家事や仕事の合間に、栄養ドリンク代わりにコーヒーを飲み干している……。「コーヒーブレイク」とは無縁の忙しい日々を過ごしている方に、訪れてみてほしい場所があります。
千葉県富津市金谷。海のそばにある「カフェえどもんず」は、白川郷から移築された古民家で営まれているカフェです。長年コーヒーに携わってきたマスターと支配人の美光さんが淹れる一杯のコーヒーは、至福のひとときを演出するこだわりの味。築230年の古民家で、日々の気ぜわしさを忘れられるひとときを過ごしてみませんか?
今回は、千葉県富津市金谷にある「カフェえどもんず」のマスターにお話を伺いました。
目次
「3つの味」を大切に。ひとも味わい深いカフェ
カフェえどもんずには、ふたつのモットーがあります。ひとつは、「3つの味を大切にすること」。そして、もうひとつは「開店前、閉店間際のお客様には商売の神様が宿っているため、大切にすること」です。
「3つの味」とは、来店時の「前味」、コーヒーを味わってもらう「中味」、退店時の「後味」のこと。その言葉通り、カフェえどもんずでは、誰かが訪れると「いらっしゃいませ」、帰る際には「ありがとうございました」の声が自然に生まれます。
常連さんが訪れると、そのまま「いらっしゃい。元気にしているの?」と会話が始まることも。「おふたりの雰囲気が好きなんです」という声は、お店のFacebookにも寄せられています。
もうひとつのモットー、「開店前、閉店間際のお客様も大切にすること」には、思い出に残るエピソードがあります。
ある日の閉店間際。マスターは東京から来た男性客ふたりを迎え入れたのだそうです。そのときはお湯を沸かし直してコーヒーを振る舞い、彼らを見送りました。後日、突然お店にNHKから取材打診の電話が入ります。
「基本的に取材は断っていたからね、そのときも断ったんですよ。それでも、何度も繰り返し掛かってきまして。そして、最後にかけてきたのが、閉店間際に来店した彼だったんです」
客として訪れていた彼の「町おこしにもつながりますから」との言葉を受け、マスターは取材を承諾します。その結果、放送されたのが「ふるカフェ系 ハルさんの休日」の第1回です。
「NHKは海外でも放送されますからね。これをきっかけにして、海外から来るお客様も増えたんですよ。こちらも演技をしなければいけないので、収録は大変だったんですけどね。でも、『商売の神様』は本当だったなあと思いましたよ」(マスター)
ふたつのモットーは、コーヒーに携わる仕事をされていたマスターのお父様の言葉が由来。しかし、今ではすっかり「カフェえどもんず」が大切にしたいこととして、おふたりに染みこんでいます。
「コーヒーは心のBGM」じっくりと味わう時間を楽しんで
マスターは、コーヒーに携わる仕事をしていたお父様の影響もあり、子どもの頃から焙煎を趣味で始めた筋金入りのコーヒー好き。カフェえどもんずにある目を見張るほどのマシンの数々は、マスターが店を開く前から集めてきたものです。
取り扱っているコーヒー豆は、品質の上位5%にあたるもの。200種類ものコーヒー豆を揃え、すべて店内で焙煎しています。
このように、コーヒーに対する強い想いを抱いているマスターですが、「コーヒーは主役じゃないんですよ」と語ります。
「コーヒーは心のBGM。主役は、コーヒーを飲みながら交わされる会話など、ほかのものなんです。だから、わたしは『コーヒーは語るものじゃない、味わうものだよ』と話しているんです」
そもそも、マスターがカフェえどもんずを開くきっかけになったのは、コーヒーが理由ではありません。きっかけは、金谷に住む友人の「この古民家を使って、町おこしができないか」という相談でした。
2011年の東日本大震災。海辺の町である金谷は、観光客が遠のいて活気を失ってしまいました。友人は、移築されたまま放置されていた古民家の持ち主。「何とかして、金谷を盛り上げたい」とマスターに声をかけ、古民家カフェをオープンすることになったのです。
開店から7年目を迎える今でも、マスターは毎日東京から通っています。「海と山が近い金谷も大好きですが、江戸っ子として東京も捨てがたいんですよね」と話してくれました。
現在、支配人を務める美光さんは、3年前からカフェえどもんずで働き始めました。コーヒーが好きで、小物雑貨店の元オーナーだった美光さんも、カフェえどもんずの雰囲気を作るひとりです。
一杯のコーヒーをゆっくり飲む至福のひととき
カフェえどもんずを訪れると目を惹くのが、カウンターの上にある氷出しコーヒーです。氷が溶ける水で、じっくりゆっくり抽出したコーヒーは、アイスコーヒーとしても、温めてホットコーヒーとしても楽しめる一杯です。
余談になりますが、筆者は苦めのコーヒーを好みながらも、ブラックは苦手。しかし、カフェえどもんずでいただいたコーヒーは、ブラックでおいしくいただけました。ただ苦いだけではない甘味と酸味の程よいバランスを、会話を楽しみながら味わいます。(この日の氷出しコーヒーはマンデリン)
そのほか、取材に訪れた夏の時期に人気だというメニューを教えていただきました。
暑い時期に飲みたいアイスコーヒーやアイスオレは、コーヒーが薄まらないよう、氷もコーヒーで作られています。カフェえどもんずのコーヒーの基本はフレンチプレス。タイマーが鳴ってからいただきます。
また、筆者がはじめて飲んだのが、「果肉茶」です。
果肉茶とは、コーヒー豆の果肉部分を乾燥させて作られたお茶。写真手前のグラスに入っているものが果肉です。コーヒーとは異なる、果物のような香りがしました。
お茶も、言われなければコーヒーの果肉とは気づかない味わい。さっぱりとしていて、喉ごしも爽やかでした。メニューには「プーアール風味」と紹介されています。
古民家を守りながら、これからもおいしいコーヒーを
カフェえどもんずは、今も古民家を修復しながら営業を続けています。古民家を守っていくために、またお客様ひとりひとりへのおもてなしの質を守り続けるために、マスターたちが選んだのは2度目以降の来店の会員制。1,000円の入会金を支払えば、会員証がもらえますよ。入会金は古民家の修復費用に充てられます。
「アメリカン・エキスプレスカードにも負けてないよ!」と話すお茶目なマスター。筆者も会員になりました。
会員になると、2階に上がることもできるように。合掌造りの屋根裏のほか、ずらりと展示されている美術品が見られます。
思わず寝転がりたくなる開放感。(「ふるカフェ系」でもハルさんが寝転がっていました)美術品は時期ごとに展示物が異なるそうです。
2階への階段から望むカウンター内の雰囲気も抜群。店内は禁煙ですが、「パイプはOK」なのだとか。「たばこの副流煙みたいに、周囲の人に害がないんですよ」と豆知識を披露しながらパイプをくわえるマスター。絵になる姿です。
「ペットボトルコーヒーや缶コーヒーなど、いろいろなコーヒーがありますよね。今度私の方でも新しいコーヒーを販売する予定なんですよ」
そう話して教えてくれたのが、「スプーンプレス」で淹れるコーヒー。ティーパック式のコーヒーです。
「ティーパック式のコーヒー自体はすでにあるんですが、あまり評判が良くないんですよ。そこを覆すものが、こちらなんです」
焙煎したてのコーヒーをパックに詰めたこちらは、紅茶のようにお湯に漬けるだけではなく、一定時間を置いたあとにスプーンでプレスしていただくもの。フレンチプレスと同じ要領で、お好みの濃さに淹れられるのだそうです。
「先に海外で発売するつもりなので、日本での発売はまだ少し先になる予定ですが」と前置きをしながら、今回ご紹介してもいいと許可をいただきました。
電車や飛行機での利用も視野に入れているのだそう。おいしいコーヒーが手軽に飲める日が来るのが待ち遠しいですね。
おふたりのポーズは手話の「I Love You」です。「ただおいしいコーヒーが飲みたいだけではなく、カフェえどもんずに行きたいと言ってくださる方のために、これからもがんばっていきますよ」
いつまでもいたくなる居心地の良い「カフェえどもんず」は、東京都内から約1時間。何だか疲れてしまったときや、忙しさに心がトゲトゲしているときに訪れたいお店です。