その日、38歳の誕生日を迎える親友と、お祝いを兼ねてテラスで過ごせるカフェに行った時のこと。
彼女がぼそっとこう言ったの。
「みんなに比べて、私は全然幸せじゃない」
親友との出会いは高校1年の時。16歳の春、同じクラスになった私達はすぐに仲良くなり、それからあっという間に22年が経った。過ぎてみればあっという間な日々だけど、もちろん今日まで、互いにいっろいろあった。
私の場合は上京して夢を追いかけたり、就職したり転職したり、フリーランスになったり、結婚したり離婚したり、そしてまた恋をしたりね。ざっと振り返るだけでも、この時代にしかできないことを結構してきたんだなぁと改めて感じる。
彼女も彼女で、上京して就職したり転職したり、転職先で不倫をしたり、世界各国を回ったり、仕事の合間を縫って宅建資格をとったり、また新たな転職先で不倫をしたり、新たな恋をしたりね。彼女も彼女で、濃い~時間を過ごしてきた。
そして互いに何かある度に、私達は「あーでもないこーでもない」と言い合ってきた。
最後はくだらない話題で爆笑しながら「まぁ頑張っていこう」って、日々を過ごしてきたのよね。
性格も考え方も、物事の捉え方も全てが真逆の私達は、なぜかとても馬が合う。互いにない部分があるからなのかもしれない。自分にはない考え方に救われた時も何度もあった。
だけど……、冒頭の「みんなに比べて、私は全然幸せじゃない」発言はさすがにいただけない。
よりによって自分の誕生日というめでたい日に。「なにそれ。どういうこと?」って聞いてみたら。
親友「誕生日だからこそ、今の自分を改めて見てみたの。そしたらさぁ、私ってば38歳にもなるのにまだ独身。その上言い寄ってくるのは既婚者ばっかり! 私も私でそんな人を好きになったりしてさ、バカみたいじゃん。不倫を断ち切って新しい恋をしてもうまくいかないし。
それに、ちょっと前までは人に比べて若く見えると思ってたけど、ここ最近でめっちゃ老けてきたしね。子供連れの家族とか見ると、自分が惨めでしょうがなくなるんだよね。どうして私ばっかり不幸なんだろうって、いつも思う」
りか「まぁうん、その憂鬱はわからなくもないけどね。でも私、あなたが不幸だなんて一度も思ったことないわよ? 自分のやりたい仕事をしてやりがいのあるポジションを貰って、休日は旅行に行ったり飲みに行ったり。めちゃくちゃ幸せそうだけどね。不倫してる時はたしかに不幸そうだったけど、しっかり縁切ったんだし、よかったじゃない」
親友「りかはいいわよ。一回結婚して、離婚したけど恋だってしてるし、楽しそうだし。りかと比べても私って可哀想だと思うよ」
りか「あのさぁ。不幸自慢なんてするつもりないけど、離婚当時の私のこと覚えてるよね。離婚だけでもズタボロなのに、同じ時期に会社まで倒産したんだよ。もし他の人と比べるなら、当時の私はなかなかの不幸具合だったと思うけどなぁ」
親友「じゃあ、りかもその時は、惨めになったの?」
りか「うーん。つらかったし相当大変だったけど、惨めとは思わなかったかも。他人と比べてどうのっていう思考がなかったからかな。それこそさっきの話だけどさ、子供連れの母親は、逆に私たちのことを羨ましい、いいなって思うこともあると思うよ。誰にもひけめを感じずに、こうしてお昼から自由気ままに会えることの貴重さを知ってるからね。
でも、世の中のお母さんたちだって、昔は私たちみたいな時間をきっと過ごしてきたはず。その頃は、それこそ今のあなたみたいに「結婚して子供産んで、そういう人がうらやましい」って思った人もいるかもね。
でも実際母親になってみたら、自由を謳歌する独身女性を羨んでる自分自身にふと気づく。そこで、“あぁそっか。人はいつまでたってもないものねだりな生き物で、それぞれの生き方を比べる意味ってないんだな”って気づくんだと思うのよね。
あなたもいい加減、人と比べて自分を卑下することから解放されたら? 今の内にその事実に気づいておくと、すごく楽になると思うよ」
親友「あぁ、そっか……。相手側から見たら私達が幸せに見えることもあるんだね。ってまたこれも比較か(苦笑)よし……。りか、私、すぐには無理かもだけど、今日から他人と比べないようにする。そしたら自分の人生も捨てたもんじゃないって、思えるかな」
りか「すでに充分いい人生歩んでると思うよ。そうだよ、人と比べて惨めになったり、逆に優越感に浸ったりって、そんなことして何になるの。それよりも、自分が楽しい、幸せだって思えることに注力したほうが結果幸せになるんじゃない?」
親友「うん。ありがとうりか。そうしてみる。じゃあ改めまして。誕生日おめでとう!私!(笑)」
りか「おめでとう~!!」
私、思うのよね。
他人と自分の人生を比べて悲観するなんて時間の無駄でしかない。どうして人は、すぐにその他大勢と自分とを比べて右往左往するのかしら。あなたの思う幸せと、その他大勢が思う幸せが違ってもいいのにって思わない?
そしてもし、自分が思い描く幸せが少しだけ遠くにある時でも、卑下したり悲観したりは決してしないでほしい。”今はまだちょっと先だけど、幸せな未来は近づいてるはず。それまでは今の自分が楽しめる最上級のことをしていこうっと”くらいに考えてほしい。
案外、そのくらいラフに考えていた方がうまくいったりするものだから。
こんな時代だけど、悲観癖がついてる人も、どうか肩の力を抜いて歩いていけますように。他人と比べる暇があるなら、自分のことをもっとちゃんと、見てあげてね。