コーヒーの実が収穫されて、コーヒーとして飲めるようになるには様々な加工が必要です。「ナチュラル」「ウォッシュド」といった精製方法もこの工程のひとつ。これらの精製方法によってコーヒーの味わいはかなり異なりますが、これにはコーヒーの実の果実や皮の除去方法が大きな影響をもたらしています。
今回は、コーヒーの実のパーツとしてはひときわわかりづらい、「ミューシレージ」という部分についてご紹介します。
目次
コーヒー豆の「ミューシレージ」とは?
コーヒーの実は小さなサクランボのような形をしていますが、種の部分以外のつくりはほとんど似たようなものです。簡単に言ってしまえば果皮があって果肉があって、種がある。
コーヒー豆のミューシレージとは、この果肉の種の間にある粘質(ぬめり)の部分です。(サクランボの種の周りにちょっと残る、あの部分と考えるとわかりやすいかも。)
ミューシレージの内側には薄い膜があり、これは「パーチメント」と言いますが、別の記事にてご紹介します。
では、ミューシレージはコーヒーの精製方法や風味とどのような関係があるのでしょうか。代表的な精製方法3つとミューシレージの関係についてまとめてみました。
コーヒーの精製方法について詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
ミューシレージを全て除去する「ウォッシュド」
南米などでよく見られるウォッシュド・プロセスでは、収穫したコーヒーの果実の果皮・果実を水洗いによって取り除いたのち、ミューシレージも取り除いてから乾燥/脱穀を行います。
ミューシレージを取り除く方法はいくつかありますが、発酵槽につけたりミューシレージ除去用の機械による方法が多く取られます。
ウォッシュドで精製されたコーヒーは、他の製法に比べてシャープでフルーティな輪郭になる傾向があります。コーヒーの種以外全て除去してしまうため、種が元から持っていたフルーツの風味がそのまま出やすいのかもしれませんね。
ミューシレージや果実を残して乾燥させる「ナチュラル」
ブラジルやエチオピアで主に用いられるナチュラル・プロセス。ミューシレージや果実、果皮まで残したまま天日干しにて乾燥させる方法です。
水洗や果肉除去施設のコストが必要なく、収穫したコーヒーをそのまま天日干しするので簡便であると言えますが、反面、小石などの不純物が多くなる傾向があるようです。
ナチュラルのコーヒーはウォッシュドよりも甘みがあり、複雑な風味が生まれやすいとされています。赤や黒のチェリーの風味やワインのような香りが特徴的であると評されることも。コーヒーの果実の成分がコーヒー豆に凝縮されることで生み出される風味であると言えるでしょう。
ミューシレージだけ残して乾燥する「パルプドナチュラル」
ウォッシュドとナチュラルの合わせ技が、パルプドナチュラルと呼ばれる製法です。水洗処理によって果肉までを除去して、ミューシレージは残った状態で乾燥工程へ。
まさに、ウォッシュド+ミューシレージの風味を残すという方法なのですが、比較的新しめの製法です。
クリーンな風味と甘さを共存させるために開発された手法で、ブラジルや中米などでよく使われています。マンデリンの製法で知られる「スマトラ式」もパルプドナチュラルの一種として分類されます。
余談ですが、コスタリカではミューシレージのことを「ミエル」と呼び、公用語であるスペイン語では蜂蜜を意味する「miel」と発音が同じだったことから「ハニーコーヒー」とも呼びます。甘さを強調した売り文句の一環なのかもしれません。
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聞きなれないけど今後の発展を握る?ミューシレージ
前述のパルプトナチュラルで最先端とも言われるのが中米コスタリカなのですが、コスタリカでは数年前に、他のコーヒーのミューシレージにつけて発酵処理をするという、なんとも奇特な製法(アナエアロビック・ファーメンテーション)が国際品評会の上位に食い込みました。
この翌年には炭酸ガスの充填や香辛料の浸漬など、今までは思いつかなかったアイデアがどんどん実用化を見せています。
コーヒーのフォース・ウェーブはもしかすると、すぐそこまで迫っているのかも。しかもその引き金は、この聞きなれない「ミューシレージ」だったのかもしれません……。