いまから約200年前の時代に生きた人物、ナポレオン・ボナパルト。
ナポレオンは、ジャンヌ・ダルク、シャルル・ド・ゴールと並ぶ、フランスの国民的英雄のひとりに数えあげられます。フランスでは豚に「ナポレオン」と名づけることが法律で禁止されており、ナポレオンがいまでもフランス国民から敬愛されていることがうかがえます。そんなナポレオンですが、じつはコーヒー好きだったことでも有名です。
本記事では、ナポレオンが残したコーヒーにまつわる逸話をご紹介します。
目次
ナポレオンの出世に貢献したコーヒー
アルコールよりもコーヒーを愛した偉大な英雄ナポレオン。人類史上もっとも優れた指揮官と名高い彼は、どのようにして成功を手に掴んだのでしょうか?
ナポレオンが出世街道を歩むまで
フランス皇帝の地位にまで上り詰めたナポレオンも、最初はフランス占領下だったコルシカ島出身のしがない軍人でした。しかし、ナポレオンには実力と運が備わっていたようです。卒業まで通常は4年ほどかかるフランスの陸軍士官学校をわずか11ヵ月で卒業したナポレオンは、コルシカ島独立運動の指導者と対立後、家族ともどもフランス本土に移住します。
故郷であるコルシカ島を追われ、フランス政府にコネもツテもなかった貧しいナポレオンは、傷心の日々を送る中、「ボーケールの晩餐」という小冊子を自費出版します。コーヒーを飲みながら執筆を完成させたであろうこの小冊子により、熱烈なジャコバン派であることをアピールしたナポレオンは、すぐにフランス軍の砲兵隊長に抜擢されました。その後、フランス革命政府の中心人物だったロベスピエールの実弟オーギュスタンに気に入られ、1年たらずの間に大尉から少将へと大出世を果たします。
フランスのカフェ文化とナポレオン
まだお金に余裕のない軍人だったころから、ナポレオンはカフェに入り浸り、革命家たちと政治信条を語ったり議論したりする習慣がありました。18世紀半ばのフランス・パリには、500軒以上ものカフェが軒を連ねており、18世紀後半には1800軒ものカフェが存在したといわれています。
当時のカフェはコーヒーを提供するだけではなく、芸術家たちの集うサロンとして、さらには革命家たちが意見を交わす政治サロンとしての役割を果たしていました。コーヒー代を支払うことができず、ときには軍用帽子を代金の代わりに置いていったナポレオン。革命家たちが集うカフェでのひと時がなければ、出世のきっかけとなった小冊子を執筆することもなかったのではないでしょうか。
生涯を通じてコーヒーを愛し続けたナポレオン
人生の全盛期にも衰退期にも、コーヒーはナポレオンにとってかけがえのないものでした。
最強のフランス軍の公式飲料はコーヒーだった
ナポレオンはフランス軍の兵士たちに、「勇気を引き出してくれる飲み物」としてコーヒーを与えました。実際にナポレオンが指揮するフランス軍は負け知らずの快進撃を続け、ヨーロッパのほぼ全域を支配下に置きます。数多くの戦いに勝ち、勝率は9割を超えていたというから驚きです。圧倒的な強さを誇ったナポレオン指揮下のフランス軍でしたが、その秘密はダブーやマッセマといった優秀な部下たちに恵まれたことと、公式飲料のコーヒーにあったといえるかもしれません。
ナポレオンの失脚もコーヒーのせい?
35歳という若さでフランス皇帝の座に就いたナポレオンでしたが、コーヒーで勝ち取った成功をコーヒーで失うことになります。1806年、イギリスに経済的な打撃を与えようと行なった大陸封鎖令により、輸入品やコーヒーが入手しにくくなってしまいました。このことがフランス国民やヨーロッパ諸国の反感をあおり、やがてナポレオンは失脚し二度の島流しにあいます。
1816年、絶海の孤島であるセントヘレナ島に幽閉されたナポレオンは、「ここ(セントヘレナ島)ですばらしいものといえばコーヒーだ」と述べたといわれています。東インド会社の記録によると、1732年にイエメンのモカ港からセントヘレナ島にコーヒーが持ち込まれ、コーヒー栽培がはじまりました。
最期までコーヒーを飲みたがったナポレオン
フランス近代史上もっとも偉大な英雄は、セントヘレナ島で生涯を閉じることになりました。体調が悪化し、コーヒーを飲むことを止められていたナポレオンは、「スプーン1杯だけでもいいからコーヒーをくれ」と周囲の人に懇願していたようです。死後解剖の結果、ナポレオンは胃がんが原因で亡くなったとされていますが、ヒ素中毒説や暗殺説も疑われています。しかし、ナポレオンの死因の謎はそれだけではありません。飲むことを禁止されていたにもかかわらず、彼の胃の中からはコーヒーの滓が見つかったと伝えられています。
英雄とコーヒーの切っても切れない関係
ナポレオンは生粋のフランス人ではありませんでしたが、天才的な軍事センスと政治手腕により、後代にまで語り継がれるほど偉大な英雄になりました。彼の残した数々の逸話からもわかるように、51歳でこの世を去ったナポレオンの人生には、コーヒーが欠かせないものであったことは間違いないといえるのではないでしょうか。