最近は割と、日曜日は何の予定も入れないことが多い。
予定がなくてもわざわざ入れるということを、いつからかしなくなった。
実は前もずっとそうだったんだけど、ある一時、そういうことが出来なくなった時がある。
振り返ればの話で、その時はただただ楽しかっただけなんだけど、ね。
自分と向き合う時間も、割と悪くないことを時間と共にもう一度、再確認し始めたのかしら。
なんて……かっこいいこと言ってるけど好きなことを好きなだけ、
誰のことも気にせにずにしているだけなんだけどね(苦笑)
いつかの日曜日、外は雨が降っていたの。
ふだん雨はあまり好きじゃないけど、何もすることがない日の雨は最高に好き。
あの雨音が、リラックスさせてくれるのよね。
その日はお気に入りの傘を持って、読みかけの本を持って、ゆっくりくつろげるカフェへと向かったの。
60代くらいのマスターが1人で立つお店。
コーヒーの香りがゆっくりと店内に流れてくる感じが、最高に心地良いカフェ。
読書しながらその空間に癒されていたら、なんとも幸せそうな女性が1人、入ってきたの。
マスターと顔なじみのその女性は、静かにカウンターに腰を下ろすと
「マスター、私ね。決めました。再婚することに、したよ」
ちょうどカウンターに座っていた私は、マスターの表情を盗み見たの。
なんだろ、なんか神様みたいに微笑みながら
「あぁ。あの彼ならきっと大丈夫だよ。あなたが心配していた、前の旦那のようなことは起こらない。よく決心したね。おめでとう」
なぜか、私が言われたわけじゃないのに、胸の奥がアツくなった。
マスターの一言で、ぶわっと言葉が溢れだした彼女。
これまでの経緯、想い、離婚という経験をしたがゆえの心の鎖。
そんなことを静かにアツく、話し始めたの。
彼女:「今思えばまるで価値観は真逆、常にイライラさせられていた相手のことも、あの時は、なぜかかばっていた。マスターに言われた ”もう別れなさい”という言葉も無視して、「結婚てそんなもんでしょう」と思って、私の中の選択肢には『離婚』という言葉はなかった。
でも、相手の方から一方的に突き付けられた『離婚』の二文字。
あの時マスターが言った 「それは彼が言うことでは決してない。あなたが言うべきことだったのに……」という言葉にどれだけ救われたことか。人は、信じてもいい人と、そうじゃない人がいることを初めて知ったの」
彼女:「『離婚』っていうものは、決していいことではない。でも、決して、悪いことでもない。そんな風に思うようになったのは、今の彼と出会ってから。でもやっぱり『離婚をした』っていう現実がこわかったんです。開き直れなかった。でも、誰かと付き合ってこれだけ穏やかに過ごせることを、今の彼は教えてくれました。」
マスター:「変わってくもの、変わらないもの。あなたの中で、変わっていったものもあるんですよきっと。人はずっと『同じ』じゃいられないんです。きっとそれを、人は成長って呼ぶんですよ。変わらないもの。それは、あなたが人を、信じる気持ちだと私は思うんです。でもね、今のあなたは結婚前、結婚している時よりもずっとずっと、いい顔をしていますよ。大丈夫、安心して幸せになってくださいね。」
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隣の彼女を見たら、泣いていた。
ものすごくツラい経験は、いずれは成長の糧になるけど、やっぱりその渦中は、ただただツラい。
今穏やかな雰囲気をまとっている彼女からは想像できないほどの、ツライ日々を過ごしたはず。
離婚は決していいことではない。でも決して、悪いものでもない。
あぁ。この考えに至るまで、彼女はたくさんの壁を乗り越えてきたのでしょうね。
マスターと彼女は、もうずっと長い付き合いなのでしょう。
そんな方からこんなにも優しくてお守りみたいな言葉を言ってもらえたら、
彼女はきっと、大丈夫。大手を振って、幸せになれるはず。
マスターのことも彼女のことも知らない私だけど。
彼女のこれからの幸せな日々を、心から願わずにはいられなかった。
そこはコーヒーが柔らかく香るお店。
彼女とマスターの会話に、心をぐっと掴まれた、素敵な雨の日曜日だったわ。



