒー事業も展開するなど多方面に活躍されています。
そんな粕谷氏の今とこれからについて詳しくお話をお伺いしました。
粕谷哲 Tetsu Kasuya
PHILOCOFFEA 代表 青山学院大学大学院ではファイナンスを選考し、卒業後はベンチャー系IT企業に就職する。その後、1型糖尿病を発病、入院生活中にコーヒーに目覚める。本格的にバリスタの道に進むため、現COFFEE FACTORYに入社。 2015年2月Japan Aeropress Championship 2015 優勝。2016年6月World Brewers Cup 2016にて日本人初の決勝進出、そしてアジア人で初めて世界チャンピオンに輝く。2011年東日本大震災で石巻市へボランティア活動の場で梶氏と出会う。この出会いから6年後、共同で株式会社PHILOCOFFEAを船橋市で立ち上げる。 |
個人から組織へ。自分の拠点をつくりたかった。
── 独立した理由と変わったことがあれば教えてください。
会社を起こした理由は、個人で活動できる賞味期限とでも言うんでしょうか。限界のようなものを感じ始めたからです。やっぱり自分ひとりの力でできることって限界があるじゃないですか? もっと大きな仕事にしっかりと取り組んでいきたい、そう思った時に会社という組織の力が必要だと強く感じたんです。
個人では受けきれない仕事も、会社という受け皿があれば動かすことができますし、それで会社が潤えば、自分の目標により早く近づくこともできる。僕と同じ志を持った仲間が集まれば、より大きな枠組みで物事を進められると考えたんです。
そして、自分の活動拠点となるベースがほしかったということも起業した理由のひとつですね。
気持ちの面では、それほど大きく変わりはありませんが、意識の持ち方は、以前とは少し変わってきたかなと思います。個人ではなく会社になったことで活動範囲が広がりましたし、人を雇用して養う立場になったことで責任感は以前より増しました。
── 梶さんとは意気投合して起業された流れでしょうか?
梶さんとは2012年の石巻市での震災ボランティアで出会いました。そのときは、まだコーヒーにも目覚めていなく、まさかその6年後に一緒に会社をやることになるとは思いもしませんでしたね。
その後、私がバリスタになり、大会に出場するようになって再会したんです。それから、エアロプレスという器具を使った大会で日本チャンピオンになってから一緒に仕事をする機会があり、次第に交流を深めていきました。
私がWBrCで優勝し、次第に自分の基盤となる会社を持ちたいと考えたタイミングで「一緒にやらないか」と話を持ちかけてもらい共同で設立することにしました。
まさか石巻市で出会った2人が一緒にコーヒーの会社を始めるなんて、本当に人生は何が起こるかわからないものですね。これもすべて糖尿病のおかげだと思っています。
PHILOCOFFEAでは、「あらゆるところにコーヒーを届ける」というコンセプトを掲げています。影響力の及ぶ範囲が違う、僕と梶さんが組むことによって、結果的により多くの方々に「あらゆるところにコーヒーを届ける」ことができるとも考えました。
おかげさまで僕も梶さんも今とても多くのお仕事をさせていただいていまして、同じ会社にいても一緒に行動することは、ほとんどないんです。
僕は、大会に出場し、お店では、焙煎をはじめ品質管理をしています。またスタッフトレーニングやブランディングに関わる業務に注力したりしています。
梶さんには、ビジネス販路の拡大やマーケティングを中心に動いてもらっています。それぞれが得意な分野で頂点を目指している感じですね。
それぞれの得意とするステージが違うからこそ、物事をより多角的に見ることができるし、「あらゆるところにコーヒーを届ける」というコンセプトにもつながっていくと思っています。
コーヒーでつなぐミッション。今、僕ができること
──PHILOCOFFEAのコンセプトについて、もう少し詳しく教えてください。
「あらゆるところにコーヒーを届ける」というのは、コーヒーに関わる、すべてのことを意味しています。
コーヒーをひとつのきっかけとして、”いろいろなところにもっと豊かな生活や新たな雇用を生み出し、届けていきたい”という想いも込められているんです。僕たちが作るコーヒーで雇用や生産、消費といった新しいサイクルを生み出していきたいですね。
また、「あらゆるところに」というコンセプトのとおり、僕たちはコーヒー業界だけが活動のステージだと思っていません。たとえばバーテンダーの方と新しいカクテル開発の仕事もしていますし、料理人の方々とのコラボなどもやらせていただいています。新たな雇用という点では、障がい者の方々と一緒にコーヒーのドリップバッグの開発を行い、商品化のお手伝いもさせていただきました。
今は日々、いろいろな業種の方とタッグを組んで、新しいコーヒーの活用方法や可能性を模索しているところですね。
── 異業種へのアプローチはどのようにされているんですか?
きっかけ作りは、最初のちょっとしたお声がけを大切にすることですね。そこでほんのわずかな可能性も見逃さないようにしています。友人や仕事でお付き合いのある方とお会いする時にも、雑談の中で「コーヒーを使って何かできないですかね?」と持ちかけてみる。そこから話がトントン拍子で動き出すことも結構あるんですよ。
たとえば、ここPHILOCOFFEAのお店は、IKEA東京ベイさんとコラボなんです。使っている家具など、すべてIKEA東京ベイさんがプロデュースしてくれています。
── なぜ「イケア」とコラボするんですか?
僕たちがコラボしているのはIKEAではなく、IKEA東京ベイさんで、そこに意味があるんです。イケア東京ベイさんは、PHILOCOFFEAと同じ船橋にあるIKEAの店舗なんですよ。ここ船橋には「船橋コーヒーダウン化計画」という取り組みがあるんですが、参加しているのは個人経営のカフェや喫茶店ばかりだったんです。
そこで、船橋を代表するIKEA東京ベイさんに加わっていただき、「船橋コーヒータウン化計画」に参画していますと示すことができれば、町おこしにもつながるんじゃないかと思い、コラボをご提案しました。店舗にIKEA東京ベイさんのロゴを入れるのもその一環です。
PHILOCOFFEAという場所の使命について
── 今の活動の中で足りていないと感じる部分はありますか?
僕たちのお店、PHILOCOFFEAは、スペシャルティコーヒーを専門に扱っています。スペシャルティコーヒーのおいしさや価値を多くの人に広く知ってもらい、届けたいと考えているんです。しかし、一般の方々からすると、スペシャルティコーヒーは値段が高く、普段飲むコーヒーとしては、なかなか手を出しづらい。
お客様が感じる価値と適正価格に大きなズレがあるのは個人的に問題だと感じています。スペシャルティコーヒーがとても貴重な豆であることや、その価値に見合った価格について、もっと知っていただくことはこれからの僕たちの活動で必要なことだと思っています。
PHILOCOFFEAはそのための場所でもあるんです。この場所で、今の自分たちにできることを全力で広めていく。これこそが大切なことだと感じています。
「できることを、わかることから」です。
Vol.2では、ご自身の大会出場を決意した真意やトップバリスタとしての挟持などを語っていただきます。
【粕谷 哲さん】「大会は自分の100点を出す場ではない」世界の頂点に輝いた彼は、今も挑戦し続ける Vol.2
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