苦味のあるコーヒーが好きですか? それは「本当に好きな味わい」でしょうか。

 

そんなことをあらためて考えたくなる、透き通った味わいを楽しめるコーヒーを出す自家焙煎珈琲店が埼玉県所沢市にあります。自家焙煎珈琲 beans shop Kieido(キエイドー)

 

店主・寺内さんは元植物病理学・植物育種学の研究者という変わった経歴の持ち主。農学博士の知見を活かしたKieidoだけで味わえるコーヒーは、多くのファンに愛されている格別の味わいです。

「ブラックで飲みたい」喉を優しく通り抜けるオリジナルブレンドコーヒー

 

カフェでコーヒーを選ぶとき、どのように選んでいますか?

 

「苦めが好き」「酸味があるものが好き」と、「苦味・酸味」を判断基準にしてはいませんか?

 

「実際に苦味が強いものを好まれる方もいますが、実際のところは『酸味が苦手だから苦い方が…』と消去法で選んでいる方も少なくないんです」と寺内さん。

 

「苦味を打ち消すために、無意識にミルクや砂糖を入れている方もいらっしゃいます。入れて飲むのが好きなわけではなく、ブラックのままでは飲めないから加えているんですね」

 

そんな寺内さんが淹れるKieidoのオリジナルブレンドは、ブラックコーヒーでおいしく飲めるのが特徴。「Kieidoブレンド」「Dr.ブレンド」「めざましブレンド」の3種類から選べます。今回は「Dr.ブレンド」をオーダー。農学博士である寺内さんのこだわりが詰まったブレンドです。

 

Kieidoのコーヒーは、すべてネルドリップ式。さまざまな淹れ方を試した結果、「1番おいしい」と行き着いたのがネルだったのだそう。

 

「ネルは手入れの手間がかかりますし、おいしく淹れられるようになるまでが難しいんです。でも、一度ネルドリップのおいしさにハマってしまうと、ほかの淹れ方では物足りなくなってしまいますね」

 

 

お湯の温度は83度。淹れ終わるときの湯温は81度程度と、温度管理も厳密に行なわれています。このお湯の温度も、寺内さんが35年以上実験を続けて見つけ出したベストな温度。ドリップ中のポット内の湯温変化も、3,000~4,000回は測定しています。

 

「お客様にお話する内容も、自分が試したことしか話しません。たとえば、ペーパーフィルターに関することもそのうちのひとつ。茶色と白、どちらのフィルターの方がいいと思いますか?」

 

寺内さん曰く、ペーパーフィルターは漂白された白いものの方がいいのだそう。茶色のフィルターは紙特有のにおいがコーヒーに移ってしまうのだとか。

 

「これも、僕自身が実際に比較しています。何となく自然のままの茶色がよさそうだと思っている方は多いんですよ」

 

筆者自身、その「何となく茶色」を選びがちなタイプ。これからは漂白タイプを買おうとインプットします。

 

 

お湯が沸き、いざドリップ。この時間だけは、何となく口を閉ざします。ゆっくり抽出されていくコーヒーを見つめながら、淹れ終わりを待つ時間はとても贅沢。次第にコーヒーのいい香りが立ちこめます。

 

 

一口飲んでびっくり。混じりけのない、するすると喉を通っていく感覚は、これまで味わったことのないものです。

 

「これが、えぐみがない、ということなんです。透き通っている見た目も特徴ですね」

 

驚く筆者に、寺内さんが説明してくれました。確かに、まるでお茶のような透明感。混ざりけのなさが見た目からも伝わります。

 

「うちのコーヒーは、『冷めてもおいしい』という特徴もあります。ブレンドしている豆の香りが沸き立つ時間差が活かされているため、味わいも変化するんです。ぜひ、最後のひとくちは冷めてから飲んでみてくださいね」

コーヒーとの出会いは小4の頃。自分で辿り着いたコーヒーのおいしさ

 

ここでひとまず、寺内さんとコーヒーとの出会いについてご紹介します。寺内さんがコーヒーと出会ったのは、小4の頃のこと。自宅台所にサイフォンがあったのを見つけ、試してみたのが始まりでした。

 

「全然おいしくなかったですね。それでも、何度も試し続けて。そんなある日、珈琲豆の中に割れているものがあることに気づいたんです。『割れたものや色の変な豆を除いてみたらどうなるんだろう』と思い、試してみました。すると、全然味が違ったんですね。そして、取り除いた割れた豆、変な色の豆だけだけでも淹れてみました。すると、どうでしょう。こちらはえぐみを感じさせる味わいだったんです」

 

「おいしくなかったのは、割れた豆や変な色の豆が混ざっていたせいだったんだ」と小学生のときに気づいた寺内さん。それからは、より分けてコーヒーを淹れるようになります。このときに寺内さんが行き着いた方法は、「ハンドピック」と呼ばれるものでした。

 

今では、生豆でハンドピックを一度行ない、毎朝焙煎後にもう一度行なうという手間ひまを掛けています。焙煎後の豆は自然光の下でなければ見分けがつかないのだとか。そうした手順を踏んだ結果が、あの優しい喉ごしのコーヒーなのですね。

 

小学生にしておいしいコーヒーに目覚めた寺内さん。中高時代には銀座まで珈琲豆を買いに出向き、コーヒーを飲み続けます。大学時代には自家焙煎珈琲店に通うように。そこで出会ったのが、ネルドリップでした。大学の研究室に持ち込んでまで、毎日ネルドリップコーヒーを飲む日々を送ります。

 

研究者としてやりたい夢を叶えた先にあったのが、コーヒーの仕事だった

大学・大学院時代には植物病理学・植物育種学を学んでいた寺内さん。卒業後は農業研究センターで研究員として働き始めます。このときの寺内さんの目標は、植物病理学の分野で最も権威のあるアメリカ植物病理学会誌にファーストオーサーとして論文を掲載すること。そして、見事この目標を叶えたとき、寺内さんの頭のなかに浮かんだのが、もうひとつの夢――コーヒー関係の仕事に就くことだったのです。

 

農学の知見は、コーヒーにも活かされています。

 

「農学の知識や育種の経験を基にコーヒーの世界を理解できるのが強みですね。本などから、どの品種を掛け合わせたものなのかを知っている方はいるのですが、『では、なぜその品種を掛け合わせたのか?』までを理解している方は少ないんです。背景まで理解できることで、コーヒー豆の特徴も深く理解できます。店で採用するコーヒーの銘柄選びや焙煎度の設定、ブレンドづくりにも役立ちますね」

 

コーヒー豆は農産物。同じ農場の同じ品種であったとしても、その年の天候によって品質が変わります。また、保存期間によっても含水量など品質が刻々と変化しますので、その都度焙煎の度合いを変える必要があります。そうした作業ひとつを取っても、農学知識は役立つものなのです。

 

「コーヒーが苦手」な人にこそ、KIEIDOのコーヒーを飲んでみてほしい

 

Kieidoが開業したのは2016年3月12日。それ以来、「Kieidoのコーヒーが飲みたい」というお客さんが多く訪れています。

 

いつでも同じ味を楽しめるように。生豆の選定を始め、焙煎度合いにも日々こだわり続けている寺内さん。試行錯誤と探究心に終わりはありません。

 

「コーヒーが苦手だという方や、ブラックコーヒーは飲めないという方にこそ、ぜひKieidoのコーヒーを飲んでみてもらいたいですね」と語ります。

 

インタビューの終わりに、すっかり冷め切ってしまった残りのコーヒーをいただきました。最初の一口目と異なる、ふわっとした酸味が香り、思わず目を見開きます。

 

「ね、変わるでしょう?」微笑む寺内さんにうなずきました。

 

最後の一口までえぐみのない、まろやかな味わい。ゆっくり味わいたいときはもちろん、勉強や仕事の合間に少しずつ飲みたいときにもぴったりです。

 

コーヒーのうんちく話を聴きながら、ゆっくりコーヒーを味わう時間を。こだわりが詰まった一杯を味わえるお店です。

 

【自家焙煎珈琲豆 Kieido(キエイドー)】

住所:〒359-1123 埼玉県 所沢市日吉町7-6

電話:04-2925-7757

HP:https://beansshopkieido.com/

開店時間:11:00~19:00

休業日:月曜

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