現在のコーヒー市場の9割以上は、アラビカ種とロブスタ種で構成されています。しかし実際には、知られているだけで124品種ほどのコーヒーが存在するといわれており、ステノフィラ種コーヒーはそれらの品種のうちのひとつです。いまではほとんど市場に出回っていませんが、つい最近になってシエラレオネで野性のステノフィラ種コーヒーが発見されました。
本記事では、シエラレオネのステノフィラ種コーヒーの歴史に加え、長きに渡って市場から消えた品種が、これからコーヒーの未来を変えると期待されている理由についてご紹介します。
目次
半世紀以上も姿を消したステノフィラ種コーヒー
あまり知られていないステノフィラ種コーヒーですが、いったいどのようなコーヒーなのでしょうか?
失われたコーヒーの発見
ステノフィラ種コーヒーとは、西アフリカにあるギニア、シエラレオネ、コートジボワール一帯で見られる固有種のコーヒーのことです。これまで、自生しているステノフィラ種コーヒーはギニアとコートジボワールで発見されたことがありましたが、シエラレオネにおいては1954年以降見つかっていなかったといいます。
しかし2018年、イギリス・グリニッジ大学の研究者らの手によって、シエラレオネの首都から南東約200マイルのところに位置する険しい丘の上で、約15本の野生のステノフィラ種コーヒーの木が発見されました。
シエラレオネのステノフィラ種コーヒー
西アフリカに位置するシエラレオネ共和国は、ギニアとリベリアに挟まれた小さな国です。アフリカ大陸のコーヒー大国であるエチオピアに比べると、コーヒーの原産国としての知名度はほとんどありませんが、かつてはステノフィラ種コーヒーを生産していました。
意外なことに、1890年代にはステノフィラ種コーヒーが市場を支配しはじめ、1920年代になるとさらに頻繁に取り引きされるようになります。ステノフィラ種コーヒーはアラビカ種よりも高品質のコーヒーとみなされ、ヨーロッパではとくにフランス人が好んで飲んでいたのだとか。現在では希少品種であるステノフィラ種コーヒーですが、100年ほど前には決してめずらしい品種ではありませんでした。
ステノフィラ種コーヒーが姿を消した理由
1800年代初めにイギリスの統治下に入ったシエラレオネですが、イギリスによる植民地支配は150年以上に渡って続きました。その間もシエラレオネではステノフィラ種コーヒーの生産が行われ、国外に輸出されるまでになります。ところが、1950年代にイギリスによってロブスタ種が持ち込まれると、ロブスタ種よりも栽培に手のかかるステノフィラ種コーヒーの生産をやめる農家が続出しました。
さらに、政府軍と反政府軍の間で10年以上も続いた「ダイヤモンド内戦」の影響でたくさんの人が畑を捨て、コーヒー産業は壊滅的な打撃を受けることに。2002年になってようやく内戦は終結しますが、荒れ果てた畑でコーヒーを育てることをゼロからはじめなくてはならなくなったために多くの人々がコーヒー生産から手を引き、シエラレオネのコーヒー産業は衰退の一途を辿り現在に至ります。
ステノフィラ種コーヒーが『2050年問題』の希望に?
今後30年以内に起こると予測されるコーヒーの「2050年問題」。
ステノフィラ種コーヒーが、この問題の解決策になると考えられる理由についてご紹介します。
おいしいコーヒーが気軽に飲めなくなる時代がくる?
地球温暖化の影響はコーヒー産業にも及んでいます。温暖化が進むとアラビカ種の栽培に適した場所がなくなり、2050年には現在の約半分になってしまうのだとか。これをコーヒーの「2050年問題」と呼びますが、このままいくとコーヒー生産量第1位を誇るブラジルも温暖化の影響を受けて、将来的に60%以上もの栽培適地を失う可能性があるといわれています。
生産できる地域が限られているため、栽培地が減少するとコーヒーの収穫量も減り、これまでのように気軽にコーヒーを飲めなくなってしまう恐れが……。それだけではなく、コーヒー生産者の数が減ることで十分な世話ができず、コーヒーの品質低下を招く可能性もあると言われています。
コーヒー産業に携わる人々は当然のことながら、コーヒーを愛飲する人々にとっても脅威となる「2050年問題」。なんとしても解決策を見出したい問題ですが、ステノフィラ種コーヒーの発見によって救いがもたらされるかもしれません。
気候変動に強いステノフィラ種コーヒー
コーヒーはさまざまな生育条件をクリアしないと栽培できず、平均気温が約20℃前後、なおかつ日中と夜間の温度差が激しい地域で育てる必要があります。それらの条件を満たすのが赤道付近にある「コーヒーベルト」と呼ばれる一帯ですが、それらの国や地域の中でも標高が高い場所で栽培しなければなりません。
しかしながら、ステノフィラ種コーヒーはアラビカ種やロブスタ種よりも暑さに強く、平均気温24.9度でも生育可能です。このような理由からステノフィラ種コーヒーは気候変動に強い品種であると考えられており、近い将来に直面する可能性が高いコーヒーの「2050年問題」を解決するコーヒーとして注目されています。
また、ステノフィラ種コーヒーは、内戦と疫病のせいで経済発展が妨げられてきたシエラレオネの希望の光ともいえるようです。アラビカ種以上ともいわれる味の良さを求めて、これから消費者たちの間でステノフィラ種コーヒーの需要が高まると予想できるでしょう。
おわりに
通常、コーヒーは種をまいてから成木になるまで3年ほどかかります。シエラレオネのコーヒー産業が完全復活するまでにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、来るべきコーヒーの「2050年問題」を解決するための時間もまだ残されているのではないでしょうか。
いずれにしても、めずらしいステノフィラ種コーヒーを、日本でも気軽に飲める日がはやく訪れることを心待ちにしたいですね。
参照サイトURL:https://perfectdailygrind.com/